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超巨大宇宙船が落ちて来てから十八年が経ちました:今日からあなたが艦長です!!  作者: なつのさんち
二〇四七年

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045:向き合い方

六月十二日 水曜日

『昨日、内部告発がきっかけで大きな騒動となっているサクセサー商事の幹部達が、外交大使であるナギ氏へ事情説明の為に神州丸(しんしゅうまる)を訪れました。

 しかし、ナギ氏は姿を現さず、警備員も一切幹部に取り合いませんでした。

 神州丸側はサクセサー商事への歩み寄りを全く見せなかった為、今後の日本と神州丸との外交に影響が出るのではと懸念の声が聞かれます』


「……何言ってんだ?」


 心乃春(このは)心乃夏(このか)の用意した朝食を摂りながら、聞こえて来た朝の報道番組に首を傾げる艦治(かんじ)


「ここは前々から黒い噂があったとこだな。父さん達の研究所は、こことは直接取引してないけどな」


「そうねぇ、業界では割と有名な話よねぇ。多分神州丸も把握してたと思うけど。

 ナギちゃん、事情を聞かせてもらっても大丈夫?」


 艦治は両親の職場に影響が出なさそうである事を聞いて、安心する。

 食卓の上に用意された特製の椅子に座っているナギが、治佳(はるか)に頷いて、口を開く。


「仰る通り、私は以前からサクセサー商事の不法行為を把握しておりましたが、特に問題視しておりませんでした。

 ですが、別件で少々面倒がありましたので、この情報を内部告発という形で表沙汰にし、対処する事に致しました」


「うーんと、もしかして艦治を守る為って事かな?」


 治樹(はるき)が予想を口にするが、ナギは答えない。


「そうだよ。サクセサー商事の役員の息子が突っかかって来たんだ。

 僕は全く相手にしなかったんだけど、ナギが排除した方が良いって判断したんだ。

 その結果、密輸に不正会計の内部告発、株価暴落ってなっちゃった」


 艦治は今の状況を黙っておく事が出来ず、素直に両親に報告する事にした。


「なるほど、まぁお前は全く責任を感じる必要はないな」


「そうね。迷宮(ダンジョン)利権で神州丸を欺いてたとなると、いずれ誰かがリークしてたはずよ。

 きっかけがその役員の子供ってだけで、艦治が気に病む必要は全くないわ」


「……そっか、分かったよ」


 両親からも気にするなと声を掛けられ、ようやく艦治の中でこの出来事が消化されたようだ。


「それにしても、この報道ってちょっと変じゃない? 何となく神州丸に対する悪い印象を与えようとしているように感じるんだけど」


 艦治が聞こえてきた報道内容への疑問を口にする。テレビ画面ではスーツを着た老人男性が、眉間に皺を寄せて神州丸に対する批難発言をしている。


「既存のマスコミなんて昔からこういうものよ」


「艦治ももうインプラントを入れてるんだし、テレビを付ける必要はないかもなぁ」


 ナギは神州丸として、特にマスコミに対して力を入れて対応をして来なかった。探索者に直接利益を用意してやる事で、探索者が探索者を呼び、探索者人口が増え続けていた。

 ナギの目的は探索者のDNAを解析し、前艦長である三ノ宮(さんのみや)伊之助(いのすけ)へ至る遺伝子を確保する事であり、現在はその目的が達成されている為、マスコミへ良い顔をする必要が全くないのだ。


 しかし、マスコミとしては神州丸の態度は非常に気に食わないものだ。第三の権力であるマスコミのご機嫌を伺わず、金銭供与もなく、その他利権も与えない神州丸は、マスコミにとって非常に面白くない存在だ。


 迷宮利権で潤っている企業がマスコミのスポンサーとなっている場合も多く、間接的には利害関係と見なされる為、普段はあまり大きな声で批判したり神州丸を下げて報道する事は減って来ていたが、何か事が起きればその限りではない。

 材料があればここぞとばかりに攻撃し、自分達の足元に触れ伏すよう仕向けようとするのだ。


 加えて、神州丸が出現する前の体制側は、現在は基本的に反インプラント勢力である。

 インプラントを促進する存在である神州丸は、彼らにとっては相まみえる事のない敵対組織なのである。

 可能であれば再びミサイル攻撃でもして、排除したいと思っている事だろう。


「何でインプラントを入れる事に反対するの? 別に自分が強制的に入れられる訳じゃないから良くない?」


「自分以外みんなが入れるって事自体が恐怖なんじゃない?

 同調圧力を恐れてる、とか」


 治佳の意見を聞いた治樹が、頷きつつさらに意見を述べる。


「それももちろんあると思うけど、インプラントを入れる事で圧倒的に脳の処理能力が上がるだろ?

 それが自分自身への脅威になる。未だにソロバンで計算している人は、パソコンを持っている人には敵わないからねぇ」


「え? じゃあ自分も入れれば良くない?」


「入れない派の同調圧力も無視出来ないんだよ。入れない派が権力を持っている組織だと特にね。

 あとは、インプラントを入れる事で今までやって来た悪事が神州丸に筒抜けになってしまうんじゃないかって恐れてるのもあるだろうね。

 ナギの話を聞く限り、インプラントが入ってる入ってないすら関係なく、情報収集してそうだけどね」


 治樹の言葉を受けて、ナギが口を開く。


「仰る通りです。インプラントの有無に関わらず、私は従来型の通信インフラを押さえておりますので、情報収集には苦労致しません。

 神州丸に対する不正や不都合な言動についてはある程度見逃しますが、井尻家や加見里(かみり)家、各関係者に対する悪意に対してはこれからも速やかに対処していくつもりです」


「それは心強いなぁ。安心して仕事が出来るよ」


「そうねぇ。艦治もちゃんと考えてるって分かったし、心配はなさそうねぇ」


 息子が強大な力を持っている事を知っても、両親が自分に対する恐れや機嫌を伺うような素振りを全く見せなかった為、艦治は心から安堵した。


 その日、担任の英子から吉三が家庭の事情で転校したと聞かされた際も、少しだけ胸が痛んだが、思い悩むほどではなかった。

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