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超巨大宇宙船が落ちて来てから十八年が経ちました:今日からあなたが艦長です!!  作者: なつのさんち
二〇四七年

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029:助言

「それにしてもヤバかったよなぁ、お前の身体。

 ほら、こんなん普通死んでるって」


 良光(よしみつ)が撮った艦治(かんじ)のズタボロ写真を電脳OS経由で本人に見せる。


「うわぁ、客観的に見るとこんなだったんだ。

 まなみはよく平気だったね」


≪恐怖耐性スキルのお陰だろーねー。さすがに顔までぐしゃぐしゃだったらダメだったかもだけど≫


 電脳通話は艦治とまなみしか繋がっておらず、良光と正義(まさよし)茂道(しげみち)から見ると、まなみは無表情で頷いただけに見えている。


「この写真、二人の結婚式の披露宴でスライドショーにして流してやるよ」


「悪趣味だな!」


《披露宴……///////////》


 そんな会話に、正義が食いついた。


「艦治、良光が撮った写真を俺らも貰って良いか?

 <恐悦至極>の新人がどれくらいの怪我が全治三日レベルなのか知りたいって言ってんだ。

 仲間が大怪我をした時に病院に連れて行きゃあ治るって理解してれば、動揺せずにさらなる怪我も防止出来るだろうってな」


 正義は、もしもさおりがただ見たいだけだったとしても、予備知識として知っておいて損にはならないと判断し、本人の許可さえ出れば共有しておきたいと考えていた。


「んー。不特定多数に見られても良いように、顔を隠してもらえれば良いですよ」


「そうか、助かる。

 良光、急がないから加工出来たら送ってくれるか?」


 中空に視線を彷徨わせていた良光が、正義に頷く。


「出来たんで送ったっス」


「早いな、助かる。

 じゃあうちの専用掲示板に貼らせてもらうわ」


 正義が<恐悦至極>構成員専用の掲示板へ怪我の写真を貼り付けた直後、英子から正義へ電脳通話の着信が入った。


「ん? どうしたんスか?」


 正義の様子が変わった為、良光が不思議に思い声を掛ける。

 正義は片手を上げて合図をし、少し待たせた。


「スマン、電脳通話が入った。

 あー、近くにいた奴がこっちに来るらしい」


「全力で向かって来てるな」


 それからさほど間を置かず、五人がいた個室の扉が乱暴に開け放たれる。


「井尻君大丈夫なの!?」


「えっ、小笠原先せっ……!?」


 部屋へと飛び込んで来た人物、英子がソファーに座っている艦治の顔を抱き寄せた。


「せーぎ! あの写真井尻君じゃないでしょ!? ピンピンしてんじゃない! あれだけの怪我がこんなにすぐに治る訳ないもの。顔も隠してあったし!!」


 英子は胸に艦治の顔を収める形で抱き締めており、艦治は驚きで反応出来ずにいる。


≪浮気だ、やっぱり浮気するんだ。艦治にその気がなくても向こうから来るんだ。寄せ付けないようにしないとダメなんだ。浮気させられるんだ。奪われないようにしないといけないんだ。イヤだイヤだイヤだどうしようどうしようどうしよう……≫


 抱き締められている艦治の左腕をギリギリと締め上げるまなみ。


「えーこ、離してやれ」


「え? ……あら、ごめんなさい!」


 英子の後から入って来た武則に言われ、ようやく英子が艦治を解放した。艦治は大きく息を吐き、右手でまなみの頭を撫でる。


「はぁーーー、苦しかった。

 で、どうして小笠原先生と後藤先生が?」


「ドタキャンしたメンバー二人っスね!」


 気付いた良光がニヤリと笑う。

 英子はやや気まずそうな顔を見せるが、頷いた。


「ストンポールに入って行ったのが見えたの。

 休日にも担任の顔を見るのは嫌だろうと思って遠慮してあげたのよ」


≪担任? 教え子を胸に抱く担任? これは教育委員会事案なのでは? これは嫉妬ではなく告発。幼気な青少年を色欲教師の魔の手から救い出すべく……≫


 撫でていた手と止め、チョップを落とす艦治。


「えっと、ストンポールって何でしたっけ」


「あぁ! 石柱だからストーンとポールって訳スね!」


 茂道の実家の店名は『ストンポール』だ。<恐悦至極>の構成員同士で集まる場合、大抵このストンポールに集合する事になっている。


「そんな事より、井尻君は怪我をしたの? どう見てもすぐに治るような状態には思えなかったんだけど」


「えっと、怪我をしたのは本当ですけど、見ての通りピンピンしてます。ご心配をお掛けしてしまい、すみませんでした」


 艦治は担任教師という事で、下手な言い訳をせず端的に事実を伝える事にした。嘘は吐いていないが、真実を話した訳でもない。


「えーこ、恐らく艦治はナギさんから、探索者としての素質を見出されたんだと思う。

 支援妖精は人間型だし、身のこなしも良い。今回の怪我は自分が制御出来る以上の力を出しちまったせいで起こった事故みたいなもんだろう。

 だから治療も一般探索者向けのもんじゃなく、特別なもんだったんだろう」


 艦治が変な言い訳をしなかったお陰で、正義が英子へ代わりに説明をした。ナギの思惑という確かめようがない要因が含まれる事で、これ以上は不毛な議論になってしまう事が明らかとなった。


「納得は出来ないけど、井尻君が無事ならそれで良いわ。

 高須君も、怪我はなかったのね?」


「はい、俺は大丈夫っス」


 結局、英子は二人の担任として、今現在怪我をしていないならそれで良しという事とした。


「さっきせーぎが素質はあるって言ってたけど、そんなもの使いこなせなかったら意味がないんだからね?

 <恐悦至極>に入れとは言わないけど、本格的な探索を始める前にしっかりと身体の使い方を習って、探索に関する予備知識を教わって、咄嗟の際の状況判断の仕方も訓練を受けないとダメ。

 せーぎは面倒見が良いから、問題ないならせーぎに頼みなさい」


 英子が担任として、そして先輩探索者として艦治と良光に探索者として見習にをすべきと助言する。

 そこで、今まで黙ったまま艦治の左腕を締め上げていたまなみが口を開く。


「……両親に、頼む」


「あなたは?」


 目には入っていたが、艦治の心配と艦治と良光への助言を優先していた為に、英子はその存在に言及しなかった。

 が、まなみが自ら発言した事で、ようやく目を合わす事となった。


「……加見里(かみり)まなみ。艦治君の、婚約者」


「「「「「婚約者!?」」」」」


 みんなが艦治へと視線を向ける。二人が今日初めて会った事を知っている良光と正義と茂道は、信じられない表情を浮かべている。


「えっと、僕の婚約者です。まだお互いの両親への顔合わせは済んでませんけど」


 まなみの言葉を肯定する事で、ようやく艦治の左腕に血流が元に戻った。

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