063:残りの換金
放課後になり、クラスメイト達が一斉に艦治へと話し掛けて来たが、用事があるからと適当にかわし、良光と望海と共に教室を出た。
「今日はどうするんだ?」
「とりあえず昨日の戦利品を全部換金しようと思ってるんだ。だから、今日はまず買取店に向かうつもり。
二人は?」
艦治は休み時間中にまなみへ連絡し、戦利品を換金して得たお金を両親の研究へと寄付する事のみを話しており、今日も買取店へ向かいたいと伝えていた。
まなみから穂波と真美にも了解を得ており、本日は別行動と決まった。
「迷宮に毎日通うほどがっついてねぇし、俺も着いて行くかなぁ。
望海はどうする?」
「うん、良ければ一緒に行きたい」
望海はまだ妨害生物と戦闘した事がないので、戦利品自体に興味を示している。
「じゃあ港に行くって事で」
校門を出て少し歩き、ミニバンに乗り込んで、まなみを含めた四人で買取店へ向かった。
初めて来る望海に買取店のある区画の雰囲気を見せる為に、少し手前でミニバンを降りる。この区画は二十四時間賑わっており、今日も呼び込みをする外国人女性が多く見られた。
まなみに左腕を締め上げられつつ、艦治は神総研の買取店へと歩いて行く。
「いらっしゃいませ」
昨日艦治達を担当した潤一が、入り口に立っていた。
「こんにちは。昨日の今日で悪いのですが、残りの買い取りをお願いしたいと思いまして」
「ありがとうございます。ご案内させて頂きます」
潤一が四人を昨日の個室ではなく、関係者以外立ち入り禁止というプレートが貼られた扉を開け、通路を案内する。
持ち込まれた戦利品などが保管されている棚などを通り抜け、広い倉庫の中にある応接セットに辿り着いた。
「もう用意されてたんですね……」
真美との会話の中で出た、倉庫に応接スペースを用意するという約束を即日実行していた事に、艦治が驚いた。
「ええ、早急な対応を心掛けております」
ソファーをすすめられ、飲み物を聞かれたのでそれぞれ頼んだ。
「あの、お掛けになりませんか?」
「お気遣いありがとうございます。ですが、私はこの方が落ち着きますので、ご容赦下さいませ」
潤一は昨日と同じく立ったまま接客をするようだ。
自分の祖父母世代であろう潤一を立たせたままにする事に若干の居心地の悪さを感じつつ、艦治が話を変える。
「そうだ、今日のお昼頃に正式な買取金額の通知を受け取りました。もう少し時間が掛かるのと思ってましたが、入金も早くて助かりました」
「とんでもございません。専属探索者様のお役に立てて何よりです」
潤一が頭を下げる。
部屋の扉がノックされ、頼んだ飲み物が運ばれて来た。
艦治がアイスコーヒーに口を付け、ぐびりと喉を鳴らしてから、本題を切り出す。
「……実は僕の両親が神総研に勤めてまして、買い取りをしてもらうならここしかないと考えていたんです」
「そうだったのですか。
……実は私も井尻様方がお帰りになった後に知ったのですが、ご両親は弊社所属の大変優秀な研究者だとか。
直接お会いした事はございませんが、お噂は聞き及んでおります」
艦治は両親から治奈の件で協力を依頼された際に、少しでも動きやすくしておこうと思い、潤一と信頼関係を築いておこうと考えていた。
「両親の研究の為にもどんどん戦利品を持ち込むつもりでいますので、よろしくお願いしますね」
「もちろんでございます。買い取りだけでなく、私に出来る事でしたら何でもご協力させて頂く所存です。
よろしければ連絡先の交換をさせて頂いても?」
「あ、お願いします」
艦治が『連絡先を交換しますか?』の表示を承諾した。
「あの、私は探索者になったばかりで、<珠聯璧合>に入っている訳でもないんですけど、良いんですか?」
望海が不安そうに潤一に尋ねた。
潤一は艦治だけでなく四人全員との連絡先交換を申請していた。
「もちろんでございます。私はこう見えて、ここの責任者を任されております。
人を見る目は確かだと自負しておりますので、蒼井様も高須様も、今後大いにご活躍なさるだろうと思っております」
潤一は目尻を下げて、好々爺のような表情を見せる。
良光は、その言葉が艦治へのご機嫌取りの一環なのか、それとも全ての探索者に対する営業トークなのか判断が付かなかったが、どちらにしても悪い気はしなかった。
「予約の取れないレストランやお宿を押さえたり、クルーザーに乗っての夜景見物、通常では入れない水族館のバックヤード見学、映画館や営業時間後の遊園地の貸し切り、人気俳優やプロスポーツ選手との懇談などなど、お望みならば可能な限り叶うよう手配致します」
「そんなに!?」
望海があまりの好待遇に驚き声を上げる。
「それはご期待に添えるよう努力するしかないっスねぇ」
≪あんま間に受けんな、俺らは艦治のおまけだ≫
≪え……? あぁ、そうだよね≫
どちらにせよ、今すぐ探索者としてばりばり稼げるようになるのは難しいので、良光はあまり気負わないようにと望海へ声を掛けた。
「じゃあ、そろそろ戦利品を出しても良いですか?」
「それではお手数ですが、こちらへお出で頂けますか?」
艦治達は潤一の指示に従い、ベルトコンベアーの前へと移動した。
「こちらへ一品ずつ出して頂ければ、ベルトに乗って移動し、査定担当者が仕分けを致します」
動いているベルトコンベアーの先に、複数の査定担当者が待機している。
「じゃ、出していこっか」
≪はいはぁい、さぁて全部でいくらになるかにゃ?≫
艦治とまなみが亜空間収納から戦利品を取り出し、次々にベルトコンベアーへと乗せていく。
立体ホログラムや真空パックされた肉や化粧品など、神州丸科学技術総合研究所の研究に直接関係のないものもたくさん含まれているが、それらは買取金額に少しの手数料を乗せて一般市場へと流し、わずかな儲けは研究費の足しとなっている。
「あ、まなみが欲しいものは置いといて良いよ。金とか銀とかパールとか」
≪プレゼントしてくれるの? 嬉しいけど、このままじゃちょっと味気ない気がするなぁ≫
「もしよろしければ、宝石や貴金属の加工業者をご紹介致しましょうか?」
後ろに立って控えていた潤一が、艦治へ提案する。
「そっか、加工してもらえば良いのか。じゃあ今度お願いしようかな」
「はい、その際はお声掛け下さいませ」
そんな会話をしている間も、亜空間収納からはどんどん戦利品が吐き出されていく。
「おいおいどんだけあんだよ……」
「ふふっ、良光もすぐにこれくらい手に入ると思うよ?」
≪もちろん望海ちゃんもねー!≫
望海はとんでもない人達と友達になってしまったと思い、密かに足を震わせていたのだった。




