071:各国の反応
【A国大使館】
「カンジという少年の所属は?」
「無所属のようです。日本の機関にも他国の機関にも属していないようです」
「両親は?」
「共に神総研の研究者のようです」
「我が国の国籍を与えて永年無税、年間報酬額百億円プラス持ち込み戦利品の買取査定額二倍で交渉しろ」
「恐らく応じないでしょう。たった一度の探索活動で三十億円以上を稼いだのです。その気になれば一年で累計ポイントランキング一位も可能かと」
「では女か?」
「トップ探索者の娘と婚約したという情報を入手しております」
「婚約? 英雄色を好むというのは日本のことわざだろう?」
「そのトップ探索者は<珠聯璧合>です」
「ふむ……、あの件を持ち出すのはどうだ?」
「娘のトラウマを掘り返せと? 正気ですか? 四人だけでなく日本人探索者のほぼ全てを敵に回す事になりますが」
「だな。ここは静観するしかないか」
「我が国の探索者に彼と良好な関係を築くよう指示を出すべきかと」
「落としどころはそのあたりか。ではそのように手配を」
「分かりました」
【B国大使館】
「アフタヌーンティーに誘って紳士的に話せば、ある程度は聞いてくれるのではないかね?」
「……彼が我々の上辺だけを受け入れてくれるかどうかは分かりませんが」
「彼も高校生なら我らが昔、同盟国だった事を知っているのではないかね?」
「その後、戦勝国と敗戦国に分かれた事も知っていると思われますが」
「ここは一つ、ゴルフなどして友好関係を築くというのは……」
「ゴルフに付き合うくらいなら、迷宮探索に出掛けるでしょうね」
「だろうな。
仕方ない、我が国の探索者に彼と友好関係を築くよう指示を出してくれたまえ」
「かしこまりました」
【C国特殊潜入部隊アジト】
「入国管理局を出たところで攫え。目撃者がいようと関係ない。攫って薬を使って洗脳しろ」
「支援妖精は破壊しますか?」
「特殊なタイプだと聞いている。奴の力の根源かも知れん。
洗脳処置中は支援妖精を電磁波シールドの中に閉じ込めておけ」
「常に行動を共にしている女の存在が確認されています」
「一緒に攫え。同じく薬を使え。
いや待て、確か顔写真があったな……。
これか、なかなか良いじゃないか。俺が相手しよう」
「またですか? ちゃんと私達にも回して下さいよ?」
「ふん、期待せず待ってろ」
「しかしそう簡単に攫う事が出来るのでしょうか?
相手は累計ランキング一九九位ですが」
「いくら探索者とはいえ子供じゃないか。特殊な訓練を受けた軍人に敵う訳があるまい。
それに、妨害生物との戦闘と対人戦闘では訳が違うだろう。
本気の軍人を前にすれば、恐らく怖気付いて震え上がるだろうよ」
「……念の為に先に女を人質に取っても良いでしょうか?」
「ならん、貴様先に味見しようとしているな!?」
「いえ、決してそのような事はございません!!」
ガシャン!! ボッ……
「何だ……、火!? 何でこんなところに!?」
「燃え広がっております、早く逃げましょう!!」
「ならん!! ここには重要な情報が……」
「そんな事を言っている場合ですか!?
くっ、俺は先に逃げるぞ!!」
「貴様!? 待たんか!!」
「クソッ、扉が開かない!? 何故だ!?」
「早くそこをどけ! 邪魔だ!!」
「うるさい、死にたくなければ扉を破るのを手伝え!!」
【D国首相官邸】
「日本へ送り込む人材の育成……、なかなかすんなりと決まりそうにないな」
「ええ、神州丸近辺に住まわせるだけで衣食住で年間一千万円は必要になりますので」
「それでも一人分の最低コストでそれなのだからたまらんな。
世界一物価の高い街だから仕方ないが」
「文化やマナーが違う外国人に貸したくないと言うマンションオーナーも多い為、部屋の確保すらままならない状況です」
「神州丸のダンジョンの中で寝泊まりが出来るのではないのか?」
「可能ですが、我が国の買取店まで戦利品を持ち運ばせ、再度ベースキャンプへ戻るというのが非常に時間が掛かり、その間も妨害生物に襲われる危険性が高い為、探索者が難色を示すと思われます」
「だったらわざわざ国民を送り込まず、現地の日本人やその他の国の者から多少色を付けた価格で買い取るのはどうなんだ?」
「日本法人の企業に買取金額で勝つのは難しい上、日本人探索者が他国の買取店から受け取った金に対して日本国が課税する為、面倒ごとが増えると言って避けられています」
「何ともまぁ……、いつまで経っても日本に追いつく事は出来んな」
「探索者へ働き掛けるのではなく、日本政府に働き掛けた方が余程安上がりでダンジョンからの採掘品が手に入るでしょう」
「という事は、現状維持か」
「ええ、その通りです」
「神州丸が我が国に落ちてくれれば良かったのだがなぁ……」
「世界各国がそう思っているでしょうね」




