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超巨大宇宙船が落ちて来てから十八年が経ちました:今日からあなたが艦長です!!  作者: なつのさんち
二〇四七年

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035:顔合わせ

 艦治はまなみに半ば押し込まれるように車に乗り込み、二列目のシートに押し込められてすぐに左腕に抱き着かれた。


≪これで当分かんちに言い寄る羽虫が減るかな。でもでも心配だから毎日迎えに来ようかな? ねぇねぇねぇ、良いよね?≫


 電脳通話でいつも通り喋り続けているまなみだが、艦治には今は全く返事をする余裕がない。


「うふふっ、微笑ましいわねぇ。昔の自分達を見ているみたいだわぁ」


「…………そうだな」


 ミニバンの三列目、後部座席にはまなみによく似た男女が座っていたからだ。


「えっと、初めまして。井尻艦治と申します」


 まなみを振りほどこうとしたが、左腕に抱き着いたまま離れないので、艦治は精一杯身体をひねって後ろを向き、自己紹介をした。


「あらあらご丁寧に。まなみの母の真美(まみ)よぉ。

 あなたの事はまなみから聞いているわぁ。色気も何もなかったまなみから婚約者が出来たって言われた時は悪い男に騙されたのかと思ったんだけど、ちゃんと挨拶の出来る人で良かったわぁ。

 ねぇ? あなた」


「…………そうだな」


 まなみの母親である真美は、まなみが艦治に抱き着いているのと同じように、まなみの父親である穂波(ほなみ)へと抱き着いている。

 ちなみに穂波は茶色のスーツに赤いネクタイ。真美は白いブラウスに紺のスカート。二人とも一見すると、会社の管理職や経営者のように見えるが、現役トップ探索者である。

 穂波の肩にはオオカミが、真美の肩にはジャガーが乗っている。


≪何で事前に伝えてくれなかったんだ!?≫


≪まなみ様に口止めされておりました≫


≪それでも艦長補佐か!?≫


≪それよりも、通学鞄から出して頂けませんか?≫


≪今それどころじゃないんだが!?≫


 艦治がナギに当たるが、今さら言っても仕方ないと思い直し、まなみにこれからの予定を確認する事にした。


「えっと、それで今はどこに向かってるの?」


「ふふっ、電脳通話を繋いだ方が早いわぁ」


 口に出して質問した艦治の視界に、真美と穂波からの連絡先交換の申請が表示された。

 すぐに承認すると、穂波と真美、そして艦治とまなみの四人でのグループ通話状態となった。


≪<珠聯璧合(しゅれんへきごう)>へようこそ。歓迎するわぁ≫


≪かんちの訓練をパパとママに頼んだんだ。早い方が良いと思って! それに会いたかったし、紹介も出来るし一石三鳥だと思ってさー。私って天才かも!!≫


≪あー、今から迷宮(ダンジョン)行く感じなんですね。えっと、よろしくお願いします≫


≪任せてちょうだい、しっかりと鍛えてあげるわぁ≫


≪パパもママもちょー厳しいからすぐに強くなれると思うよ! あー、あとかんちが神州丸(しんしゅうまる)の艦長だってバレちゃった☆ ごめん! でも二人共信用出来るし大丈夫だと思うから許して!!≫


≪この子が普通の子を好きになる訳ないものぉ。ちょーっとカマかけたらすぐに話したわぁ。艦治君には上手に手綱を握ってもらわないとダメかも知れないわねぇ≫


≪えっと、お二人が気にされないのであれば、僕は大丈夫です≫


≪そぉ? 器が大きいのねぇ。高校もしっかり通いたいって言ったみたいだし、まなみとのお付き合いもしっかりと先を見据えているみたいだし、安心したわぁ≫


≪わーありがとう! でも私の支援妖精としてナミが付いた時から私のDNAが久我(くが)莉枝子(りえこ)さんのものと一致したらしい、とかそのへんの相談をしてたから、それ関係でしょうって見抜かれたから仕方ないんだよねぇ。ってかママに隠し事出来る訳ないんだよね、ホントごめんねぇぇぇーーー≫


 喋り続けるまなみと真美の親子だが、穂波は何も発していない。艦治は穂波もまなみと同じように口下手で、まなみほどでないにしろ、電脳通話では話すのかと思ったが、そうではないようだ。


 艦治がそう思っていると、電脳通話とは別に、艦治と穂波の二人専用の掲示板へのお誘いの通知が来た。

 すぐに掲示板を確認する艦治。


【宇宙船内探索者集団<道三信長>構成員専用情報交換掲示板】


【道三】

≫井尻艦治様


 初めまして。加見里(かみり)穂波(ほなみ)と申します。

 娘、まなみから紹介したい人がいると言われた時は、ついにこの日が来てしまったかと、目の前が真っ暗になるような感覚に陥りました。

 ろくでもない男が自分の目の前に現れたら、まなみが何と言おうと引き離そうと思っておりました。


 しかし、あなたはとても真面目そうに見え、しっかりと相手の目を見て話そうとする誠実さがあり、腕を取るまなみの事も邪険にしない優しさを感じました。


 父親である私から見ても、二人はとてもお似合いだと思います。


 まなみは私に似て無口で、恋愛には奥手なところがありました。しかし、あなたと出会う事で母親と同じく嫉妬心の塊である事が発覚しました。

 あなたはまなみに四六時中束縛され、心当たりのない浮気を追及され、あなたに関わる女性は下心の有無に関わらず排除される事でしょう。

 人間関係の構築が、まなみのせいで上手くいかなくなる事も、あるかも知れません。


 ですが、娘の愛は本物です。それだけは信じてやって下さい。母親の嫉妬のせいで、将来パパと結婚するとさえ言えなかった可哀想な子ではありますが、素直で優しく誠実な女性に育ったと思っております。

 そんな娘が選んだあなたを、私も真美も信じております。二人の幸せを心から祈っています。

 もしも、二人だけでは乗り越えられない困難な壁にぶち当たったならば、私達を頼って下さい。

 一緒に乗り越えられるよう、協力を惜しみません。


 どうか娘を、よろしくお願い致します。


追伸:娘の相手が辛くなった時は、ここに愚痴を書いてストレス発散して下さい。

   大丈夫。私にも経験がありますから絶対に漏らしたりはしません。

 


 穂波が書き込んだ内容を目にし、口頭でも電脳通話でも無口なのに掲示板では長文書くの!? と艦治は驚いたが、書かれている内容についてはまなみへの深い愛と、自分への心遣いが感じられた。



【艦治】

ご丁寧にありがとうございます。

よろしくお願い致します。



 以上の簡単な返信を書き込んでいると、ちょうど艦治達を乗せた車は港へと到着したのだった。





「穂波ちゃん、道三を名乗ったら息子に殺される最期を迎えちゃうと思うんだけど、もっと他になかったの? 実の息子がいないからややこしくないかしらぁ?」


 穂波が作った艦治との二人専用の掲示板の存在は、速攻でバレていた。

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