043:恋人と同級生
艦治達はその日の訓練を終え、良光の治療の為に医療施設へ向かった。
穂波と真美はまだ<恐悦至極>が探索を続けている、侵略迷宮へと戻って行った。
「うへぇ、めっちゃ見られてる」
「仕方ないよ、元々注目浴びてたし」
良光は足首を骨折してしまった為、艦治におんぶをされている。
良光の頭には支援妖精のテオが乗っており、テオの上にはナギが跨っている。
「多分折れてるの、足首だけじゃねぇわ。痛覚軽減スキルのお陰で分かりにくいけど」
「僕も骨折までは行かなくても、ひびは入ってるかも知れないよ」
「穂波さんだけじゃなくまなみさんも強いんだなぁ。降りたいところだけどこればっかりはなぁ」
「気にしなくて良いよ」
≪良くないよ!! 全っ然良くないんだからねっ!!≫
艦治が良光をおぶってからずっと、まなみは良光の事を無表情のまま見つめ続けている。
≪またおんぶしてあげるから≫
≪いつ? この後すぐ?≫
≪あー、僕の治療が終わったらね≫
「えっ、高須君!? 怪我したの?」
神州丸のロビーへと戻るワープゲートまであと少しというところで、同級生の蒼井望海が良光に気付いて走り寄って来た。
「おー、蒼井。剣術教えてもらってたんだけど足首が折れたっぽい」
「えぇ!? 何で折れるまでやるのよ!
ちょっと井尻君、どういうつもり? いくら幼馴染だからって……」
望海が艦治に詰め寄ろうとするが、まなみが艦治の前に出て望海を止める。
「……私のパパが、教えてた」
「あなたのお父さん……?」
「……そう、探索者」
「探索者だからって折れるまでやるのは……」
まなみにも食ってかかりそうな様子の望海を、良光が止めた。
「いやいや待てって! 俺らは探索者始めたばっかで、とりあえず戦闘訓練を受けてんだよ。
本格的な探索を始める前にしっかり基礎から鍛えてもらってんの! 骨が折れる程度は仕方ねぇんよ。
心配してくれんのは嬉しいけど、ちょっと熱くなり過ぎじゃね?」
良光の説明を聞き、それでも何か言いたげな望海。怒っているような、心配しているような表情を見せる。
「……ついて来る?」
まなみの問い掛けに少し迷った後、望海が頷いた。
「ちょっと待ってね。連れて来てくれた従姉に伝えるから」
望海は電脳通話で従姉へ事情を説明し、少し離れた場所にいた女性が手を振った。
「お待たせ。行こう、早く治療しなきゃ」
まるで三人を先導するかのように、望海が先頭に立って歩き出した。
≪何でついて来るんだ?≫
≪さぁ? まなみが知り合いじゃない相手に積極的に話し掛けたのが意外だけど、何かあるんじゃない?≫
良光と艦治は不思議に思いつつも、素直について歩く。
先ほどまでおんぶされている良光を見つめていたまなみが、今では望海の隣に立ち、短いながらも会話をしている。
平穏迷宮を出て、ロビーを歩いて動く歩道に乗り、医療施設へ辿り着いた。待機していた医療用ヒューマノイドが用意していた車椅子に良光を座らせ、第二手術準備室へと連れて行く。
「艦治様は第一手術準備室へお入り下さい」
「えっ!? 人型の妖精……?」
そこでようやくナギの存在に気付いた望海が、驚いて声を上げた。
「……私の妖精も」
まなみが肩に乗っていたナミを指差す。
「ホントだ、気付かなかった……。
えっと、もしかしてあなたは井尻君の、彼女さん?」
「……そう。良かったら」
二人が中空に視線を彷徨わせ始める。
「……えっと、キャラ違い過ぎじゃない?」
艦治はまなみと望海が連絡先を交換した事を察し、一人で第一手術準備室へと入って行った。
艦治の治療はすぐに終わり、医療用ヒューマノイド達に世話されながら、また新しく用意された特別仕様初期装備を着用した。
艦治が第一手術準備室から出ると、待ち合いでは無表情のまなみと笑顔の望海の姿があった。
「終わったよ」
≪かんち! 見て見て友達出来たっ!! ちょー良い子だよ!!≫
「それは良かったね。
蒼井さん、まなみと仲良くしてね」
「いや、それはもちろんなんだけど、まなみちゃんは私にスパイしろって言ってるんだよ?
井尻君が変な女の子にちょっかい掛けられないように見張っててって。
良いの? 私は聞かれたら答えちゃうよ?」
「えーっと、ありのまま伝えてくれて良いから」
艦治は苦笑いを浮かべるが、特にやましい事をするつもりはないので受け入れる事にした。
艦治としては、自分と同じ教室で授業を受ける望海に対し、まなみが嫉妬心を見せない方が気になったのだが、それは自意識過剰なような気がしたのであまり考えないようにした。
「終わったー。
あれ? 何か仲良くなってね?」
治療を終えた良光が、まなみと望海の距離感が縮まっている事に気付いた。
「ちょっと止めてよ、押さないでってば!」
まなみが無表情のまま、ぐいぐいと望海の背中を押しており、望海が顔を赤くさせている。
「……何だ?」
良光は二人が何で盛り上がっているのか理解出来ないようだ。
「分かんない。すっかりまなみを理解した気でいたけど、まだまだ知らない事が多いんだって気付いたよ」
わちゃわちゃと騒いでいる望海と、無表情だがどこか楽し気に見えるまなみを眺め、艦治が呟く。
「出会って二日三日で何が分かんだよ」
「それはそう」




