027:この出会いは偶然か
医療用ポッドから出たばかりの全裸の艦治と抱き合った為、まなみの防護服が濡れてしまった。
医療用ヒューマノイドの有無を言わせぬ早業によってまなみは素っ裸に剥かれ、艦治と共にシャワールームで洗浄される事となった。
さすがにまなみはこの時ばかりは羞恥に晒され、電脳通話でも大人しく、
≪もうこれ絶対結婚じゃん! 新居探さなきゃじゃん! ヒューマノイドに指示出したのかんちょでしょ!? 絶対そうに決まってんだから私にはまるっとお見通しなんですからね!! 見たいなら見ても良いし触っても良いけど絶対結婚だかんね!! 捨てたら婚約詐欺で訴えるかんねっ!!≫
……なる訳もなく、照れ隠しの為にずっとノンストップで喋り続けていた。
「心配しなくても捨てるとか、なかった事にしてくれとか言わないよ」
男らしい発言をする艦治だが、そそり立つモノを隠すかのように両手で押さえ、まなみに背を向けている。
≪そういう事はちゃんと目を見て言わないと伝わらないんよ!?≫
「この状況では無理だって! 勘弁してよ……」
医療用ヒューマノイドに世話をされ、二人は新しく用意された防護服を着せられる。
艦治は普通の初期装備に見える特別仕様初期装備。まなみはさっきほどまで着ていたピンクの特別仕様専用装備。どちらも新品である。
身支度が整った後、二人は落ち着いて話をする為に、個室へと場所を移した。
二人掛けのソファーに座った艦治の隣に、寄り添うようにまなみが座る。左腕に抱き着かれるが、防護服越しなのでまなみの柔らかさは伝わらない。
「えーっと、何から確認すれば良いか……」
「旦那様。私から説明させて頂いてもよろしいでしょうか?」
艦治とまなみが座っているソファーの前に置いてある、ローテーブルに腰掛けている二体の支援妖精。そのうちの白髪の方の支援妖精が発言の許可を求めた。
長い話になりそうな予感を覚え、深く息を吸い込む艦治。
「ふぅ……。頼むよ」
「ありがとうございます。まずは自己紹介させて頂きます。
私の名前はナミ。久我莉枝子様をお世話する電脳人格として生み出されました。私は莉枝子様が幼い頃より、子守りヒューマノイドとしてお傍に仕えておりました」
ナミの前の主は莉枝子という女性で、その女性は後に、三ノ宮伊之介の妻となった。
仲睦まじい二人を見守っていたナミであったが、莉枝子が天寿を全うした為、その役目を終える予定だった。
しかし伊之助が宇宙へ旅立つ際、亡き妻をより身近に感じたいという想いから、人工天体『鳳翔』へとナミの電脳人格が格納された。
ナミの姉妹人格であるナギの補佐として伊之助を支えていたのだが、予期せぬ旅の果てに伊之助も天寿を全うした。
思うまま好きに生きるようにとの伊之助の遺言を受け、ナギとナミは地球でそれぞれの主人を生み出しそうなDNAを探していたのだが、今から三ヶ月前に莉枝子とほぼ同じDNAを持つ女性、加見里まなみを見つけたのだった。
≪ナミったら酷いんだよ! 私にコールドスリープしろって言うの!! それで伊之助さんのDNAが見つかるまで眠ってろってさ。もう私怖くて怖くてナミの事を何度捨てようとした事か! 森に捨てても山に捨ててもいつの間にか私の肩に戻って来るの!! その次は一人では出て来れなさそうな場所に片付けようとしたんだけど、またいつの間に私の肩に戻って来てるの!! メリーさんならぬナミーさんじゃん!!≫
「冷凍庫に入れられたりタンスの奥に仕舞われたりもしました」
≪もう帰って来るのは仕方ないとして、どうにかナミを誤魔化して先延ばし先延ばしにしようと思ってたんだ。そしたらカンズィーが目の前に転がって来てさ! それを見たナミが慌てて今すぐこの男性と連絡先交換しろ、間に合わなくなっても知らんぞーーーって言うから交換したの≫
ナミの話を受けて、艦治がナギへ疑惑の視線を送る。
「私にはまなみ様の下へと誘導する事が出来なかったと思われませんか? 走る方向を決められたのは正義様ですし、転ばれたのは艦治様ですし」
「……でもさ、何で僕に伊之助さんの奥さんと同じDNAを持った人がいるって言わなかったの?」
「艦治様が私に言われるがまま行動されたとして、同じようにまなみ様に一目惚れされたと思われますか?」
艦治はまだ、ナギの事を完全に信頼している訳ではない。艦治は常に、ナギの手のひらで転がされているという自覚がある。
そんなナギに「これお前の女だよ」とまなみを連れて来られても、反発していた可能性は否定出来ない。
≪そんな難しく考える必要あるかなぁ? 何にしても私らは出会えたんだしいーじゃんか。私がかんかんに一目惚れしたのは、ナミに言われたからじゃないし。かんかんは私の事を好きって言ってくれたのも本当の事だし。そして私はナミにコールドスリープさせられなくなった訳だし。一見落着だぁ!!≫
まなみは無表情のまま、艦治の首筋に鼻を埋める。
「それにしても、出来過ぎだと思わないか? 並行世界の、さらに遥か未来に生まれた男女が、そう都合良く同じ時代の同じ国、同じ地域に生まれるのかな……」
艦治はそもそも、自分達二人がナギとナミによって作られた存在なのではと疑う。
「いいえ、それはありません。
私達がこの地球と接触し始めたのは、今から十八年前。すでにお二人はそれぞれのお母様の胎内におられた頃です」
「大々的にコンタクトを取り始めたのが十八年前、でしょう?」
艦治はナギの言葉を鵜呑みにはせず、慎重にあり得そうな可能性を探っていく。
「大々的な接触を図らずに、どのようにお二人のDNAを生み出すのですか?」
「そんなの僕には分からないよ。ただ、僕は純粋に納得したいだけだ。まなみとの出会いが本当に運命だって。
でもナギ達の本当の目的は僕とまなみではなくって、伊之助と莉枝子の子孫を誕生させる事こそが本命だっていう風にも考えられるんだ。
ナギとナミの本当の主がその人物だったとしても、僕達には確認のしようがないじゃん」
≪それの何がダメなん? もしそうだったとして、私とカンチが好き同士だって事はもう変わらないし、変えられないし、変えさせないよ??≫
艦治の首筋から顔を離し、じっと見つめるまなみ。
「………………そう、だけど」
「……じゃあ、良くない?」
こうして二人はどちらともなくまた、その唇を重ねたのだった。
≪えんだーーーーーー!!≫
≪だから雰囲気ぶち壊すなって!!≫
≪んーじ大好き♡≫
≪いい加減呼び名固定してくれない!?≫




