024:出会い
「おい生きてるか!?」
「おいおいマジかよ、骨突き出てんぞ……」
「全力だったのは良かったがな」
艦治が女性を見上げていると、良光と正義と茂道が駆け寄って来た。
「お姉さんはは大丈夫スか? ぶつかってないスか?」
「……ぶつかってない」
良光が女性に声を掛けると、無表情かつ無感情な声色で返事をした。
「全身ヤバイのに顔だけ無傷だな」
「咄嗟に手でかばったみたいです、いっつつつ……」
仰向けで倒れている艦治が正義にズタボロで血まみれの両手を見せようとしたが、そもそも手が動かせなかった。
「とりあえず病院に連れて行かんとならんが、折れた骨が内臓を傷付ける可能性があるから動かせんな。
どうするべきか」
ベテラン探索者である正義であっても、ここまで全身ボロ雑巾のような怪我人を目にするのも珍しい。
一度迷宮を出て医療用ヒューマノイドを呼びに行くべきか、と話し合っていると、女性が黒い穴を出現させて、布製の担架を取り出した。
「……これ、使う?」
「おぉ、亜空間収納持ちか! 珍しいな……。
いや、助かる。使わせてもらおう」
女性は亜空間収納のスキルを持っており、布製の担架を用意していた。
≪ねぇ、この女の人ってナギの仕込みでしょ? この人もヒューマノイド?≫
≪いえ、この女性は人間です≫
≪偶然にしては用意が良過ぎると思うんだけど。肩の妖精もナギそっくりだし≫
女性の肩に乗っている支援妖精の見た目は妖精のナギとほぼそっくりで、違うのは髪の毛の色が黒髪ではなく白髪である事くらいだ。
艦治がナギを疑っている間に、正義と茂道が手伝って艦治を担架へ乗せて、持ち上げる。
痛がる艦治の胸板にナギが寝転んだ。
「姉ちゃん、俺達は病院へ向かうけどどうする?」
「……ついて行く」
正義が担架の前、茂道が後ろを持ち、ゆっくりと歩き出す。
女性は先ほどから、ずっと艦治の目を見続けている。
「えっと、どこかで会いました?」
「……会ってない」
「よくこの状況でナンパするな」
「違うよ! いってぇ……」
思わず良光へツッコミを入れた艦治だが、どこだか分からない身体の内側に痛みが走った。
「見た目の割に元気そうだな」
「そうなんだよね」
≪痛覚軽減スキルの効果です≫
≪へぇー。もう何かどうでも良くなって来たよ≫
ナギに振り回されっぱなしの展開に、艦治は少しずつ腹が立って来た。これだけの大怪我ならば、恐らく三ヶ月は入院しなければならないだろうと想像し、余計にイライラが増していく。
『連絡先を交換しますか?』
そんな不機嫌な艦治に、目の前の女性から連絡先の交換のお誘いが飛んで来た。
「はぁ? 今ですか? めっちゃ怪我してるんですけど」
「……ダメ?」
無表情かつ平坦な声で呟く女性。
「いや、まぁ良いけど……」
それ以上強く言えず、艦治が渋々了承すると、この女性が加見里まなみという名前である事が分かった。
そしてすかさず電脳通話が掛かって来る。
「え? 目の前にいるのに?」
≪やっほーい、よろしくねー! いきなり目の前に転がって来たからちょービビったよ。たまたま持ってた担架が役に立って良かったー! ってか身体ぐちゃぐちゃだよ? 恐怖耐性のスキルがなかったら泣き叫んでたかも!≫
「いやキャラ違い過ぎない!?」
「……口下手だから」
「そういう問題かなぁ!? いっつつつ……」
平穏迷宮から出て、医療施設へと運ばれるまでの間に、艦治は電脳通話でまなみからの自己紹介を受けていた。
まなみは艦治のひと学年上の十九歳。しかし三月生まれの彼女は迷宮デビューしてまだわずか三ヶ月しか経っていない。
両親が共に探索者であり、まなみもプロの探索者として活動している。
今日は両親がデートに行くと言うので、一人で平穏迷宮をぶらぶらしていた。
≪そしたらかんちゃんがズササササーって転がって来るんだもん。もうこれって運命だよね? 似たような妖精連れてるしさ、私達付き合わなーい?
…………なんちゃって!≫
≪脳内テンション高いなぁ……≫
やり取りをしている最中も、まなみの表情は一切変わっていない。それがまた、艦治の中で引っ掛かってしまう。
「よし、病院着いたぞ。迷宮内の怪我については部位欠損などのよほどの事がない限り、ここで治してくれる。
後は医療用ヒューマノイドに任せるしかねぇ」
医療施設の中に入り、正義は待機していた医療用ヒューマノイドに艦治の乗った担架を任せる。
「ご迷惑をお掛けしてすみませんでした。運んで頂いてありがとうございます」
「おう。俺もちょっと反省してる。これに懲りずにまた一緒に探索しようぜ」
「お前の全力は気に入った。次は怪我をしない全力で行こう」
正義も茂道も若干申し訳なさそうにしているが、良光が二人の腕を引っ張った。
「せーぎさん、ばしらさん。俺まだ物足りないんで、もっかい行きましょうよ!」
「あぁ? 友達放っといて良いのかよ」
「いいんス。後は若いお二人で、って事で」
「ほぉ、そんな全力も悪くない」
良光が自分とまなみを二人きりにしようとしているのに気付き、艦治が叫ぶ。
「ちょっと良光!? どういうつもり……、いってぇーーー!!」
また後で様子を見に来ると言い残し、三人は医療施設を出て行ってしまった。
≪二人っきりになっちゃったね……。ミャハ♪≫
艦治は盛大にため息を吐いた。
「いって!!」




