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超巨大宇宙船が落ちて来てから十八年が経ちました:今日からあなたが艦長です!!  作者: なつのさんち
二〇四七年

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050:緊急記者会見

 治樹(はるき)治佳(はるか)は仕事で遅くなるという事で、艦治(かんじ)は一人で夕食を済ませた。

 心乃春(このは)心乃夏(このか)が食卓に座ってはいるが、ナギが動かしている事を考えると、艦治から話し掛ける気がなかなか起きない。


「ご両親が遅くなられる日の夕食は、心乃春か心乃夏をまなみ様に遠隔操作して頂くのはいかがでしょうか?」


 テーブル上の特製椅子に座っていた妖精のナギが、艦治に提案する。


「あぁ、昼休みにナギの中に入って学食を飛んでたな。

 あれってどんな感じなんだろう。僕も出来るの?」


「もちろん可能です。操作方法をお教え致しますね」


 艦治はナギの言う通りに電脳OSを操作していく。


「ん? この(かえで)(みお)? ってどこにいるの?」


「この二体はまなみ様付きの家事ヒューマノイドです」


「って事は楓か澪を遠隔操作すれば、まなみの家に行けるって事か」


「仰る通りです」


 艦治は自室に戻ってベッドに横になり、電脳OSを操作して、意識を楓の中へと飛ばした。

 すると、背中に大きな柔らかくて温かいものが当たり、自分の胸(楓の胸)が後ろからやわやわと揉まれているのを感じた。


「えっと、どういう状況?

 うわっ、そっか。声色も変わるのは当たり前か」


「……艦治君?」


 まなみの声が後ろから聞こえた。楓を後ろから抱き締めていたようだ。

 楓の身長は外交大使であるナギ、心乃春、心乃夏、澪と同じく150センチであり、168センチのまなみが抱えればすっぽりと収まるサイズ感となっている。


「うん、ナギに教えてもらって遠隔操作、ってか自分の意識を楓の中に飛ばしてるんだ」


≪わぁーーー!! かんちが私の部屋に来てくれたんだね!! 前もって教えてくれたら色々と準備してたのに!!≫


 まなみが楓の頬をちゅっちゅと啄む。


「ごめん、事前に言った方が良いのは分かってたんだけど、びっくりさせたくって」


「……うれしい」


 まなみがより身体を密着させて、楓の胸を包み込むように抱き締める。


≪ご飯時だから、家族団欒を邪魔しない方が良いかなぁって思って我慢してたんだ! でもやっぱり寂しいからかんちを思いながら楓を抱き締めてたの≫


「僕にはおっぱいないけどね……」


≪それは何て言うか、あったらついつい触りたくなっちゃうんだよ、うん≫


「そうそう、今日は両親が仕事で遅くなるから一人で夕飯食べたんだけどさ、ナギがそういう時はまなみに心乃春か心乃夏に入ってもらえば寂しくなくなるんじゃないかって提案してくれたんだ」


≪えー! それめっちゃ良いじゃん!! 次一人でご飯食べる時は呼んでね!! 私も一人の時はかんちを呼ぶからね!!≫


 穂波(ほなみ)真美(まみ)は探索が長引いており、奇しくもまなみも今日は一人で夕食を済ませたところだったのだ。



≪艦治様、まなみ様、記者会見の準備が整いましたので、もしよろしければYourTunes(ゆあちゅうんず)での生放送をご覧頂けませんでしょうか?≫


 二人が他愛無い話をしていると、ナギから連絡が入った。

 YourTunesと|YoungNatterやんなったぁはナギが元いた世界で人気だったSNSで、こちらの世界へと持ち込んだものとなる。

 神州丸が管理・運営をしており、地球の既存の利権の力が及ばないメディアとなっている。


 電脳OS経由で視界に表示させる事も出来るのだが、どうせなら二人並んでテレビで見ようという事となり、艦治(楓)とまなみはテレビのあるリビングへ移動し、ソファーへと座った。


