049:取材拒否
その後、艦治とまなみ、良光と望海の二組は分かれたままデートを楽しみ、十八時を前にして帰宅する事になった。
夕食を四人で外食にする事も考えたが、良光が親への事前承諾なく帰りが遅くなるのに難を示したので、またの機会にする事になった。
「聞きそびれてたけど、この車は井尻君のおうちのなの?」
「まぁそんなところだよ。僕が自由に使えるんだ」
などと曖昧な返事をしたが、艦治は望海にいつか本当の事が言えたら良いなぁと感じていた。
望海を自宅前で降ろし、次はまなみと家へと向かう。
艦治は良光へ率直に質問した。
「どんな感じ?」
「んー、良い感じだと思う。
あれだけフォローしてもらえばバカでも気付くしな。あとは俺と望海でゆっくり考えるわ。
もしかしたら思ってたんと違う、って言われる可能性もあるし」
「まぁないだろうけど、ないとは言い切れないね」
≪好きって言われたら普通の男子高校生ならすぐに飛び付きそうなもんだけどなぁ。それだけ誠実って事かにゃ?≫
≪それって出会って丸一日経たずに付き合って最後まで行った僕の事が不誠実って言いたいのかな??≫
≪そんな訳ないじゃーん。だいたいかんちは普通の高校生じゃないし私達の出会いは必然だったし結ばれる運命だったんだからむしろ一日経たずに本来の形に収まったのが誠実そのものと言うべきだと思うよー分かってるくせにーーー≫
「まぁ、何と言うべきか。二人にはとりあえず、ありがとうと言っておくわ」
二人の世界に入り込んでいる艦治とまなみに対して、良光は改まって感謝を口にした。
「……別に良い。……そうしたかっただけ」
「らしいよ。まぁ無理強いするつもりはないから、ゆっくり二人のペースでやってよ」
その後、まなみと良光の順番で自宅へ送り届けた後、艦治を乗せた車が井尻家へと向かう。
≪自宅周辺にマスコミが張っています。このまま帰られますか?≫
艦治の通学鞄に入ったままのナギから報告が入る。
≪んー、どうしようか。どうするべきか。
どうせこの車のナンバーはバレてるだろうしなぁ≫
艦治を乗せたミニバンは、自宅を中心とした円を描くように大通りを流して走る。
≪毎日別の車をご用意する事は可能ですが、ご自宅と学校が変わらない限り待ち構えられます。
神州丸として、マスコミへ牽制する事をお許し下さい≫
≪牽制って、例えば?≫
≪探索者に対する取材と称した付き纏いをしないよう呼び掛けます。
探索者保護法を根拠とすれば、日本政府も黙って見ている訳にはいきませんので≫
探索者保護法は、反インプラント団体からの執拗な嫌がらせやマスコミの過度な取材などで、探索者の私生活を著しく阻害された為に制定された日本国の法律である。
この法律制定以降、探索者を保護する事は日本政府の義務となり、探索者へ危害を加えていた者達が逮捕・起訴されていった事で、探索者の正当な権利が脅かされる事も少なくなった。
≪それって僕らの個人名は出ないって思って良いよね?≫
≪もちろんです。名前だけでなく年齢や性別も公開するつもりはございません≫
≪うーん、じゃあそれでお願いしようかな≫
今後の対応が決まった事で、艦治を乗せたミニバンは自宅へと向かった。
自宅前で停車したミニバンから艦治が降りた際、待ち構えていたカメラマンがフラッシュを焚いて写真を撮影し、記者がマイクを向けて艦治へと詰め寄る。
「週刊文民です! 取材よろしいでしょうか!?」
「お断りします。写真も消して下さい」
艦治は詰め寄って来た二人に向き直り、はっきりと取材を断った。
「井尻艦治さんですよね? 人型妖精を連れているというのは本当ですか!? サクセサー商事の役員である難波氏の三男といざこざがあったという情報も入っておりますが事実でしょうか!?」
「答える事はありません。お引き取り下さい」
艦治が立ち止まった事を良い事に、記者は一方的に捲し立て、カメラマンは無遠慮にフラッシュを焚いて写真を撮り続ける。
「僕は取材を拒否するとお二人にはっきりと申し上げました。一刻も早くこの場を立ち去って下さい」
遠巻きに様子を窺っていた他のマスコミ関係者が少しずつ後ずさりして井尻家から離れていく。
「答えられない理由は何ですか!? やはり噂は本当という事でしょうか!? お答え下さい!!」
艦治は取材に答えず、取材を拒否すると繰り返し口頭で伝え続ける。
すると、パトランプを回しサイレンを鳴らしながら、複数のパトカーが左右から次々に井尻家の前へ到着した。
「通報により出動致しました。あとは我々にお任せ下さい」
パトカーから降りた警察官達が、記者とカメラマンを拘束し、手錠を嵌めて逮捕した。
記者とカメラマンは知る権利が、神州丸の侵略が、我々こそが正義だなどなど喚いて暴れているが、警察官によってパトカーへと押し込められていく。
艦治はその場で簡単な事情を聞かれるが、すぐに開放された。
「ご協力感謝致します。それでは我々はこれにて失礼致します」
「はい、ご苦労様です。よろしくお願い致します」
艦治は記者とカメラマンを乗せたパトカーが走り去るのを見送り、周りにもうマスコミの影がないのを確認する。
「えっと、艦治君、で合ってる?」
「あぁ、おばさん。お騒がせしました」
「あーらぁ、ちょっと見ない間に男前になって!」
艦治は騒ぎを気にして顔を出したお隣のおばさんと少し話した後、自宅へと入った。




