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超巨大宇宙船が落ちて来てから十八年が経ちました:今日からあなたが艦長です!!  作者: なつのさんち
二〇四七年

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048:ダブルデート

 ダブルデートだ! と決まったものの、平日の学校終わり、そして艦治(かんじ)良光(よしみつ)望海(のぞみ)は明日も学校がある現役高校生の身なので、それほど遠出が出来る訳ではない。


鳳翔(ほうしょう)に行く? めちゃくちゃ色んな施設があるんでしょ?≫


≪いや、まだ蒼井(あおい)さんにそこらへんの事情を伝えるのは早いよ。

 僕は良いとしても、蒼井さんに変な気を遣わせるのも嫌だし、気苦労を掛ける事になるかも≫


 望海はまだ良光の彼女という訳でもなく、もし二人が付き合うようになったとて、早い段階での秘密の共有は過度の心理的負担を掛けてしまいかねない。


「カラオケか、ボウリングか、ゲーセンかくらいか?

 今から映画館行っても時間がもったいねぇしな」


「時間がもったいない、ってどういう事?」


「ただ座って映画を眺めてるだけなんて、一人でも出来るだろ? 見終わった後に感想を言い合うような時間も取れねぇし、今やる事じゃねぇだろ」


 良光が艦治の疑問に答える。その言葉を聞いて、望海が少し嬉しそうな表情を浮かべる。


「じゃあとりあえずカラオケもボウリングもゲーセンもあるとこに行こうか」


 艦治はナギに指示を出し、適当にドライブしていた車は目的地へ向けて方向を変えた。



六分儀(ろくぶんぎ)です」


「……六分儀様、ですね。お待ちしておりました、こちらへどうぞ」


 四人は複合型アミューズメント施設『ウィニングラン』へ到着し、ナギを通じて予約していたボウリング場へやって来た。

 予約の名前はその場のノリ的なヤツだ。

 カラオケでは曲が邪魔して、良光と望海が喋りにくいだろうというまなみの判断だ。

 それぞれシューズとボールを選び、通されたレーンで準備をする。


「ひゅー。女子高生とかたまんねぇな!」

「青臭ぇ坊主なんか放っといて俺らと遊ばね?」


 隣のレーンにいた大学生風の男達が茶々を入れて来るが、まなみは無視し、望海は苦笑いを浮かべる。

 良光は男達をじっと見つめて、艦治は立ち上がりボールを持って構える。


「何も言い返せねぇじゃん」

「ビビってんじゃね?」


 ゲラゲラと笑う男達を後目に、艦治が綺麗なフォームでボールを放つ。


ゴォォォォォォォォォォパァーーン!!


 かなりの勢いで転がったボールは、途轍もない衝撃音を立ててピンを弾き、場内の注目を集めた。


「お客様! 探索者の方は少し力を抜いて投げるようお願いしております! ピンもレーンも壊れてしまいますので!!」


 艦治は店員に頭を下げ、三人の元へ戻る。


「ナイスストライク!」


「すごい音だったよ……」


≪さすが私のかんち! ちょーカッコイイよ!!≫


 良光と望海とまなみとハイタッチをしている視界の端で、隣の大学生達が顔を青ざめさせているのが見えた。


≪次行っきまぁーす!≫


ゴォォォォォォォォォォパァーーン!!


「お客様ぁ!!」


 艦治に次いでまなみも店員から注意を受けてしまった。

 この時点で隣の大学生二人は片付け始めており、続いて良光と望海が投げ終わる頃にはレーンを離れてしまった。


「力加減がムズな」


「そうだね、どうしても力んじゃう」


 良光と望海は先の二人の様子を見て、かなり控えめに投げたつもりだったが、それでもピンを弾き飛ばす衝撃音はそれほど変わらなかった。

 それからはいかに力を抜いた状態で投げ、正確にピンに当てるかを意識するゲームとなり、気を使い過ぎてあまり楽しめないうちに十フレーム目も終了してしまった。

 調子を掴めず、スコアは全員150前後だった。


「二ゲーム目はなしで良いよね?」


「そだなぁ、ゲーセン見に行くか」


 艦治が立ち上がり、受付で清算を済ませる。


「え、私自分で払うよ!?」


「いや、もう良光から二人分貰ってるから」


≪って事で≫


≪あざーっ≫


 望海が艦治と良光の顔を見比べて、わたわたしている。自分で払うべきだという思いと、払ってもらったのに恥をかかせてはいけないのではという思いが頭を巡り、どうすべきか迷っているのだ。


≪望海ちゃん、良光君は日曜日に初探索ですごく稼いだらしいから大丈夫だよ。でも気持ちだけでも返したいなら、ゲーセンでジュースでも買ってあげれば良いかも≫


「えー? そういうものなの?

 うーん、じゃあゲーセン行こっか。お返しに好きなジュース選んで」


「おう、じゃあ行くか」


 まなみのアシストもありつつ、望海は納得する事にした。

 とは言え、靴のレンタル代は自分で払っているし、ボウリングの一ゲーム分など大した金額ではない。高校生の奢りとしても可愛い程度のものだ。


 エスカレーターでフロアを移動し、ゲーセンへと到着。望海は律儀に良光を自販機へと連れて行き、先に小銭を入れた状態でジュースを選ばせる。


「じゃあコーヒー貰うわ」


 望海はミルクティーを選び、二人は近くのベンチに腰掛けた。


「ブラックコーヒー飲むんだね。どうしても苦くて飲めないのよねぇ」


「このコーヒーは無糖でも豆自体の甘味があるからそれほど苦くねぇんだ」


「えー、ホントに? 強がりじゃなくって?」


「飲んでみ?」


 良光がプルタブを開けて、望海にコーヒーをすすめる。望海はまず匂いを確認した後に口を付け、そっと口に含んだ。


「んぐっ!? 嘘つき、めっちゃ苦いじゃん!!」


「えー、そぉかぁ?」


 突き返された缶を受け取り、ぐびりと飲み込む。


「鼻から抜ける匂いがほんのり甘いだろ?」


「匂いが甘いだけで味は苦いって事じゃない? もぉー!」


 望海が砂糖のたっぷり入ったミルクティーを飲み、お口直しする。


「はぁー、苦かった」


 そのタイミングで、少し離れたところから様子を見守っていたまなみから望海へと電脳通話が入る。


「……ちょっと飲んでみる?」


「おう、紅茶も好きだけどこのミルクティーは飲んだ事ねぇわ」


 何の躊躇いもなく良光がミルクティーに口を付けたのを見て、少しだけ眉を顰める望海。


「……間接キス」


「んん? 何だ、気にしてたのか。

 俺は姉ちゃんと妹がいるから、あんま気になんないんだよ。

 望海は? 兄弟いんの?」


「弟がいるけど、……確かにあんま気にしないか」


 まなみと艦治は二人が楽しそうに会話しているのを見届けた後、その場を離れて二人で楽しむ事にしたのだった。

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