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超巨大宇宙船が落ちて来てから十八年が経ちました:今日からあなたが艦長です!!  作者: なつのさんち
二〇四七年

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077:特区

「何あのイケメンカップル!?」

「腕組んでる……?」

「いや、あれは男装ですねぇ。身のこなしが女性のそれですもの」

「井尻君も嫌がってないのがもう……」

「あれ? 彼女が出来たって噂は?」


 校長室を出て、そのまま下校しようと廊下を歩いている艦治(かんじ)を見つめる女子があまりにも多かった為、(つかさ)(まなみ)が艦治の腕を取った。

 艦治は中身がまなみであると知っているだけに振りほどく訳にも行かず、そのまま下駄箱へ行き、校庭まで出て来た。

 校門をくぐると、タイミング良く黒いミニバンが目の前に停まり、まなみが降りて艦治を抱き締める。

 そして艦治、まなみ、司の三人が乗り込んだ車が音もなく走り出した。


「もう見てる人達は訳が分からないだろうね」


≪周りの目なんて関係なくない?≫


「本当に明日も同じ時間に起きるつもり?」


 艦治が自身の左腕に抱き着くまなみに問い掛ける。

 ナギは後部座席でじっと座っている。


≪もちろん。明日は司に入って先にこの車で迎えに来てもらって、かんちの家まで行くからね≫


 元々は受験勉強の教師役として作った司だが、博務(ひろむ)雅絵(まさえ)の登場により受験の必要がなくなった。

 司は、ただ単にまなみが艦治と一緒の高校生活を堪能する為だけの乗り物となってしまった。


「もう勉強する必要ないのに?」


≪いつでも一緒にいたいんだもーん≫


 まなみは一切言い訳せずに開き直って、願望そのままを口にする。

 艦治は苦笑いを浮かべるが、嫌な気はしないので、結局受け入れてしまった。


「って事は良光(よしみつ)とは別での登校にした方が良いかな。

 そう言えば、蒼井(あおい)さんには司の中身がまなみだって打ち明ける?」


≪後でバレるより先に言っておいた方が良いよねぇ。説明しとこっかなぁ≫


「じゃあ明日から良光と蒼井さんが登下校する用の車を用意しようか。

 僕らのせいで迷惑掛けちゃう可能性もあるしね」


 艦治とまなみの二人と親密だという理由で、良光と望海(のぞみ)が何かしらの被害を受ける事を避けたいと思い、艦治がナギへ手配するよう伝える。


「了解致しました。この車と同一性能のものをご用意致します」


「同一性能と言うと、光学迷彩とか?」


「戦車の大砲であっても耐えられる特殊装甲になっており、空中走行も可能です」


「この車空飛ぶの!?」


 艦治はいつも乗っている車が特別仕様である事を知り、驚愕する。

 まなみを見るも、いつも通り無表情。


≪まぁ、ね?≫


 まなみの言葉に艦治は、それほど驚くような事でもないという雰囲気を感じた。


≪ねぇ、いつも乗ってる黒いミニバンが空を飛べるって知ってた?≫


 艦治はすぐに良光に電脳通話を掛けた。


≪今さらかよ。知らなかったけどそれくらい出来るんじゃねぇかとは思ってた。

 それより今から神州丸(しんしゅうまる)来んのか?≫


 良光は望海と共に、神州丸で訓練をしている最中だ。


≪うん。今向かってるよ≫


≪そっか、じゃあそんな勘の悪いお前に教えといてやるよ。

 厄介ごとがお前の事を待ち構えてるから気を付けろ≫



 良光の忠告を聞き、引き返そうかと思った艦治だが、神州丸で会えないとなると学校や家まで厄介ごとが来る可能性に思い至り、仕方なく予定通り入国管理局へ向かう事にした。


「ナギ、日本の現行法では車が空を飛ぶのは違法になるよね?」


「そうですね、空を飛ぶ際はヘリコプターと同様の基準を満たす必要があります」


「そうだよね。

 いちいち入国管理局からロープウェイ乗って移動するのも面倒だけど、仕方ないか」


≪じゃあ天辺(あまべ)さんに何とかしてもらおうよ! 出来る出来ない関係なくしたい事を教えてって言ってたし!!≫


「いや、でも具体的にどうすれば空飛ぶ車を認めてもらえるのか、見当が付かないしなぁ……」


 艦治は国のお偉いさん達に、移動が面倒だから何とかしてくれというわがままを伝えて良いものが考えあぐねる。


「艦治様達だけが特別でない状況をお望みであれば、神州丸周辺を空飛ぶ車特区に指定するよう伝えれば良いのではないでしょうか?」


 日本国全域で空飛ぶ車を使用する為には、日本の法律を変える必要があり、日本の法律を変える為には国民の半数以上を納得させる必要がある。

 しかし、日本は昔から自動車産業が経済基盤を支えていた事から、現行自動車を危ぶませる状況になる事を極端に嫌う傾向にある。

 現在の自動車メーカーの独自技術のみで空飛ぶ車を実現させられるようにならない限り、「車が空を飛ぶなんて危ないに決まってる!」や「通学路の上は飛行禁止!」であったり「景観が悪くなる!」などの反対意見が無数に挙げられる事だろう。


 現在艦治とまなみが乗っている黒いミニバンは神州丸の完全自動運転技術が用いられているが、自動運転技術以外の部品や技術は既存のものをそのまま流用しているので、そこまでの反対意見がなく法律で認められたという経緯がある。


 そこで特区という枠組みを作り、神州丸周辺でしか空飛ぶ車は乗れませんので、既得権益の邪魔はしませんよという態度を示す必要があるのだ。

 艦治としては、空飛ぶ車で金儲けがしたいのではなく、入国管理局に寄らずに直接神州丸へ向かえるようになれば良いので、特区という枠だけで十分という事になる。


 ナギから説明を受けた艦治が、それなら問題ないだろうと判断し、ナギに司からの要望として雅絵へ伝えておくよう指示を出した。


「さて、とはいえ今日から空を飛べる訳じゃない。

 あの集団に足止めされるのは間違いないだろうなぁ」


≪一度ギャンと言わせれば後が楽なんじゃない?≫


「どうかなぁ……」


 入国管理局周辺にたむろしている黒人の集団を目にして、艦治がため息を吐いた。

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