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超巨大宇宙船が落ちて来てから十八年が経ちました:今日からあなたが艦長です!!  作者: なつのさんち
二〇四七年

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053:幻想迷宮

「奥の方で<珠聯璧合(しゅれんへきごう)>がドラゴンと戦ってるらしいぞ!」


「マジで!? 見に行こうぜ!!」


 幻想(ゲーミング)迷宮(ダンジョン)内部、ほのかに照らされた洞窟の中を探索者達が足早に奥へ奥へと進む。

 洞窟の高さは五メートル、横幅は十メートルほどの大きさで、レンガで固められた壁や天井に生えている苔が発光しており、灯りを持ち込む必要がない。

 ところどころ分岐点があるが、迷宮探索が始まって十八年も経つと矢印の立て看板や分かりやすい目印などが設置され、迷わずに進む事が出来る。

 また、スキルショップで地形把握のスキルが排出される事もあり、探索済みの地点はそれほど難易度は高くない。


「ドラゴンの目撃地点ってかなり奥じゃなかったか?

 ここからだと途中のベースキャンプ経由してさらに何日か掛かるだろ」


「いや、電脳ネット情報ではかなり手前で出たらしい。もうすぐ着くぞ」


 探索者達が洞窟を進みしばらく行くと、天井が高い広場のような場所に着いた。

 正確な高さは不明だが、直径二百メートルほどの円のような空間の、ちょうどその中心点に、紅の鱗を光らせたドラゴンが首をもたげているのが見えた。


「火竜か、動画で見るよりもデカく感じるな……」


「だいたい二十メートルはあるか? あんなのどうやって倒すんだよ……」


 過去十八年の迷宮探索で、妨害生物(モンスター)に殺された探索者の数はかなり少ない。

 致命傷を負うような殺意の高い攻撃をするモンスターが少なく、行く先を阻むタイプが多いのだが、数少ない死亡例の中に、ドラゴンが要因として挙げられる。

 

GRRRRRRRRRRRRRRRRRR


「威嚇してるな、どっちが相手してんだ?」


 ドラゴンとは言えど、迷宮が生み出した人工生命体であり、闘争本能や生存本能などはない。

 ただ役割を与えられただけの存在であり、侵入者を迷宮の奥へと進ませない事を優先する。

 探索者が近付かなければ動かず、攻撃を受けない限り向こうから行動を起こす事はないのだが。


「えっ、<珠聯璧合>の二人ともが腕組んで眺めてんぞ!?」


「って事は娘ちゃんが戦ってるのか?」


 穂波(ほなみ)真美(まみ)はドラゴンから少し離れた位置に立っており、その手には武器すら構えていない。


「戦ってるのは若い男だな、あれが噂の娘ちゃんの彼氏か……」


「武器は刀か? ドラゴン相手に刀って、穂波さんと真美さんの戦闘スタイルと一緒だな」


 艦治が刀を構えて火竜と相対しており、その少し後ろにまなみが同じく刀を構えた状態で控えている。


「動きも悪くねぇ、ホントに新人か?」


 艦治とまなみが付き合いだしたという噂は電脳ネット内を駆け巡り、今や探索者の多くが知っている情報となった。

 艦治に手を出すのは穂波に手を出すのと同じくらいリスクのある行為であると注意喚起もされているほどだ。

 女性探索者は肉食系が多いのに加え、一攫千金を狙う者も多いので、この注意喚起は大事なのだ。


「避けて、切り付けて、火竜の鱗を駆け上がって頭部を一閃。

 綺麗な攻撃だがダメージは入ってないな。まだ腕力が足りてないのか? それとも得物の性能か?」


「剣術スキル持ちなのは間違いないが、新人探索者にしては熟練度が高く見えねぇか?」


「ガチャから重複して出て来た、とか?」


 スキルには熟練度が設定されており、使えば使うほど熟練度が上がる事と、ガチャから複数回排出された際にも熟練度が上がる事が判明している。


「トップ探索者の熟練度なんて公表してねぇし、どれだけ上がれば高いのかも分からんしなぁ」


 この探索者達が知る由もない事だが、まなみと艦治と良光(よしみつ)が保有しているスキルは全て熟練度百パーセントになっている。


「ヤベッ、火竜が火炎を吐く予備動作してるぞ!」


「これYourTunes(ゆあちゅうんず)で見たヤツだ!!」


 火竜に限らず迷宮内に出現するモンスターとの闘いは、第三者の視界を通して録画した動画がYourTunesで公開されている。

 録画した者が映っている探索者の許可を受けて初めて公開出来る仕様になっており、探索者と撮影者で七対三の割合で収益を受け取れるようになっている。

 YourTunesは神州丸(しんしゅうまる)が運営をしているので、動画再生数に応じて探索者の育成に寄与したと見なされ奨励金が口座へ振り込まれる仕組みとなっている。

 その為、トップ探索者を追い掛けて探索の様子を撮影して生計を立てるYourTuner(ゆあちゅあなぁ)も存在する。


「さすがに穂波さんが逃げるように指示を出す……?

 出してない!? あの男は何故逃げないんだ!!」


 艦治はまなみを背中で守りながら、火竜へと左手を向ける。火竜が火炎を吐く瞬間に合わせ、左手から水球が火竜の口へと飛んで行った。


ドカーーーーーーーーン!!


 火竜の口内で起こった水蒸気爆発で、洞窟内に爆音が鳴り響く。近くで艦治の戦闘を見守っていた者は衝撃波で吹き飛ばされたり、耳を押さえて蹲る者も見られる。


「~~~~~~~~~~~~~~~~!?」


≪耳がやられて何も聞こえねぇ!≫


≪何だ今のは!? いくら幻想的な迷宮だっつっても水魔法を放つ奴がいるなんて聞いた事ねぇぞ!!≫


 火炎を吐こうとしていた火竜の頭部は爆散しており、大きな音と振動を立てて巨体が横たわった。

 火竜の身体を構成していたシリコンがドロッと溶けて、迷宮内に吸収されていく。

 その後に残った丸い球体のようなものも、すぐに消えてなくなった。


≪消えた!? 戦利品が消える事ってあんのか!?≫


≪いや、恐らく亜空間収納に入れたんだろう。あの兄ちゃんが動揺してねぇだろ≫


≪手で触れずに収納出来んのか!?≫


≪知るか、亜空間収納のスキルを持ってる奴に聞け≫


 火竜との戦闘を終えた艦治は、穂波と真美に連れられて、さらに迷宮奥へと進んで行った。


 残された探索者達は、ただただその背中を見送る事しか出来なかった。

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