「おぉ、この子は澪か。心乃春と心乃夏とそっくりだね」


「初めてまして、艦治様。私と楓の見分け方は、口のホクロの位置になります。

 私には口の左にホクロがあります」


≪楓は口の右にホクロがあるんだよ! はい、鏡≫


 まなみから手鏡を受け取り、艦治が確認すると、確かに口の右にホクロがあった。


「何か不思議な感覚だなぁ。鏡を見てるのに自分が写らないなんて事があるんだなぁ」


 目を細めたり、口を開いたりしている艦治の隣で、まなみがリモコンを使ってテレビのYourTunesアプリを立ち上げた。


『それでは緊急記者会見を始めさせて頂きます』


 まるでタイミングを計ったかのように、外交大使ナギによる会見が始まった。

 ナギの格好はいつもの和装ではなく、警備ヒューマノイドが着用しているような軍服姿で、どこか物々しく感じられる。


『初めに、探索者様よりご提供頂いた動画をご覧下さい』


 会見場に用意されていたモニターに、艦治が視界録画をして撮影した動画が流される。

 艦治の声は編集で加工されているが、記者とカメラマンの姿は特に加工なく映し出されている。

 艦治が取材を拒否しているのにも関わらず、しつこく質問をし、写真撮影しているのが良く分かる内容だ。記者が口にする艦治の個人情報については『ピー』という規制音で消されている。

 最終的にパトカーが駆け付け、二人が取り押さえられて、喚いているところまでが再生された。


『ご覧の通り、この二名は明確に探索者保護法に違反しております。

 このような強硬な取材や、探索者本人が望まない接触などを防ぐ為に施行された法律であるにも関わらず、通報を受けて駆け付けた警察官に逮捕される事態となるのは異常と言わざるを得ません。

 これらは全て週刊(しゅうかん)文民(ぶんみん)を発行しております株式会社文華(ぶんか)民衆(みんしゅう)の管理不行き届きであると考えます。

 従いまして、文華民衆は神州丸(しんしゅうまる)記者クラブを除名処分とし、神州丸への立ち入りを禁じます』


 あまりに重い処分の発表を受けて、会見場内が騒然となる。


「それってそんなに重い処分なの?」


≪どうなんだろうねぇー≫


 記者クラブは通常、マスコミの自主的な任意組織であるが、神州丸記者クラブは神州丸広報の為にナギ主導で集めた半国務機関だ。

 記者クラブの設置場所が神州丸内部にあり、活動費や食事代を含む滞在費諸々を神州丸が負担しており、持ちつ持たれつの関係を築いていた。

 が、週刊文民を擁する文華民衆は大陸のある国と裏で繋がっている事、サクセサー商事も同国と繋がっている事をナギは前々から把握しており、艦治の私生活に影響が出始めた今の段階で排除する事に決めたのだ。


『何か質問はありますか?』


 ナギが手を挙げた女性記者の発言を許可する。


『一部報道におきまして、先ほどの探索者が神州丸により非常に優遇されているのではないかという話が聞かれております。

 その点についてお教え下さい』


 質問を受けたナギが笑顔を浮かべ、答える。


『我々には目的があり、その目的の為に優秀な探索者を求めています。その優秀な探索者を特別に優遇するのは当然の事です。

 地球文明に提供している知識や科学技術なども、優秀な探索者を広く募る為のものです。

 また、我々はあなた方へのボランティアとして迷宮(ダンジョン)を解放している訳ではありません。

 神州丸に必要のない人物や団体であれば、受け入れる必要はないと考えております。

 そもそも、神州丸と利害が一致しない、もしくは我々に危害を加え排除しようとしている国や団体に対して、友好的な態度を取る訳がありません。

 迷宮から得られた資源などを秘密裏に横流しするような会社などについても、我々は然るべき処置をするとお伝えしておきます。


 予定の時刻になりましたので、これにて緊急記者会見を終了致します』

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