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超巨大宇宙船が落ちて来てから十八年が経ちました:今日からあなたが艦長です!!  作者: なつのさんち
二〇四七年

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056:事情聴取

 幻想(ゲーミング)迷宮(ダンジョン)を抜けた後も、真美(まみ)を先頭に艦治(かんじ)達四人はロビーを走り抜け、そのままの勢いで医療施設へと向かった。


「こちらでございます」


 玄関で待機していた手術着姿の医療用ヒューマノイドに先導され、第十三手術準備室へと通された。

 四人は第十三手術準備室を通り抜け、その先の第十三手術室へと入る。


≪えー、ここ二つポッドが並んでるの!? 私もかんちと一緒に治療受けられるようにしてほしい! あ、かんちはこの女を見ちゃダメだよ!!≫


 第十三手術室は医療用ポッドが隣同士に二つ並べられており、先ほど襲い掛かって来たロン毛男と金髪ギャルが全裸で緑色の液体の中で眠っている。

 金髪ギャルの裸を見せまいと、まなみが艦治の顔を自分の胸へと抱き寄せる。

 艦治はご両親の前で何て事を!? と焦るが、隣では真美が穂波に同じ事をしていた。穂波は全く抵抗せず、されるがままだ。


「特別手術室をご用意致します」


 艦治の肩に乗ったナギがまなみの要望に応える。


「あらぁ、じゃあついでに私と穂波(ほなみ)ちゃんの分も用意してもらえるかしらぁ?」


「もちろんでございます」


 そんなやり取りをしている間も、ロン毛男と金髪ギャルの治療は続けられている。

 治療用ポッド内を複数の細いコード状のマニピュレーターが動き、レーザーを照射して身体を修復していく。


「こんな感じで治療をしているのねぇ、初めて見たわぁ」


≪すごいねぇ≫


 感心する真美とまなみだが、艦治も穂波も胸に(うず)められている為、見る事が出来ない。


「ナギ、ある程度の治療が終わったら、話せるようにしてもらえるかしらぁ?

 身体は動かないけど、頭は覚醒している状態に出来ると一番良いのだけれどぉ」


「命に別状はございませんので、一旦治療を止めて会話可能な状態に致します」


 忙しなく動いていたマニピュレーターが止まり、二人が同時に目を開ける。


『……どういう状況だ?』


『……インプラントの手術の時に入ったとこ?』


 医療用ポッドに取り付けられたスピーカーからインプラント経由で二人の声が出力される。


「あなた達の目的は何だったのかしらぁ?」


 真美が事情聴取を始めるが、二人は混乱しており、目をギョロギョロと動かすだけで質問には答えない。


「聞こえているなら返事なさぁい?

 このまま脳みそだけ取り出しても良いのよぉ?」


 ロン毛男と金髪ギャルの目線がまなみへと向けられた。


「話しにくいわねぇ……。

 たま、穂波ちゃんの目を塞いでおいてくれるかしらぁ?」


 真美の肩に乗っていたジャガーの支援妖精、たまが穂波の顔に張り付く。

 穂波の肩に乗っていたオオカミの支援妖精、ポチも同様に穂波の顔へと張り付いた。


≪かんちはこのままで良いよね?≫


≪……良くないけど、良い≫


 穂波を解放した真美がロン毛男と金髪ギャルが入れられた治療用ポッドの前に立ち、両手で両方のポッドのガラスをコツコツとノックし始める。


「もう一度聞くわぁ。あなた達の目的は何だったのかしらぁ?」


 インプラント経由で脳内に響く真美の声と、鼓膜を震わせるノックの音。

 二人は自分達が圧倒的に不利な状況に置かれている事にようやく気付き、醜い言い訳を始める。


詩歌(しぃか)が噂の人型妖精捕まえようって言い出して』

飛馬(ひゅうま)が妖精捕まえれば強くなれるって言って』

神州丸(しんしゅうまる)が寄越した支援妖精が不良品で』

『ウチの支援妖精が可愛くなくて』

『ここから出してくれ!』

『何で身体が動かないのよ!?』


バンッ!!


 真美が両手でそれぞれのガラスを叩き、二人を黙らせる。


「簡潔に答えなさいねぇ? あなた達の目的は何だったのぉ?

 あなたから答えなさいな」


 真美がロン毛男、飛馬を指名する。


『新人探索者が連れてるっていう人型妖精を自分のものにしようと思った』


「あなたも目的は同じなのかしらぁ?」


『一緒、だけど……!?』


 再び真美が両方のガラスを叩く。


「聞かれた事だけに答えるのよぉ? 分かるかしらぁ?」


『わかわかわあわ分かりました!』


 その後、真美の事情聴取によって、二人の目的とその動機が判明した。


 二人が与えられた支援妖精が馬と鹿で、表情がとてもバカっぽいものであった事。

 仕方なくしばらく使ってみたが、他の探索者が言うほど役に立たなかったので、故意に壊して新しい支援妖精に交換するよう神州丸に来た事。

 交換は受け付けないと言われたので、ボロボロの支援妖精を病院に放置して帰ろうとしたところ、電脳ネットである男が神州丸から依怙贔屓されているらしいとの情報が目に入った。

 その男は人型の支援妖精を連れているらしく、その妖精を自分のものにすれば探索活動が楽になり、大金が手に入ると思った。


 要約するとそのような内容だった。


「襲われた時は気付かなかったけど、あの時のカップルか」


 艦治はまなみから解放され、詩歌の方が見えないようまなみに頭を固定された状態で飛馬を眺めている。


「…………知り合いか?」


「いえ、顔を知っている程度です」


 穂波に聞かれたが、艦治はぶつかられて眼鏡が破損した事までは説明しなかった。

 飛馬の顔をよくよく見て、ようやく思い出す程度の小さな出来事として処理されていたからだ。

 しかし、今は違う。支援妖精とはいえ、人工とはいえ、艦治は生き物に対して危害を加えるような人間を許せるような性格ではない。


「支援妖精を破壊された為、現在地の特定や動向を把握する事が出来ておりませんでした。

 ご不快な思いをさせてしまい、申し訳ございません」


 この二人の行動を察知出来なかった事について、ナギが謝る。


「いや、ナギのせいではないから気にする必要はないよ。

 それよりこいつらの支援妖精は大丈夫なの?」


「すでに回収し、廃棄予定です」


 艦治はナギが支援妖精を物として扱っている事に対し、言いようもない気持ち悪さを感じた。


「その子達を治療してやる事は可能?」


「可能です」


 艦治はナギに飛馬と詩歌の支援妖精をここに連れてくるよう指示を出した。

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