061:眠れぬ夜の二人事
六月十四日 金曜日
亡くなったと思っていた艦治の妹、治奈は戸籍上、まだ生きている事になっているとナギの調査で判明した。
植物状態で延命治療を続けていると役所などに説明をしている形跡が見られた。
艦治は風呂にも入らず、ずっと自室のベッドで考え込んでいる。
どうして本当の事を説明してくれなかったのか。
どうして大きな力を手に入れた自分に相談してくれないのか。
自分はどうするべきなのか。
両親は自分に何か望んでいるのだろうか。
両親にどんな声を掛けるべきなのか。
ぐるぐると様々な想いが頭を駆け巡る。
≪あれー? ダメ元で掛けてみたら繋がっちゃったんだがぁ? 今大丈夫?≫
そんな時、まなみからの電脳通話が入った。
≪大丈夫じゃないけど大丈夫≫
≪えー、何その思わせぶりな態度ぉ! 小悪魔ムーブして私を翻弄しようとしてるでしょう!? ダメだよ、私はもうかんちに夢中で手遅れなんだからねっ!!≫
「…………ふふっ」
よく分からない事を言うまなみの発言に、思い悩んでいた艦治は吹き出してしまう。
≪どしたん? 話聞こか?≫
≪ううん、本当に大丈夫。ちょっと眠れなくて焦ってただけだから≫
艦治の視界右上の時計が午前一時を示している。考え込んでいるうちに、かなりの時間が経過してしまったようだ。
≪眠れない時は愛する人と肌を重ねるのが良いと思いませんかぁ? そうですよねぇ、そう思いますよねぇ!? ぐへへへへっ≫
≪そうなのかも知れないけど、さすがに今からは会えないよ。
来てとも言えないし、行くとも言えないし、そもそも明日も学校だし≫
≪えー、でもかんち全然私の事求めてくれないんだもん、ちょっと不安になるよ? 覚えたては猿みたいになるって聞いてたのにどういう事?≫
≪それだけ本当にまなみの事を大切に思ってると受け取ってほしいんだけど。
それと二人きりで会う機会もなかったし≫
二人で初めてを共にした次の日、黙って両親を連れて来たのはまなみである。
その後も良光や望海とダブルデートするなど、割と活発に行動していたので、お互いに二人きりになる時間を取ろうとはしていなかった。
≪まぁそうだねぇ。よくよく考えると二人きりのデートもまだした事ないしねぇ。日曜日はパパとママとの予定立てちゃったし、土曜日にどこか行く?≫
≪そうだね、迷宮探索は止めて宇宙船内探索でもしようか≫
≪おー良いねぇ!!≫
二人きりの初デートは、宇宙に決まった。
≪それはそれとして、眠れないんでしょう? スッキリするの、手伝ってあげよっか≫
≪手伝うってどうすんのさ。言っとくけどナギに入ってとか、心乃春と心乃夏の身体を遠隔操作してとかは止めてね≫
≪えー? ナギはともかく心乃春も心乃夏もダメなの?≫
≪両親が可愛がってるのにそんな事に使えないよ!≫
≪えー、じゃあどうしよっかなぁ。耳元で囁くとか、視界共有で私の裸見せるとか? あー、おっきな姿見があったら良いんだけど、今はないなぁ≫
≪……想像しただけでヤバイかも≫
艦治は下半身の血流が非常に良くなっている事を自覚する。
≪うーん、うーん、何か良いアイディアないかなぁ。あぁ、こういう時はナギえもんに聞けば良いんだぁ! 助けてぇ、ナギえもぉん!!≫
芝居がかった口調でナギを呼ぶまなみ。
≪はい、何か御用でしょうか?≫
そして違和感に気付く艦治。
≪まなみ、もしかして僕が思い悩んでるってナギから報告受けた?≫
≪うわぁ、速攻でバレちゃった≫
≪申し訳ありません、どうしても艦治様のご様子が心配だったもので、まなみ様へご相談させて頂きました≫
≪ふーん。まぁ僕の為を思ってなら悪い気はしないけど。
それで、ナギえもんはどんな素敵な提案をしてくれるのかな?≫
≪はい、それでは申し上げます。仮想空間にてお二人で会われるのは如何でしょうか?
お互いの家にいながら仮想空間で会う事が出来ますし、仮想空間内での体感時間を調整する事で、現実の一分を最大十五分まで引き延ばす事が可能です。
そして何より、避妊の必要がありません≫
「ぶほっ!?」
最後の一言を聞いて、艦治がむせる。
≪ね? ヤバくない? 私も聞いた時むせちゃったよ≫
≪いやヤバ過ぎでしょ!? それって向こうの日本で合法だったの? 中毒性とか大丈夫?≫
≪全く問題ございません。むしろ身体が不自由な方やご高齢のご夫婦や遠距離恋愛の恋人同士など、様々な方々に人気のサービスとして広く受け入れられておりました≫
≪なるほどなぁ。電脳ネット経由なら間違いなく年齢認証で未成年を弾けるだろうし、確かに良いサービスなのかも≫
≪ね? でしょでしょ!! さぁ早速ヤろう!!≫
艦治とまなみはナギの指示通りに電脳OSを操作し、仮想世界へと入り込んだ。
気が付くと再現された艦治の部屋におり、二人は隣同士で寝転んでいた。
艦治はジャージ姿。まなみはシルクのパジャマ姿だ。
「かんち! 会いたかったよぉ!!」
現実では無表情なまなみだが、何故か仮想現実だと表情豊かであり、饒舌になっている。
しかし艦治はわざわざそんな事を指摘するような野暮な事はしない。
「僕も会いたかったよ」
二人は抱き合って、唇を重ねる。
まなみのどこか甘い匂い、そして柔らかな身体を確かめながら、艦治はまなみと肌を重ねて……。
その後現実に戻った艦治は、パンツのネバ付く不快感に襲われた。
状況を把握している心乃春と心乃夏に裸に剥かれて浴室へ追い立てられたので、結局寝れたのは午前二時半頃だった。




