025:初めて
医療用ヒューマノイドが担架を担ぎ、艦治を乗せて第一手術準備室へ向かっている。先日来た時とは違い、ちらほらと人を見掛けた。
ぐちゃぐちゃの身体のせいか、すれ違うたびに顔を顰められて、艦治はだんだん気が滅入って来た。
≪どうしたの? 痛みが増して来た? おっぱい揉む??≫
まなみは担架に乗せられている艦治を見つめながらついて来る。
≪揉む手がバキボキに折れてるだよなぁ≫
どうせナギの差し金だろうと思い、気にせずまなみの下ネタに乗っかる艦治。
≪じゃあ顔にぴとってしてあげよっか? 艦治きゅんにだけ、ト♡ク♡ベ♡ツ♡だぞっ♪≫
艦治がまなみを見上げると、相変わらずその顔は無表情で、それだけ見ると何を考えているのか一切窺い知れない。
≪想像しちゃったのかしら~? もしかしてもう脳内で脱がしてる? もしかして私、かんちゃまの脳内で脱がされちゃってる~~~!?≫
無表情のまま、両手で胸を抱き締めて隠すまなみ。
≪もう後ろからガンガン突いてるよ≫
≪きゃーーー!! 意外と積極的ぃーーー!!≫
などとバカなやり取りをしていると、ようやく第一手術準備室に到着した。
医療用ヒューマノイド達が、艦治を担架から洗身用ストレッチャーへと移乗させた。
ナギが艦治の胸板から飛び上がった。艦治が目で追うと、まなみの左肩に座った。右肩にはナギ似の妖精が座ったままだ。
「このままでは脱がせる事が出来ないので、防護服を切っていきます」
レーザーカッターで防護服を切断され、艦治が裸に剥かれていく。
≪わぁお、結構良い身体してんじゃーん。ヨダレが出るぜ。じゅるり≫
≪いつまで見てるんだよ……≫
まなみの事を医療用ヒューマノイドが追い出さないので、艦治の中ではいよいよナギが操作している説が有力になってきた。
「まずは患部の汚れを落とします」
艦治は全裸にされた後、医療用ヒューマノイド達も手術着を脱いでいく。
≪かんちーが驚いてないところを見ると、ヒューマノイドの裸を見るの初めてじゃないのかな? 男の人から見たらどう思うの? エロいもんはエロい? それとも不気味? あ、本物の女の裸見た事ある?≫
自分が大怪我をし、治療を受けるというのに下ネタを振ってくるまなみに、艦治は不快感を示す。
≪どうせまなみもおんなじでしょ?≫
≪ん~? どういう事?≫
洗身用ストレッチャーでシャワールームへと運び込まれ、全身を洗浄される艦治。
痛覚軽減スキルがあるとはいえ、骨が見えている状態でシャワーを掛けられるのはさすがに痛い。
その痛みもあり、艦治はイラつきを隠さずまなみにぶつける。
≪どうせまなみもヒューマノイドなんでしょ? 平穏迷宮にいたのも、僕が転がった先にいたのも、担架を用意してたのも、ナギそっくりの妖精を連れてるのも、今ここにいるのも全部含めて明らかにおかしいんだよ! ナギが裏で何かしてるに決まってる≫
「いってぇーーー!!」
消毒液でゴシゴシと全身を擦られて、艦治は気が狂いそうになる。
≪……へぇ。艦治君には私の事、そう見えてたんだね。私は結構本気で運命感じたんだけどなぁ。今までこんな気持ちになった事ないんだよね。多分一目惚れってヤツだと思うんだ。した事ないから分かんないけどさ。けど、絶対間違ってないと思うし、見た目だけじゃなくてこんなに気を張らずに会話出来るのも、艦治君が初めてだし。 ナミに言われたからって訳じゃない。それは自信を持って言えるの。この出会いは逃すべきじゃないって、心の底から思ってるんだ≫
つらつらと心情を語るまなみだが、艦治は痛みが激しくてそれどころではない。歯を食いしばって耐え、ようやく全身の洗浄が終わった。
シャワールームから出て、艦治を乗せたストレッチャーが第一手術室へ運ばれる。
「……ちょっと待って」
第一手術室へストレッチャーが入り切る前に、まなみが声を掛けて医療用ヒューマノイドの足を止めさせた。
「……こっち、見て」
あまりの痛みから、眉間に皺を寄せて目を瞑っていた艦治に、まなみが声を掛ける。
「なに……、って何してんの!?」
目を開けた艦治の視線の先には、ピンクの防護服の上半身だけを脱いだ状態のまなみがいた。
「……これで、信じてくれる?」
「信じるって……?」
「……私が、人間だって事」
目を見開き、無言で頷く艦治。
「……そう、良かった。
……じゃあ、責任取って、ね?」
それまで無表情だったまなみが、ほんのわずかに笑みを浮かべる。
そんなまなみに、艦治は思わず見惚れてしまう。
「……………………ってマジで何してんの!?
