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超巨大宇宙船が落ちて来てから十八年が経ちました:今日からあなたが艦長です!!  作者: なつのさんち
二〇四七年

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051:開き直る

六月十三日 木曜日

『これは我々地球市民に対する宣戦布告であります! このまま指を咥えて見ておれば、いずれ侵略を受けて人類は家畜のように扱われる事となります! そうなる前に、世界各国が一致団結して神州丸(しんしゅうまる)へ対抗せねばなりません!!』


『今の発言はあくまで原田正一郎さん個人の見解です。当番組並びに当テレビ局の主義主張ではございません事をご留意願います』


『君は何を言っているんだね!? 現在我々は未曾有の危機に見舞われているというのに、神州丸の顔色を窺っている場合かね!!』


『日本国憲法において表現の自由が認められていますが、あなたの主張はあくまであなた個人の主張です。人類代表や国民代表のような顔をして主張されるのは困ります。

 視聴者の皆様におかれましては、今後原田さんが発言されている際には<あくまで個人の主張です>という字幕が付きます事をご理解下さい』


『私には全ての人々へと真実を伝える義務がある! そのような字幕で私の口封じが出来ると思うなよ!!

 おい! 見てるんだろう神州丸のクソ×××! お前の企んでいる事は全てお見通しだからな!! 俺の×××でお前の×××を×××……』


ピーーーーーーーーーーーーーー


<ただいま不適切な表現がありました事をお詫び申し上げます>

<恐れ入りますがしばらくそのままお待ち下さい>


「あーあ、終わったなあのじいさん」


「前々から大陸の回し者だって言われてたからねぇ」


 井尻家の朝。リビングで点けているテレビを見るでもなく、ダイニングで艦治(かんじ)治樹(はるき)治佳(はるか)が朝食を摂っている。

 三人に加え、心乃春(このは)心乃夏(このか)の二人が席に着いているのも当たり前の光景となりつつある。


「ナギ、この家の周辺にいたマスコミはどうなった?」


 艦治の質問を受けて、テーブル上に座っていたナギが現状報告をする。


「昨日までいた者達は撤収しております。

 ですが、日本を含めた複数の国の諜報員が周辺のマンションの一室を借り上げるなどし、情報収集を始めております」


「えっと、酷くなってない?」


「いえ、諜報員は不特定多数に情報を発信致しません。艦治様への正しい対応方法を模索しているだけですので、特に問題はないかと」


「対応方法? 普通の高校生相手に、……って僕は普通じゃないんだったね」


「はっはっはっ! まるで中二病だな」


「自分を客観視する事は大事よ?」


 治樹も治佳も他人事のようだ。


「艦治様はもちろん、治樹様も治佳様も二十四時間警護しておりますのでご安心下さい」


「そういう問題じゃないんだよなぁ」



≪まぁこうなるよねぇ≫


≪ある程度は受け入れろ。どう見られようとお前はお前だろ。

 ほら、開き直って期待の大型新人探索者様が通るぞ道開けろって言ってやれ≫


≪嫌だよめんどくさい≫


 良光(よしみつ)と共に車を降りて、艦治が校門をくぐるとすぐに周りからの視線を感じた。

 原因は昨日学食を飛び回った妖精ナギ(の中に入っていたまなみ)と昨夜の外交大使ナギの緊急記者会見の内容だ。

 あまりにもタイミングが良過ぎた為、特別に優遇される優秀な探索者イコール井尻艦治という分かりやすい図式が完成してしまった。


≪将来的には艦長として世間に公表していきたいと考えておりますので、今のうちから慣れて頂ければと思います≫


≪艦長、艦長なぁ……≫


 艦治は現在、ナギを通学鞄に押し込めず、肩に乗せて校庭を歩いている。


「よっと」


「うげっ!?」


 何やら良からぬ気配を感じた為、艦治はくるりと身を翻したのだが、後ろから飛び出して来た女子生徒が躓いて地面に突っ伏してしまった。


「うわっ、痛そ」

「ショッキングピンクってヤツか」

「はしたないわね……」

「大丈夫かしら」

難波(なんば)がいなくなって焦ってんのかねぇ」


 艦治は転んだ俣野(またの)広子(ひろこ)を避けて歩いて行く。


「ちょっと! 助けてくれても良くない!?」


「後ろから飛び掛かろうとしてたくせに良く言うね」


 なおも艦治が手を出そうとしないので、広子は仕方なく自分で立ち上がった。


「飛び掛かろうとしたんじゃなくて腕に抱き着こうとしただけなの! インプラントの手術について聞きたいだけなの!!」


「彼女以外の人が抱き着こうとしてきたら、普通避けるでしょ」


「ひーどーいー!! 怪我したぁパンツ見られたぁ責任取ってぇー!!」


 地団駄を踏む広子を放置し、艦治と良光は校舎へと入って行った。



「俣野さんの事、良いの?」


 教室に着いてもなお視線を集める中、艦治と良光に望海(のぞみ)が近付き、小声で訪ねて来た。


「良い。僕は聖人君子じゃないし」


「むしろ酷い男だって思われた方が人避けになってちょうど良いかもなー」


 艦治は少し前まで休み時間も板書に追われていたので、良光以外に親しい友達はいない。元々何を思われようと気にしていなかったので、今までとそう変わらないのだ。


「おはよー。何ナニ何の話してんのー?」


 恵美(えみ)が教室に入るなり艦治達へと声を掛ける。


「艦治がいくら学校で嫌われようと、年上の美人な彼女がいるから全く問題ねぇって話」


「えー? どんなに嫌われようとも優秀で優遇される探索者なんでしょ? って事は将来いっぱい稼ぐのはほぼ間違いない訳じゃん。

 じゃあ多少性格が悪いくらい目を瞑るって女の子はいくらでもいると思うよ? ただでさえイケメンなんだし。

 私ももうちょっと早く気付いてればなぁー。告白オッケーした後に眼鏡外して来るんだもんなぁー」


「藤沢は相手がいるから良いけど……。

 いや、今の彼氏から乗り換えようって奴が出て来んとも限らんか」


 艦治と良光と望海と恵美が固まって話していると、広子が教室へと入るなり大声で叫ぶ。


「もぉお嫁に行けなーい! 艦治ぃ、責任取ってぇー!!」


 教室がシーンと静まり返る中、艦治はゆっくりと振り返り、広子へ答える。


「探索者保護法って知ってる?」


 艦治の学校生活における平穏が約束された瞬間である。

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