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超巨大宇宙船が落ちて来てから十八年が経ちました:今日からあなたが艦長です!!  作者: なつのさんち
二〇四七年

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037:両家顔合わせ

 穂波(ほなみ)による艦治(かんじ)への剣術指南は、艦治の手首が折れた事で中断した。


≪パパやり過ぎ! いくらかんちに痛覚軽減スキルがあるからって折れるまでやる事ないじゃん!! かんち大丈夫? 今度私と二人だけの秘密の特訓してパパに仕返ししよっ! 手首だけじゃなくって肋骨とか鎖骨とか折っちゃおうねっ≫


≪へぇ、私の大事な穂波君の骨を折ろうって言うのねぇ? それは聞き捨てならないわぁ。その時は一対一ではなく二対二の乱戦になりそうねぇ≫


≪いやいやいや止めて下さいよ! 単純に僕が未熟だっただけで、仕返しなんて全く考えてないですから! むしろこの骨折が治ったらまた穂波さんに稽古つけてほしいと思ってますし≫


 電脳通話ではわちゃわちゃした会話を繰り広げているが、傍から見ると全身血だらけ、傷だらけ、青痣だらけの艦治と、その腕に抱き着いて穂波を睨みつけるまなみ。そして穂波の腕に抱き着いてまなみを睨みつける真美(まみ)と、かなり複雑な構図となっており、他の探索者から非常に注目されていた。


 ナギのすすめにより、艦治は骨折と打ち身や切り傷などの治療の為、医療設備で治療用ポッドに入った。


≪あらぁ、もう治っちゃったのぉ?≫


 前回と同じく、艦治が麻酔で眠っている間に完治したのだが、これには穂波も真美も驚いていた。


≪私達も同じレベルの治療を受けられるようにしてほしいわぁ≫


≪艦治様の許可が出れば、そのようにさせて頂きます≫


 治療用ポッドから出た艦治は真美のお願いを了承し、ナギへ自分と同様の治療をまなみと穂波と真美が受けられるようにと指示した。


 艦治の治療を終えて、一行はそれぞれ更衣室へ入った。

 艦治は穂波の近くで着替えていたが、穂波が知り合いらしき探索者達に声を掛けられていたのが印象深く感じられた。

 本人はあまり社交的なタイプに見えないが、正義(まさよし)が言っていたように、数多くの探索者の面倒を見て来たのだろうという事が窺えた。

 艦治との関係を聞かれた際に、穂波が息子だと答えた事で、探索者達を非常に驚かせた。



≪そっか! 家を出る前から井尻家にご挨拶に伺うつもりだったんだね!? 変にオシャレしてるなぁと思ったら、かんちと会うからじゃなくってお宅にお邪魔するからだったんだ!! 何で気付かなかったんだろう、くやしいぃぃぃ!!≫


 更衣室から出て、艦治と穂波が二人専用掲示板経由で会話をしていると、まなみと真美が着替えて出て来た。

 穂波のスーツ姿と真美の白いブラウスに紺のスカートという格好は、井尻家への訪問着だった事に、ようやくまなみが気付いたようだ。


≪あらぁ? まなみのその花柄は訪問着にしてはちょっと可愛過ぎるわねぇ。艦治君のお母様がどう思われるかしらぁ?≫


 先ほどの穂波の骨を折って仕返すという発言が尾を引いているのか、真美がまなみを煽る。


≪もぉぉぉ! ママのバカ!! 教えてくれたら良かったじゃん!! お母様に変な子だって思われたらどうしよぉ。かんち、ママとパパの事は嫌いになっても私の事は嫌いにならないでね!!≫


≪そんな心配しなくても大丈夫だよ≫


 艦治の左腕を締め上げるまなみだが、相変わらず無表情のままだ。しかし、艦治にはまなみが心細そうな表情に見えたので、右手でその頬に触れた。


≪うぅぅぅ、ずっとそうしといてよぉぉぉ≫


≪歩きにくいよ……≫



 帰りも周囲の注目を集めながら、四人は入国管理局の表の出入り口で車に乗り込んだ。

 井尻家へ向かう道中、まなみがデパートに寄って婚約のご挨拶に相応しい服を用意すると訴えたが、約束の時間が迫っているからと真美に却下されていた。



「きゃーーー!! なんって可愛いんでしょう!!

