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超巨大宇宙船が落ちて来てから十八年が経ちました:今日からあなたが艦長です!!  作者: なつのさんち
二〇四七年

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028:紹介

≪えぇ!? 平穏(チュートリアル)迷宮(ダンジョン)が木星の近くにある? どういう事??≫


 まなみは自分をコールドスリープさせようとするナミを疎ましく思っていた為、それほど詳しい説明を受けていた訳ではなかった。

 したがって、艦治(かんじ)が宇宙船『神州丸(しんしゅうまる)』の艦長であるとか、神州丸が実は墜落した訳ではないだとか、木星の衛星くらい大きな宇宙船があるだとかは初耳となる。


「今日からこの宇宙船の艦長です。なんて言われて戸惑ってたんだけど、まさか自分と同じような境遇の人がいるとは思わなかったよ。

 お陰で一人で悩んだりしなくて済みそうだ」


≪まぁ私達ってば一心同体だし? 一蓮托生だし、一騎当千だし一生懸命一念発起して一攫千金よ!!≫


「一攫千金する必要はないかな。一千億円だし、口座残高」


≪こーざざんだか??≫


 艦治はナギの金銭感覚がズレている話をする。


≪えーーー!? 一千億円あったら家どころか島とか買えるじゃん!!≫


「あくまで艦治様の口座残高が一千億円であって、総資産額となると島どころか国ごと買えるでしょう」


「ナギ、そのへんはまた今度ゆっくり聞くよ。神州丸と鳳翔(ほうしょう)の中も見て回りたいし。

 とりあえず今は良光(よしみつ)に連絡したいのと、お昼回ってるから何か食べたい」


≪確かにお腹減ったなぁ。何食べたい?≫


「ばしらさんのお母さんがサンドウィッチとか持たせてくれたんだけど、どうしたっけな。

 確かストレッチする時に地面において……、そのままか。誰かが食べてくれてたら良いけど」


 まなみが亜空間収納を呼び出して、手を突っ込み色んな食べ物を出してはローテーブルへと広げていく。


≪おにぎりにサンドウィッチに里芋の煮っころがしにきんぴらごぼうにさんまの塩焼きとポテトサラダと肉じゃがとカレーとハンバーグとシチューとグラタンと……≫


「多過ぎない!? しかも湯気出てるのあるし……」


「亜空間収納は時間停止機能がありますので、いつでも出来立てが召し上がれます。

 まなみ様はお料理がお好きなので、作っては収納されておりました」


 ナミがどこか得意気に説明する。


≪どれでも好きなだけ食べて良いよ♡ 初めての愛妻弁当……、ミャハ♪≫


「亜空間収納……、便利過ぎるな」


「艦治様も同じスキルをお持ちですが」


「だからスキルの説明を全く受けてないから知らないんだよ!」


≪まぁまぁ、今はとりあえず食べなんせ。たーんと食べなっせ≫


 ナギを睨みつつも、艦治は両手を合わせて頂きますをした。まなみが差し出した小皿と箸を受け取り、少し遅い昼食が始まる。


≪おー、良い食べっぷりだね。作った甲斐があるってもんよ!≫


 紙コップにお茶を注いでローテーブルに置いた後、まなみも食べ始める。


≪めちゃくちゃおいしいよ≫


 艦治は咀嚼を続けながら電脳通話で感想を伝える。


≪リクエストあったら作っとくよ。ずっと置いとけるからいっぱい作っちゃうんだよねぇ≫


 ガツガツと勢いよく食べる艦治を、まなみは嬉しそうに眺めながらゆっくりと箸を進めた。



「ごちそうさまでした」


≪お粗末様でした≫


 まなみが出したアイスコーヒーを飲みながら、二人が食休みをしている。


「あ、そうだ。良光に連絡しなきゃ」


 艦治が中空を見つめながら、電脳OSを操作する。


≪まだ迷宮にいる感じ?≫


「ちょうど探索を終えて戻ろうってなってたとこみたい」


≪そっか、じゃあロビーに戻っとく?≫


「こちらへお通しされてはいかがでしょうか?

 電脳OSで位置情報をお送りになればよろしいかと」


「なるほど、じゃあそうしよう」


 艦治はナギのすすめもあり、この個室に良光を呼ぶ事にした。



「……何で完治してんだ?」


 個室に入り、艦治を見た正義(まさよし)が驚きの表情を見せる。


「えっと、治療用ポッドに入れられたからでは?」


「どう考えても全治三日は掛かるような大怪我だったぞ?

 まだここに運んでからに二時間も経ってねぇんだが……」


≪そうなの?≫


≪探索者の怪我をあまりにも早く治してしまうと外の人間がうるさくなる可能性があるので、ある程度は時間を掛けるようにしておりました。

 艦治様にはその必要がありませんので、通常の速度で治療致しました≫


≪だからそういう裏話があるなら事前に教えといてってば!≫


≪……ミャハ♪≫


「ぶっ……!!」


 ナギからの不意打ちを食らい、艦治が吹き出してしまう。


「艦治?」


「いや、大丈夫! 多分見た目ほど重傷じゃなかったんだと思いますよ?」


「まぁ、ナギさんが期待してる新人だから、特別な治療をしたのかも知れんな」


「全力治療ってヤツか」


 苦しい言い訳をする艦治だが、正義も茂道もそれ以上は追及してこなかった。


「ところで、俺の予想以上に仲良くなってるみたいだけど」


 艦治の左腕に抱き着いているまなみの様子を見て、良光がニヤニヤしている。


「……うん、付き合う事になった。

 こちら、加見里(かみり)まなみさん。

 まなみ、これは僕の幼馴染の高須良光」


「……よろしく」


「こっちこそよろしく!」


 艦治はまなみと良光が握手しているのを気恥ずかしそうに眺め、続けて正義と茂道を紹介する。


「あちらが<恐悦至極>の沢渡正義さんと石柱茂道さん」


「姉ちゃん、もしかして<珠聯璧合(しゅれんへきごう)>の娘さんか?」


 まなみがコクリと頷く。


「そうか。俺が探索者始めた頃によく世話になった。

 受けた恩を返したい。俺に出来る事があったら何でも言ってくれ」


「……そう、ありがとう」


 まなみは正義と茂道とも握手を交わす。


「僕も全力で力になろう」


「……艦治君が浮気しそうになったら、止めてほしい」


「いやしないから」

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