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超巨大宇宙船が落ちて来てから十八年が経ちました:今日からあなたが艦長です!!  作者: なつのさんち
二〇四七年

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081:生徒会長

侵略(インベーダー)迷宮(ダンジョン)か。せーぎさんに絶対に行くなって釘刺されてっから行けねぇわ」


 昼休み、学食で艦治(かんじ)(つかさ)(まなみ)、良光(よしみつ)望海(のぞみ)、そして恵美(えみ)が昼食を摂っている。


「良いよ、良光は蒼井(あおい)さんとぼちぼちやってよ」


「せーぎって人はプロの探索者なんでしょ? そんな人が止めるほどの迷宮に、何で井尻君は挑むつもりなん?」


 当然の疑問を口にする恵美。恵美はもちろん、良光と付き合う事となった望海も、艦治の事情を伝えていない。


「外交大使のナギさんから<珠聯璧合(しゅれんへきごう)>への依頼だよ。この十八年間で一番攻略が進んでない迷宮だからね」


 穂波(ほなみ)真美(まみ)と話し合った結果、神州丸(しんしゅうまる)から正式に依頼を受けた、というテイを取る事にした。

 侵略迷宮の攻略は、入り口からわずか数百メートルも進められていない。なおかつ、ベースキャンプも設置されていない。

 定期的に探索者が侵略迷宮の状況を確認し、目視でインベーダーが増えていると判断された場合、迷宮の入り口(出口)の防衛の為にインベーダーを間引いている程度だ。


「金にならんからしゃあないよなぁ」


「でも、神州丸にとっては切実な問題なんだよね?」


 良光の割と冷めた発言に、望海が司の顔色を窺いならがそう口にする。


≪あれ? もしかして蒼井さんに説明してない?≫


≪……あっ、忘れてた。ってこの場で話すとマズイか。電脳通話で説明するよ≫


「切実な問題ではあると思うけど、僕ら人間とヒューマノイドでは体感時間が違うだろうし、実際どれだけ切羽詰まってるのかは分からないんだよね」


「へぇぁっ!?」


 艦治が望海へのフォローとして話している横で、まなみが望海へウィンクをし、驚いた望海が声を漏らしてしまう。


「え、何? 何が起こってるの?」


 一人だけ事情を知らない恵美が怪訝な表情で問い掛けるが、良光はしたり顔で人差し指を口に付けて小声で話す。


「知らない方が良い事も、あるんだぜ?」


「あ、うん。分かったー」


 あっさりと引いた恵美だが、艦治達が座っているテーブルの様子を窺っていた周囲の男子生徒達は、より艦治への興味と好奇心を高める結果となる。



 放課後、教室から出ようと思っていた艦治の元に、一人の男子生徒が歩み寄って来る。


「やあ、井尻君。ちょっと時間を貰えないかな?」


 細い銀縁の眼鏡を掛けて髪を後ろに撫でつけている、ややキザったらしいその男に、艦治は見覚えがなかった。


「えっと、誰?」


「……生徒会長の千石(せんごく)(わたる)だ。まさか僕を知らんとはな」


 インプラント埋入(まいにゅう)手術を受ける前は、極端に視力が低かった為、艦治は生徒会長の顔をまともに見た事はなかった。

 

「で、何の用?」


 さすがに艦治もこの流れには食傷気味だ。これからまなみと海底秘密基地に行く予定なので、適当にあしらう事に決めた。


「ごほんっ。

 君が探索者として非常に活躍していると知って、生徒諸君が君の話を聞きたがっているんだ。

 そこで、体育館で君に講演会を開いてほしくてね、その依頼に来たのさ」


「断る。じゃあね」


 亘を避けて教室を出ようとする艦治だが、男子生徒達が教室の扉前に詰めかけているので、外に出る事が出来ない。


「そこどいてくれる?」


「いや、生徒会長の話を聞いてくれよ」

「ちょっと説明してくれるだけで良いからよぉ」

「話をするだけで良いんだぜ?」

「俺らも稼ぎたいんだよ」

「頼むよ、おな高だろ?」


 さすがに暴力を振るう訳にもいかず、艦治が声を掛けるが、扉を塞いでいる男子生徒達が艦治へ身勝手なお願いを口にする。


「ほら、皆もこう言ってるんだ。講演会という堅苦しい言い方をしたので気後れしたかい?

 ただ君は体育館の壇上に立って、僕の質問に答えるだけで良いんだ」


 民意を得たとばかりに、亘がやや馬鹿にした表情で艦治に再度依頼をするが、艦治の気持ちは全く動かせられていない。


「だから、断るって言ったでしょ?」


「何故だ! 同じ学校に通う生徒が君に、井尻君に探索者として活躍するにはどうすれば良いかを教えてほしいとお願いしているんだ! 答えるべきじゃないか!!」


 質問すれば答えてが返って来て、依頼をすれば受けてもらえるものだと思っており、拒否されると怒る。優しく受け入れてもらえると思い込んでいるような人物は、艦治にとって迷惑な存在だ。


「対価は?」


「……何?」


「だから、僕が講演会に応じたとして、君達は僕に何を支払うつもり?

 まさか、ただで僕の生きた経験談を聞かせてもらおうなんて馬鹿な事は考えてないよね?」


 亘は非常に不愉快そうな表情を浮かべるが、確かに対価を考えていなかった自分の落ち度であると無理やり納得をし、深呼吸をしてから艦治へ問い返す。


「いくら欲しい?」


「僕は講演会なんてやりたくないんだ。そんな僕に対していくら欲しいか聞くの? 吹っ掛けるけど」


「……ああ、聞かせてくれたまえ」


 亘は艦治の態度が非常に気に食わないが、他の生徒の前で怒りを露わにするほど愚かではない。

 しかし、彼が想定しているよりも、艦治の要求する金額は高かった。


「じゃあ三十億」


「……は?」


「僕がドラゴンを一人で討伐した事は知ってるよね? それを知って僕に講演会をしろって言いに来たんでしょ?

 僕がドラゴンを討伐した時間、三十分も掛かってないんだ。だから公演時間も三十分で三十億。

 どう? 払える?」


「無理に決まってるだろ……」


 亘は怒りを通り越して呆れてしまった。あまりに現実的ではない金額を提示され、気が抜けてしまった。


「だいたい人に話を聞いただけで強くなれたり稼げたりする訳ないでしょ?

 探索者として稼ぎたいと思うなら、タブレットでYourTunes(ゆあちゅうんず)にアクセスして動画を見る事をオススメするよ。

 おっと、アドバイスしちゃった。これはタダにしといてあげるよ」


「……ああ、ありがとう」


「もう行っていい?」


「……ああ、済まなかった」


 亘の様子を見た男子生徒達が、扉の前からどいて道を開けた。すでにタブレットを操作している生徒も見られる。

 艦治は亘の肩をポンと叩いた後、まなみに腕を取られて教室を出て行った。

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