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超巨大宇宙船が落ちて来てから十八年が経ちました:今日からあなたが艦長です!!  作者: なつのさんち
二〇四七年

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046:学食にて

「ねぇねぇ井尻君、一緒にご飯食べよっ!」


「あー、ごめん。良光と食べるから」


「じゃあ三人で食べようよ!」


「いや、僕は……」


「おい艦治(かんじ)、早く来いよ」


 クラスの女子に言い寄られている艦治の腕を取り、良光が教室の外へと連れ出した。


「あんなん適当に断れよ」


「いや、さすがにそれは……」


「お前さぁ、そんなん言ってたらこの先何回まなみさんに殺されるか分かんねぇぞ。

 そもそも俣野(またの)難波(なんば)と噂があんだから裏があるに決まってんだろ」


 艦治を誘っていた俣野(またの)広子(ひろこ)は、転校が発表された吉三(よしぞう)とよく一緒にいた女子生徒である。


「それは分かってるんだけど、きっぱりと拒絶するのもしんどいなぁと思って」


「慣れろ」


「うーん、慣れちゃうのも何か嫌だよなぁ」



「おーい、こっちこっち!」


 二人が学食に着くと、席を確保していた望海(のぞみ)が手を振って呼ぶ。その隣の席には恵美(えみ)が座っていた。


「蒼井さんとすっかり仲良くなってるじゃん」


「そうか? 元々それなりに喋る間柄ではあったけど」


 小声でそんな会話を交わした後、艦治が恵美の前に、良光が望海の前に座った。


「藤沢さんも蒼井さんと仲良いんだね」


「うん、二年から同じクラスだからねぇ。

 インプラント入れよって誘っても振られる程度の仲だけどねぇ」


「ちょっ!? それは、えっと……」


 恵美のからかいに、望海が慌てている。

 そんな二人のやり取りを眺めつつ、艦治は弁当を広げた。


「そそっ、そう言えばさっ! まなみちゃんから視界共有してってめちゃくちゃ要求されてるんだけど、良い?」


「あー、良いよ。

 ごめんね、嫌な事させられそうになったらきっぱり断ってくれて良いからね」


 まなみは望海に電脳通話で、艦治の姿を映すよう指示しているようだ。

 艦治は少し思うところがあり、まなみに釘を差す事にした。


≪蒼井さんが僕を視る分、良光と目を合わす時間が減るじゃん≫


≪あー、そこまで考えてなかったー。え、どうしよう≫


≪視界共有止めようよ。あ、ナギ越しの共有って出来るのかな≫


≪可能です。実行します≫


 通学鞄からナギが飛び出し、テーブルの上で正座して艦治を見上げる。


「蒼井さん、共有解除して良いよ。ごめんね」


「えっと、うん。分かった」


 望海が学食のうどんを啜りながら、ちらちらと良光の表情を窺う。良光はそんな望海には気付かずに、がつがつとご飯をかき込んでいる。


「その子が井尻君の支援妖精かぁ。かぁーいーなぁ。和服着せてるんだね。着せ替えしたりしないの?」


「しないよ。そもそも背中の羽がもげそうで怖いじゃん」


 艦治には妖精ナギを着替えさせたいという発想がなかった。ナギも着替える素振りを見せなかった為、ずっと同じ和服を着たままの状態だ。


「常に清潔を保てるようになっておりますので、このままでも問題ございません」


「うわぁ、流暢に喋るんだねぇ」


 ナギが口を開いた事で、周囲で様子を窺っていた生徒達がどよめいた。

 その多くはまだインプラントを入れていない者で、自分にもワンチャンあるんじゃないかという決して叶わない夢を抱いてしまう。


「井尻君の彼女の支援妖精も人型妖精なんだよ」


「えっと、まなみさんだっけ? のぞみん仲良くなったんだよね?」


 恵美も校門前で待っていたまなみの姿を見ていたが、無表情で何を考えているのか全く分からないという印象を持っていた。


「うん、めちゃくちゃ良い人だよ。綺麗だけど全然気取ってなくて」


 そう話す望海の顔に、飛び上がったナギが張り付く。


「うれしーーー! ありがとっ、私も望海ちゃんの事大好きだよっ!!」


「ナギ!? いきなり何やってんの!?」


 望海の顔に頬擦りするナギを見て、艦治が驚きの声を上げる。


「あー、あれだろ? まなみさんがナギの身体を遠隔操作してる感じ」


 良光の予想通り、ナギがまなみに妖精ナギの操作権を貸与し、一時的にまなみの意識が艦治の支援妖精の中に入り込んでいる状態だ。


「ってか飛べるの楽し過ぎる! わぁーい!!」


 ナギ(まなみ)が食堂を飛び回り、楽しそうにくるくると宙を舞う。まなみ本体ではあまり見せない、満面の笑みを浮かべている。


≪まなみ止めて! めっちゃ目立ってる!!≫


≪はぁい。ってかかんちが学校の間ずっとこうしてナギの身体借りてれば良いのでは!?≫


≪ダメー。

 ナギ、まなみの遠隔操作を解除。これは艦長命令だ≫


≪了解致しました≫


≪あぁっ、追い出されちゃった!! もぉーーー!!≫


 まなみが叫んでいるが、艦治は気にせず食事を続ける。ナギは艦治達のテーブルへと戻って来て、再び正座する。


「えっーと、支援妖精に自分の意識を入れるなんて、何で出来るのかな……?」


 恵美が当然の疑問を口にする。


「何かそれっぽいスキルでも持ってんじゃね? 知らんけど」


 艦治達を見つめている周囲に聞こえるように、大きな声で話す良光。

 スキルシステムについて外交大使であるナギは、迷宮関連の機能は自己防衛機能の管轄であり、自分は詳細を把握していないとして具体的な説明をしていない。

 政府関係者などから、スキルに関して便宜を図れ、などと面倒な要求を躱す為だ。

 従って、良光が言う支援妖精を遠隔操作出来る『何かそれっぽいスキル』の事を否定出来る人物がいない。


 こうして、人型の支援妖精が当たるかも知れない妖精ガチャと、支援妖精の中に入れるそれっぽいスキルが当たるスキルガチャという噂が広がり、多くの初心者探索者に叶わない希望を与えてしまうのだった。

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