がはっ!! 痛い痛い痛い!!」
痛みに苦しむ艦治を、医療用ヒューマノイドが第一手術室へと連れ去って行った。
第一手術室へ運び込まれてから約一時間後。艦治は医療用ポッドの中で目を覚ました。
覚醒したと同時にまなみからの電脳通話の着信が入り、ややげんなりしながらも応答した。
≪おーい、起きたー? 覚えてる? ねぇ覚えてる? 私の誰にも見せた事ない裸見たの覚えてる? 覚えてるよねーーー?≫
≪覚えてるよ!! 麻酔で眠らされるまでずっと話し掛けられて続けてたのも全部覚えてるよ!!≫
ようやく艦治が目を開くと、治療用ポッドの前にまなみが立っていたが見えた。
相変わらず無表情のままだが、まなみは防護服の上から胸と下腹部を手で隠している。
むくむくむくっ↑↑↑
≪わーお、思い出しちゃった??≫
「ごめん!! ってこれは仕方なくって! 自分ではどうしようもないし、ってか見せて来たのはそっちで……。
あれ? 手が動く」
反応してしまった股間を慌てて両手で隠す艦治だったが、自分の両手が痛みなく動いている事に気付いた。
≪ナミ曰く完全に治癒させたんだって。普通だったら長期入院コースだよねぇ≫
「ナミ? ナギじゃなくって?」
≪そこらへんの事はさ、ここを出てからゆっくりと話し合わない? 私の王子様♡ ニャハ♪≫
ポッド内に座ったままの艦治へと、まなみが手を差し出す。
「……ほら、立てる?」
電脳通話と口から出る台詞とのギャップに押されつつ、言われるがまま手を取る艦治。
その見た目よりも力強く引っ張られて、艦治が勢い良く立ち上がる。
「きゃっ」
「ゴメン!」
バランスを崩し、艦治はまなみに抱き着く格好になってしまった。
慌てて離れようとする艦治だが、その背中にまなみの両手が回されて、動く事が出来ない。
「……んっ」
艦治よりも少し背の低いまなみが、艦治へ向けて顔を上げ、両目を閉じる。
「………………??」
≪私の裸見た責任、取ってくれるよね? 私の事をヒューマノイドだって疑ったのはかんちゃんだもんね? 身の潔白を証明する為に仕方なくしたんだから、私のせいじゃないよね? ほーらー、女にここまでさせて知らんフリするつもりじゃないよね? ちゃんと私の事、貰ってくれるよね? 幸せにしてくれるんだよね? はーやーくーーー私だってめちゃっくちゃ恥ずかしいんだからね!!≫
まなみの顔がどんどん赤く染まっていくのを目にして、艦治が覚悟を決める。
「僕もまなみさんに一目惚れしました。
好きです。僕と、付き合って下さい」
「……はい」
しっかりと自分の意思を伝え、そしてまなみの意思も確認した上で、艦治がその唇にキスをした。
≪えんだーーーーーー!!≫
≪雰囲気ぶち壊すな!!≫
≪あっ、太ももに当たってる……/////////////≫
≪それは仕方なくない!?≫
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