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超巨大宇宙船が落ちて来てから十八年が経ちました:今日からあなたが艦長です!!  作者: なつのさんち
二〇四七年

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004:宇宙船『神州丸』

 学校を出た艦治(かんじ)良光(よしみつ)は、その足で駅へと向かった。電車に乗るのではなく、駅にシャトルバスが停車するのだ。


 二人が暮らしているこの街は、宇宙船『神州丸(しんしゅうまる)』に一番近い街として、神州丸が不時着してからの十八年間で非常に栄えた。

 良光は代々この街で暮らしている一族の生まれであるが、艦治は両親が神州丸から提供される科学技術について研究する機関に勤める為に移住して来た。


「そんなに人いないね」


「まぁ平日ど真ん中だからな」


 インプラント埋入(まいにゅう)手術は、神州丸内部でしか施術出来ない。地球の医療レベルがそこまで追い付いていない事もあるが、神州丸が人の手による埋入手術の技術提供を行っていないからだ。

 神州丸内部では全て機械によって手術が自動で行われる。従って、人の手で埋入手術を施術する方法を伝授する事が出来ないのだ。


「高校生で埋入手術を受けるには近隣の県に住んでる奴らだけだろうし、大学生なら連休とか夏休みとかに泊りがけで来るだろうし、社会人もそんな感じじゃね?」


「あー、そっか。高校生でインプラント入れられる状況にいる人って、結構少数派なんだね」


「そういうこった。ご先祖様に感謝だな。お前は両親に、か」


「まぁ、最近はなかなか家に帰って来ないけどね」


 艦治の両親は神州丸が不時着する前から研究者だったが、宇宙船が落ちて来たというニュースを聞いて、すぐにこの街に引っ越して来たのだ。

 艦治が高校に入学してからは、両親共に研究所に寝泊まりしながら研究を続けている。知的好奇心が旺盛な両親だ。


 二人がうだうだと喋っていると、バス停に駅と神州丸を往復するシャトルバスが止まった。

 シャトルバスには艦治と良光を含めて、六人が乗り込んだ。シャトルバスは駅を出て、どこにも停車せずに港へと到着した。


「うわぁ……」


「……字は遠くて読めないけど、主張したい事は伝わって来るね」


 バス停の近くはプラカードを掲げた数十人の人間によって囲まれていた。


「インプラントなんて必要ない!」

「制服の子達、高校生でしょ!? 早まらないで!!」

「日本政府は神州丸に操られている!」

「戦争反対! 宇宙船は報復攻撃を謝罪しろ!!」

「神は再び降臨される!!」


 思想家や活動家などが、インプラント埋入手術を受けに来た者に向けて訴え掛ける。しかし、ある一定の距離からは近付かない。

 この付近には地元警察の警備の他、自衛隊が巡回しているからだ。さらに、密かに公安も彼らに対して目を光らせている。

 必死にプラカードを掲げる彼らから離れ、艦治と良光は海へと目を向ける。


「相変わらずでけぇなぁ、陸って言うより山だよな……」


「琵琶湖より一回り小さいって言われても、比較対象が大き過ぎるからよく分からないよねぇ……」


 駿河湾にすっぽりと包まれるかのように、宇宙船『神州丸』が停泊している。墜落した際に船体で海底をえぐり取るように着陸しているので、海に浮かんでいる訳ではない。

 海底に接地していてもなお高く、一番高い場所で海抜千五百メートルだ。

 なお、その際に津波や地揺れなどの災害は神州丸の科学力によって防がれたとされている。


「おふねおっきー!!」


「あっ、ちょっと待ちなさい!!」


 小さな男の子が神州丸に興奮して、母親の手を振り切って車道に向かって走り出してしまう。


「危ないよ!」


 艦治は咄嗟に男の子を抱き留め、そのすぐ横を車がクラクションを鳴らしながら通り過ぎて行った。


「すみません! ありがとうございます!!

 ほら、はる君もありがとして!!」


「ありがと!!」


 艦治はずれた眼鏡を直しながら、親子に笑顔を見せる。


「何もなくて良かったです。

 はる君も、お母さんの手を離しちゃダメだよ?」


「うんっ!!」


 親子は手を振って艦治達から離れていく。その背中を見送る艦治だが、次第に顔色が悪くなっていく。後頭部の傷に触れ、そっと撫でる。


「大丈夫か? そこらでちょっと休むか」


「……ごめん。ちょっと思い出しちゃった」


「あんな事故を経験してても、咄嗟に身体が動くお前はすごいよ。

 よし、俺がジュース奢ってやろう」


 二人はベンチに座って、少しの間休憩する事にした。



「ここまで来ると人が多いんだな」


「みんな探索者なのかな……」


 港の近辺は、神州丸内部にある迷宮(ダンジョン)に通う探索者が多く住んでおり、探索者が持ち帰った採掘品を買い取る施設や、探索に必要な装備などを売っている店などもあり、非常に賑わっている。


 港から見えているとはいえ、神州丸へと向かうには海を渡らなければならない。フェリーで神州丸へ近付いたとて、大きさが違い過ぎて艦上へと乗り込む事が出来ない。その為、港と神州丸との間を結ぶロープウェイが用意されている。

 このロープウェイに乗りさえすれば神州丸へ行けるのだが、宇宙船とはいえ国際的には一つの国家として扱われている。従って、ロープウェイに乗り込む前に入国審査が実施される。

 なお、日本からの出国手続きも、パスポートも必要ない。


 ロープウェイ乗り場となっている建物が入国管理局であり、ロープウェイへ向かう手前に自動改札機が設置されている。ほとんどの人達は自動改札機をくぐってロープウェイへと向かうエレベーターに乗り込んでいく。

 その流れに沿うように良光が歩き出すが、一人の男が声を掛けた。


「おい、兄ちゃんら初めてか?」


 タンクトップ姿のその男の身体は、とても鍛えられている。彼の肩には猫型の支援妖精が乗っかって毛づくろいしており、彼が探索者である事が窺えた。


「はい! 俺ら今日インプラント入れに来たっス!」


「そうか、じゃああっちの初回入国審査の窓口に並びな。探索者になる前の入国審査はしっかり確認されるからな。

 住民票なんかの必要書類は用意してあるか?」


「もちろんっス!」


「ありがとうございます」


 良光は男に対してサムズアップして見せ、艦治は丁寧にお辞儀をする。


ドンッ! グシャ!


 艦治が頭を下げたタイミングで、後ろから小走りで近付いて来た男がその背中にぶつかった。

 その拍子に、艦治が掛けていた眼鏡が外れて床に落ち、さらに態勢を崩してふら付いた艦治の足によって、落ちた眼鏡が踏み潰される。


「チッ! 邪魔なんだよ!!」


「あーあ、眼鏡グシャグシャじゃん。ウケるわー」


 ツレの女が言うように、艦治の眼鏡は鼻パッドが潰れて、ヒンジも歪みツルは破損していた。


「おいっ!!」


 声を荒げた良光のズボンを、艦治が手で引っ張って止めた。

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