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超巨大宇宙船が落ちて来てから十八年が経ちました:今日からあなたが艦長です!!  作者: なつのさんち
二〇四七年

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047:一歩前進

≪校門前にマスコミが押し寄せています≫


 全ての授業が終わり、艦治(かんじ)が帰り支度をしていると、ナギから外の様子について伝えられた。


≪え、何で?≫


≪サクセサー商事の難波(なんば)氏の息子の通う高校という理由で来たようです。

 同様に、長男の勤務先や次男が通う大学周辺でもマスコミが張っているようです≫


 艦治の中ではすでに終わった話になっていたが、世間ではこの騒動は始まったばかりである。

 迷宮(ダンジョン)関連の事業なんてろくなものではないと、遠回しに神州丸(しんしゅうまる)を貶めようとする勢力や、神州丸への印象が悪くなると外交問題に発展するという神州丸を恐れる勢力などが騒ぎ、昨日に引き続き本日もサクセサー商事の株価はストップ安となっている。


「おい、帰ろうぜ」


 良光(よしみつ)が、未だに席に座ったままの艦治へ声を掛ける。

 良光の後ろには望海(のぞみ)もいて、この後まなみと合流して四人で神州丸へ向かう予定になっているのだ。


「うん、ちょっと待って」


≪外にマスコミが張ってるらしい≫


≪はぁ? 面倒だな≫


 いつも通りまなみが乗った黒いミニバンが校門前に乗り付けてしまうと、いらぬ注目を浴びてしまう。


≪少し歩くか≫


≪そうだね≫


 艦治はまなみに事情を伝え、合流地点についてはナギの案内に従う事にした。

 妖精ナギは必要以上に目立つのは良くないと、自主的に艦治の通学鞄へと入った。


 艦治と良光と望海は下駄箱を出て、マスコミに声を掛けられるんじゃないかとそわそわしている生徒を追い抜き、校庭を歩く。


≪予想より多くね?≫


≪多いね。息子が通ってたってだけでここまで集まるものなのかな≫


 校門前には教職員達がマスコミを排除しようとしているが、記者達はそんな教職員へ矢継ぎ早に質問をしている。

 三人が校門を抜けて少し歩くと、取材に応じている女子生徒が目に入った。


「うちは難波(なんば)君と仲良くてぇ。でも何の事情も聞かされてなくってぇ、びっくりしてぇ」


≪うわぁ……≫


≪こいつマジか、やっぱちゃんと相手する必要ねぇな≫


 記者の質問に答えているのは、昼休みに艦治に声を掛けて来た俣野(またの)広子(ひろこ)だ。

 広子が答える姿は急にいなくなった友達を心配しているような印象は全くなく、注目を浴びている自分に酔っているように見える。


「それでぇ、その日の朝に難波君がぁ、他の生徒とトラブっててぇ……」


≪マズい、さっさと行くぞ≫


≪了解≫


≪最低ね、あの子≫


 艦治が吉三(よしぞう)に絡まれた話が出そうな雰囲気を察し、三人は早足でその場を通り抜けた。



≪何それ!? かんちの話を出すのは違うじゃん!! ナギ、その女の家庭もぶち壊ちゃって!!≫


「いやいやダメだから。まだ実害が出た訳じゃないし、何かある度にそんな事してたら周りから勘繰られちゃうよ」


 学校からある程度離れた場所で待っていた車に乗り込み、まなみと合流した三人。

 まなみは広子がマスコミに話していた内容を聞いて怒っている。


「それに俣野さんが喋った内容ってさ、高校生同士のちょっとしたいざこざだからさ、マスコミに話したからって何かある訳じゃないでしょ」


 怒り狂っているであろう無表情のまなみの頭を撫でながら、艦治が大丈夫だろうと話す。


「はぁ……。お前さ、もうちょっと自分の事を客観視しろよ。

 お前の連れてる人型妖精から、神州丸がお前を特別扱いしているんじゃないかって想像するだろ?

 すると単なる高校生のいざこざが、世間を賑わす不祥事と繋がっちまうだろ」


「そうかなぁ? 普通は繋がらないと思うけど」


「繋げるんだよ、面白そうだって思ったらな」


 艦治はそれほど問題にはならないだろうと考えているが、望海は良光の考えを支持した。


「陰謀論って結構好きな人多いし、それっぽく記事にすればどんどん尾ひれがついていっちゃうから無視出来ないと思うの。

 全国紙の一面記事にはならなくても、ゴシップ雑誌くらいなら書く可能性はあると思うよ」


 その予想を裏付けるかのように、ナギが艦治へ報告する。


「入国管理局にいるマスコミに学校での取材内容が伝わりました。

 今のタイミングでその制服を着たまま姿を現せば、注目されるのは間違いありません」


「マジか……」


 艦治が頭を抱えるが、すぐに考え方を変えた。


「じゃあ制服を脱げば良いって事か。どこかに寄って服を買えば良いのでは?」


≪わぁー! かんちとデートだ!! 制服デートだやったー!!≫


 まなみは何故か、つい三ヶ月前まで通っていた女子高のセーラー服を着ている。


「え、これ見越してた?」


≪ううん、本当に偶然。かんちに見せたくって着て来て良かったぁ!!≫


「でも服を買って着替えたらもう制服デートじゃなくなるよ?」


≪じゃあ服は買わずに神州丸にも向かわずにデートだけしようよっ! 別に毎日行く必要なくない? ねぇ、良いでしょ!? 望海ちゃんの背中も押せるし、ねっ?≫


≪あー、そっか。それはそれでアリだな≫


 制服デート、という単語を聞いて、顔を赤くしている望海の顔を盗み見る艦治。

 良光は中空に視線をやり、電脳ネットで情報収集をしているようだ。


「良光、予定変更して良い?

 このまま神州丸行ったら面倒ごとに巻き込まれそうだから、ダブルデートって事で」


「……ダブルデート?

 えーっと、俺は良いけど蒼井は嫌じゃないか?」


「嫌じゃない!! ……よ?」


 良光の問い掛けに、望海が勢いよく返事する。


≪デートなんだからーって事で下の名前で呼ぶように言ってやって!≫


 まなみが艦治へ指示を出し、


「良光のデートのお相手は蒼井さんなんだから、ちゃんと下の名前で呼ばないとだね」


 艦治の言葉を聞いて、自分が置かれている状況をある程度察した良光は、


「……そうだな。望海、で良いか?」


「……うん。私も良光君って、呼ぶね」


 状況を受け入れ、良光と望海の関係は少しだけ前に進む事となった。

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