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超巨大宇宙船が落ちて来てから十八年が経ちました:今日からあなたが艦長です!!  作者: なつのさんち
二〇四七年

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067:思い出

≪最初からこっちに来てれば良かったんだよ≫


「いや誰も飛び込めって言ってないからね?」


 艦治(かんじ)とまなみは湖から救出された後、バスローブを着せられ空飛ぶ車に乗せられ、露天風呂がある区画へと連れて来られた。

 髪の毛がびちょびちょのまま温泉旅館の中を通り、現在は露天風呂で入浴中だ。

 艦治は後ろからまなみに抱き締められており、色んな意味でのぼせそうになっている。


「ねぇ、今から病院行って水泳スキルインストールしてもらう?」


≪えー、どうせ明日行くんだから今じゃなくて良いよ。溺れた後に泳ぐ気にはならないし。それよりずーっとこうしてよ?≫


「いや、そろそろ辛くなって来たなぁと思って……」


≪辛い? 辛いってどういう……、あぁ! 何だちゃんと言ってくれれば良いのにぃ~≫


 まなみの手が艦治の辛い部分をやわやわと包み込む。


「いや、違うって! そろそろのぼせそうだなぁって思っただけで!!」


≪大丈夫、分かってる分かってるってば≫


 艦治とまなみがわちゃわちゃしていると、家事ヒューマノイドが露天風呂の床に濡れ畳を設置し、その上にエアーマットレスを置いた。


≪ほら、準備出来たよ≫


「そうじゃない、そうじゃないんだけど……、抗えない」



 露天風呂で何やかんやあった後、艦治とまなみはプラネタリウムへ移動した。リクライニングチェアに二人でくっついて寝転び、映し出される夜空を見上げる。

 天井に投影したり、スクリーンに映し出されている訳ではなく、空中に直接投影されている為、とてもリアルな夜空に感じられる。


「これってこっちの宇宙? 見覚えのある星座がちらほら見えるけど」


「はい、静岡県富士市から見える今の季節の夜空を再現しております」


 ナギとナミ、そして白雲とシルヴァーは二人から少し離れた場所で待機している。

 露天風呂でも近くに控えていたのだが、まなみがあまり気にしない為、艦治もそれほど意識しなくなり、まなみのみに全集中出来るようになって来ている。


「再現って事は、ここで映画を観たりも出来るって事?」


「お望みでしたら上映出来ますが、音響設備が万全ではありませんので、映画は映画館での観覧をお勧め致します」


 ナギは映画館で観る映画の他に、仮想空間に入り込んでの体験型映画や旅行、音楽イベントなどを提案する。


「いや、せっかく鳳翔(ほうしょう)に来てるんだから、仮想空間での体験よりも実体験を優先させたいな」


≪そう言えば、まだ艦長室とか行ってないね≫


 二人は鳳翔に来てすぐ墓参りし、宇宙遊泳して木星を間近で見て恐怖し、お茶をした後に湖に飛び込んで溺れ、露天風呂で温まった後にさらに熱くなり、そして今プラネタリウムに来ている。

 鳳翔の基幹部分であったり、司令室的な場所には行っていない。


「鳳翔にも神州丸(しんしゅうまる)にも、艦長室や司令室などはございません」


「え? ないの?」


 艦治は宇宙船を操縦する艦橋や、乗組員へ指示を出す司令室など、モニターやスイッチが無数にある場所を想像していたのだが、鳳翔にも神州丸にもそのような場所は存在しない。


「はい。そもそも神州丸や鳳翔ほどの大規模な宇宙船は、人の手で操作する事は不可能です。

 私やナミ、翔太(しょうた)様方のような電脳人格でないと、動かすどころか最低限の運用すら出来ません」


 神州丸は完全にナギが運用全てを任されているが、鳳翔の規模になるとナギ一人だけでは厳しい。

 鳳翔を航行させる為に翔太を含む四人の上位電脳人格が格納されており、表層的な運用をナギが、深層的な運用を上位電脳人格が担当している。


「鳳翔の航行に関する権限においては、伊之助様であっても現在の艦長である艦治様であっても、翔太様方の権限よりも低く設定されております。

 上位電脳人格が提示した中での航行プランから選択する事はありますが」


 日々の通常航行や一時的なトラブルの対処などは、全て電脳人格が担当している。


「艦長室がないなら、伊之助(いのすけ)さんは普段どこで過ごしてたの?」


「寝起きは先ほどのお寺でされておりました。

 日中はお風呂に浸かったり、適度に身体を動かされたり、お酒を飲みながら昔の写真や映像を見て奥様との日々を振り返ったりして過ごしておられました」


「えっと……、それって地球でも出来たのでは?」


 わざわざ月よりも大きな人工天体に乗る必要がある事だろうかと、艦治が疑問を口にする。


「伊之助様が天の川銀河に残っておられれば、四方八方から面会希望者が殺到していたでしょう。

 特に、莉枝子(りえこ)様を亡くされた後はひっきりなしに縁談希望の連絡がありましたから、心底うんざりされておりましたので」


≪あー、それは可哀想だね。愛する人を亡くしたばかりなのに、財力目当てで会いたい結婚したいって言い寄られるなんて辛いよね。そっとしておいてほしかっただろうに≫


「はい。ですので人工天体『鳳翔』をお子様がご用意されたのです。

 元々は反抗的な銀河系を脅し、屈服させる為に設計された移動要塞だったのですが、伊之助様がお一人でも寂しくないようにと様々な娯楽が詰め込まれたおもちゃ箱のようなものに改修されました」


「お、おう……」


 自分は今、対銀河系で戦えるような規模の兵器に乗っているのだと改めて実感し、艦治は急に居心地が悪くなった。


≪ねぇ、伊之助さんが見てたって言う昔の写真や映像を私達も見る事は出来る? お二人のデートとか、結婚式とか、お子さんの成長とか、私達のこれからって感じでちょっと気になる!≫


「もちろんございます。私が一番近くで見守っておりましたので。

 それでは莉枝子様がお生まれになった時のお写真から見て頂きましょうか」


 ナミがリクエストに応え、解説を交えながら写真や映像を流していく。

 まなみが艦治に抱き着いて、プラネタリウムの中空に映し出される映像を眺める。


≪わー、ホントに自分みたいに見える! 何か変な感じぃ~。わわっ、裸は見ちゃダメだよ!!≫


「え? まだ赤ちゃんじゃん。しかもまなみそっくりだし」


≪それでもダメ! ほら、こっち来て!!≫


 まなみは目隠しする為に、艦治を胸元へと抱き寄せる。

 艦治はまなみの体温を感じている内に、不安感や焦燥感などの感情が溶けるようにして消えてしまった。

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