 私の事はお母さんと呼んでちょうだい!!」


「すみません、どうぞお上がり下さい」


 艦治がまなみと穂波と真美を連れて家へ帰ると、治樹(はるき)治佳(はるか)が玄関で待ち構えていた。

 艦治がまなみを紹介すると、まなみが声を発するより前に治佳が抱き寄せた。

 そんな治佳の非礼を謝り、治樹が穂波と真美を招き入れた。


 一同は互いに自己紹介をし合った後、まなみが治佳へ願い出て、艦治の妹である治奈(はるな)の仏壇に手を合わせたいと願い出た。


「……仏壇もお墓もないの」


「…………ごめんなさい、私……」


「いいえ! まなみちゃんは何も悪くないわ。気にしないでちょうだい!!

 私は今はとっても幸せだわ! 艦治がこんなに素敵なお嬢さんとお付き合いさせてもらっているんですもの」


「この子は夫に似て無口で無表情で、何を考えているのか分かりにくい子なんです。

 ですが、とっても優しくて心が強い子だと我が子ながらに思っております。

 何より、艦治さんを思う気持ちは本物です。暖かく見守って頂けると嬉しく思います」


 真実が治佳に頭を下げると、そこからは両親四人のお辞儀合戦になってしまった。

 タイミングを見計らって艦治が声を掛け、心乃春(このは)心乃夏(このか)が用意した夕食を共にする事となった。


≪家事を手伝ってくれるのは良いですねぇ≫


≪そうなのよー! それに二人にいっぱいお洋服を買ったの。嫌がらずに着て見せてくれるからもう楽しくって楽しくって。

 お風呂も一緒に入るのよー≫


≪ママ、家事なんて何もしないじゃん。パパと私が全部やってるじゃん。服も脱いだらそこらへんにポイポイ脱ぎ捨てるし、お風呂上がりもちゃんと拭かずにリビングまで出てくるからフローリングがベチャベチャになるし≫


≪まーなーみー? おうちに帰ったらママと一緒にお風呂に入りましょうねぇー?≫


≪嫌! 私はもう井尻家に嫁いだ身だから実家には帰りません!!≫


≪あー、まなみちゃん。電脳通話では会話の内容を考えてくれると嬉しいんだけど≫


≪はっ!? 失礼しましたお義父様! 以後気を付けます!!≫


 井尻家のダイニングではカチャカチャと食器が鳴る音が響くが、実際は六人が電脳通話を繋いで会話をしながら食事を楽しんでいる。

 昨夜が赤飯と鮎の塩焼きだったので、今夜は神戸牛のステーキが食卓に上がっている。

 心乃春と心乃夏は席に着かず、給仕に専念していた。


 夕食後、治樹と穂波は手土産のコニャックを、治佳と真美は手土産のケーキを楽しみながら、それぞれ友好を深めた。

 その間、まなみは艦治の部屋を見たがったので、二人で艦治の部屋でケーキを食べる事になった。


≪うちマンションだから二階の部屋って何か憧れるなぁ。この部屋結構広いね? ベッドをダブルからクイーンかキングに変えて、洋服ダンスをもう一つ置いても窮屈ではなさそうだし……≫


≪何でここに引っ越そうとすんのさ。気が早いよ。

 一緒に住むにしても高校を卒業してからだし、この部屋に住む必要もないじゃん≫


≪そうだけど、そうなんだけどー、何かかんちがずっと使ってる部屋だからさ、かんちの匂いに包まれてる感じがしてキュンキュンするの! ここにずっといたいなぁー≫


 まなみは艦治のベッドへダイブして、枕に顔を(うず)めて深呼吸している。

 艦治は普段自分が寝ているベッドに、まなみがうつ伏せで寝転がっているのを見て、湧き上がる情愛を何とか抑えようと必死に目を逸らしている。


「…………来ないの?」


 まなみが右目だけを向け、艦治に問い掛ける。そんなまなみからのお誘いを受けて、腰を上げようとした時。


≪二人とも降りて来てぇ。もうお暇するわよぉ≫


 真実からお声が掛かってしまった。


≪はーい、すぐ行くー≫


≪すぐに降ります≫


 と返事をしつつも、二人は熱いキスを交わすのだった。

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