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超巨大宇宙船が落ちて来てから十八年が経ちました:今日からあなたが艦長です!!  作者: なつのさんち
二〇四七年

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023:初探索

 神州丸(しんしゅうまる)内部の巨大な空間内に存在する、開け放たれた扉のうちの一つへ向かう四人。

 迷宮の入り口は縦十五メートル、横十メートルと非常に大きな両開きの扉で、その先は真っ暗で何も見えない。


「ここは平穏(チュートリアル)迷宮(ダンジョン)への入り口だ」


 正義(まさよし)艦治(かんじ)良光(よしみつ)へ説明を始める。


「俺達<恐悦至極>の構成員は、知り合いが探索者デビューする際は必ず最初にここへ連れて来る。

 迷宮をゲームの延長線上だと考えるバカも多いが、ここは一昔前のファンタジーな空間じゃねぇ。魔法を放つ事も、空を飛ぶ事も出来ねぇ。

 所々理解出来ない現象などもあるが、あくまで物理法則に縛られている、らしい。

 まずはこの平穏迷宮で想像と現実のギャップを埋めてやる必要があんだ。じゃねぇと思わん怪我をする。

 スキルも貰ったばっかだし、探索者としての慣らし運転だ」


「どれだけ全力が出せるか試すんだ」


「「はい!」」


 正義と茂道(しげみち)が話した内容が一致しているかどうかは別として、艦治と良光は二人へ元気に返事した。

 そんな二人に頷いてみせ、正義と茂道が平穏迷宮へ続く扉をくぐった。


 扉をくぐるとそこは、どこまでも続く草原だった。空には太陽が南中に位置しており、時折穏やかな風が吹く。気温は暑くもなく寒くもない。


「明らかに物理法則無視してないスか? 隣の迷宮への扉までの距離より絶対広いっスよね」


「らしい、って言ったろ」


 ところどころに木も生えていて、小さな池があるのも見える。生物は見当たらないが、探索者達が集まって訓練をしていたり、レジャーシートを敷いて休んでいたりするのが見られる。


「うわー、ピクニックしてんじゃん。何か気が削がれるなぁ」


「……ホントに神州丸の中なのかな?」


≪はい。ここは余暇目的に用意された船室の一つです。ちょうど良いので迷宮の一つとして探索者向けに開放しております≫


≪それにしてもここ、広すぎない?≫


≪迷宮の扉はワープゲートになっておりますので。ちなみにこの迷宮は神州丸ではなく鳳翔(ほうしょう)内部にございます≫


 艦治は知らぬ前に、人工天体『鳳翔』へと足を踏み込んでいたようだ。


≪この近くに木星があるのか……≫


≪木星から約百十万キロメートル付近ですね≫


 得も言われぬ焦燥感にかられて艦治が思わず扉を振り返ると、草原のど真ん中に黒い壁のようなものがあった。これがこの草原と地球とを繋ぐ、ワープゲートらしい。


「はっはっはっ! 心配すんな。それをくぐるとロビーに戻れる。

 何なら一度戻ってみるか?」


 正義の申し出に艦治がコクコクと頷いて、四人同時に黒い壁へと入った。先ほどまでいた神州丸内部へと戻れるのを確認した後、再び艦治達は平穏迷宮へと入り直した。


≪何だったんだ?≫


 良光から電脳通話で問い掛けられたので、艦治がナギから聞いた事をそのまま伝える。


≪この迷宮は神州丸じゃなく人工天体『鳳翔』の中にあって、つまりここは宇宙で、木星から約百万キロなんだって!≫


 良光がそれを聞き、先ほどの艦治と同じように黒い壁を振り返った。


≪……よく分からんけど分かった≫



 迷宮の出入り口に留まるのは他の探索者の邪魔になるので、四人は少し離れた人の少ない場所へと移動した。背負っていた武器と軽食を地面に下ろす。

 そして運動を始める前のように、普通のストレッチを開始する。それぞれの支援妖精は、地面に降りて四人を見守っている。


「迷宮探索と言えども、基本はスポーツと同じだ。いきなり身体を動かすと痛めるに決まってる」


「全力出す為の準備も全力だ!」


 ある程度身体がほぐれたところで、正義が艦治と、茂道が良光と組み手を始める。


妨害生物(モンスター)が身体に組み付いてくる事はないだろうが、受け身は重要だ。

 吹き飛ばされた時にしっかりと衝撃を逃がせるよう地面に着地出来んとならん」


「全力受け身だ!」


 正義と茂道が柔道の投げ技を仕掛ける。艦治と良光は、投げ飛ばされた際にどのように受け身を取れば良いか、まるで思い出したかのように身体を動かして綺麗に受け身を取った。


「ん? どこかの道場で習ってたか?」


「いえ、体育の授業で習った程度です」


「そうか。

 あぁ、もしかしてさっきのガチャで柔術のスキルが出て来たか?」


 艦治と良光が顔を歪める。まだ自分達がどんなスキルを所持しているのか把握していないからだ。


「いや、言わんでも良い。所持スキルは探索者の飯のタネだ。

 聞かれても答える必要はないからな」


「「分かりました」」


 そして受け身の指導が終わった後、正義はその場で垂直飛びをして見せた。


「おぉ、めっちゃ高いっスね」


 正義は自身の身長である183センチより高く飛び上がった。

 茂道もそれに対抗して、バク宙の二回転一ひねりを披露する。


「うわぁ、めっちゃ楽しそう!!」


 太陽の下、広々した草原で久しぶりに思い切り身体を動かす喜びを感じている艦治。

 元来の活発な性格と、事故に起因する臆病で慎重な性格が艦治の中でぶつかり合っており、今まではそのストレスをジムに通う事で発散させていた。

 しかし、視力が回復した今、艦治を妨げるものは何もない。


「僕も出来ますかね?」


 茂道がニヤリと笑い、やってみろと促す。艦治と良光はその場でぴょんぴょんと跳ねる。


「まずは全力で上に飛ぶ事だけを意識しろ」


 茂道のアドバイスを聞き、腕を振り上げて真上を意識して地面を蹴る。

 すると、艦治も良光も自らの肩くらいまではすぐに飛び上がれるようになった。


「おぉ、随分とスキルに恵まれたようだな」


 正義は腕を組んで二人を見守る。身体強化のスキルを手に入れたのだろうと予測して眺めていると、二人はすぐにバク宙をマスターしてしまった。


「良い感じだな。よし、次は全速力で走ってみろ。

 ほれ、あっちなら人とぶつかる事はねぇだろ」


「全力で行け!」


 良光がクラウチングスタートの構えを取り、艦治を見上げる。艦治はその隣で同じように構え、合図を待った。

 テオとナギは二人について行くべく、空中で待機している。


「用意、スタート!!」


 正義が手を叩いたと同時に駆け出す二人。自分達が予想していた以上の速度で流れる景色に驚きつつも、お互いに負けないよう全力でもって走り続ける。

 心臓が鼓動を早め、肺が酸素を求め、脚が悲鳴を上げようとも、艦治は走る事だけを意識し続けた。



 その結果。



パチンッ!!



 艦治の左アキレス腱が切れ、足をもつれさせて転倒。時速六十キロメートルで転がり、受け身を取ろうとして勢い良く地面にぶつかって跳ね、艦治の身体が盛大に錐揉み回転しながら吹き飛んで行く。

 身体中からボキバキという衝撃と音を感じつつ、ようやく止まって見上げた視線の先に、艦治を見下ろしているショートボブの女性がいた。


「……大丈夫?」


 ピンク色の防護服を着たその女性の肩には、ナギそっくりの支援妖精が座っていた。

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