041:保有スキル確認
全ての授業が終わり、艦治と良光が校門へと歩いて行く。
ちょうど学校の敷地外へ出たと同時に黒いミニバンが前に停まり、そのまま二人とも車へ乗り込んだ。
≪お疲れ様ぁー! 会いたかったよー!! …………あれ? 何か他の女の匂い、しない?≫
艦治の右腕に抱き着いたまなみが、無表情のままクンクンと艦治のワイシャツを嗅ぐ。
≪うちは共学だからね≫
艦治は当たり障りのない返事をし、左手でまなみの頭を撫でる。
まなみの肩に座っていたナミが、艦治の通学鞄を開けてナギを外へ出した。
「あーあー、見せつけてくれるぜ」
二人の後ろ、後部座席に乗り込んだ良光が茶化す。今日は<恐悦至極>が高難易度の侵略迷宮へ挑む為、穂波と真美の了承を得て、良光も<珠聯璧合>の訓練に参加する事になっている。
穂波と真美は先に神州丸へ行き、今日の分の稼ぎを確保するべく<恐悦至極>に同行している。
「良光も彼女いた事あるじゃん」
「けっ、思い出させんな」
≪何かあったの?≫
「外でデートしてるところをお姉さんと妹さんに見つかって、あんな女止めとけって言われたんだって。
で、無視して付き合ってたんだけど、大学生と手を繋いで歩いてるとこを見ちゃって、結局別れたんだ」
≪うわぁ、浮気ダメ絶対≫
「俺も迷宮内で血だらけになったら綺麗なお姉さんに助けてもらえるかな……」
「試してみれば?」
などとバカな話をしていると、三人を乗せたミニバンが入国管理局の前に停まった。
今日も平穏迷宮にて訓練をするのだが、穂波と真美が来るまでは戦闘訓練をしないように言われている為、とりあえず今自分達が持っているスキルを確認する事となった。
「鑑定、鑑定妨害、鑑定偽装、亜空間収納、身体強化、聴覚強化、遠見、暗視、熱源探知、痛覚軽減、思考加速、並列思考、言語理解、恐怖耐性、剣術、盾術、槍術、棒術、弓術、斧術、銃術、柔術、体術、護身術、逃走術、水泳、算術、騎乗、地形把握、地質探知、毒検知、敵意感知、料理、医学知識、応急処置、整理整頓、掃除、強運、豪運、火魔法、水魔法、風魔法、土魔法、雷魔法、氷魔法、光魔法、闇魔法、転移魔法、空間魔法、重力魔法……」
視界にずらずらと並べられたスキルを艦治が読み上げる。
「魔法ってスキルか?」
「実際にはスキルの使用に合わせて火を起こしたり、水を出現させたり、風を送ったりして、さも魔法を行使しているかのように見せるだけのものです」
艦治の肩に座るナギの説明を受けて、良光の表情が曇った。
「まるでお遊びじゃん」
「その通りです。このシステムは迷宮探索ゲームを流用しております。ですので人に危害を加える事はありません」
「……よく二十年近くもただのゲームシステムだってバレなかったな」
神州丸内にある迷宮は、侵入者から宇宙船内を守る為に出現した防衛システムという事になっている。
今現在<恐悦至極>が探索している侵略迷宮は、その名の通り侵入者の侵略を受けていると発表している迷宮であり、実際に迷宮内に拠点を築いて繁殖している地球外生物の存在が確認されている。
もっとも、その地球外生物を作成したのはナギであり、完全にナギの制御下にある。
「超巨大宇宙船自体が本物なんだから、多少変な事が起きてもそのまま信じるしかないんじゃない?」
艦治が腕を伸ばし、火を出現させるべく頭に思い浮かべる。すると、手のひらから十センチほど前にバスケットボール大の火の玉が出現した。
「魔法と言いつつ呪文の詠唱が必要なく、MPも消費せずに火を出す事が出来る。
ちょっと都合良過ぎだな」
「対象年齢六歳からのゲームですので」
「……ナギって頭良いのか悪いのか分かんねーな」
≪火魔法なんてスキルがあるなんて、他の探索者は知らないと思うよ? 私だって今初めて知ったもん≫
艦治が周りの様子を窺うと、明らかに驚いた表情で固まっている。
「僕、何かやっちゃいましたか?」
「言ってる場合かよ。
それよか亜空間収納の使い方教えてほしいんだけど」
良光がまなみに教えを乞う。
≪亜空間収納に入れたものは全部自動でリスト化してくれるから、視界にリストを表示させて何が入ってるか確認して、出したいものを思い浮かべながら黒い穴に手を突っ込めば取れるようになるよ≫
「亜空間収納の中に入れたら自動でリスト化されるから、取り出したい時は視界に収納リストを表示させて、取り出したいものを思い浮かべながら黒い穴に手を入れれば取り出せるらしい」
まなみと良光は連絡先を交換しておらず、二人のやり取りは艦治を通して行われる。
艦治はやや手間だと感じているが、良光はむしろそれくらいの距離感の方が色々な事に巻き込まれずに済む、と思っていたりする。
「亜空間収納も珍しいスキルなんだっけ?
確かまなみが担架を出してくれた時にせーぎさんがそんな事言ってたような」
≪珍しいけど持ってる人が全くいないってほどじゃない感じかなー≫
「亜空間収納も元は個人の能力ではなくゲームシステムですので、実際は亜空間収納へのアクセス権を持っているかいないかの違いになりますね」
「亜空間収納の広さというか、容量ってどれくらいあるの?」
「ゲームの設定そのままですので一人につき十立方メートルという上限がありますが、皆さんはその上限を撤廃しておりますので、理論上無限と考えて頂いて問題ございません」
「それはナギを収納する事って出来るの?」
「この身体を亜空間収納へ入れる事は出来ません。人工とはいえ生命体ですので、格納を拒絶されます」
ナギを収納しておけば、周りの目を気にせずに済むと考えた艦治だったが、その思惑は外れてしまった。




