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超巨大宇宙船が落ちて来てから十八年が経ちました:今日からあなたが艦長です!!  作者: なつのさんち
二〇四七年

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165/167

165:実況取材

七月二十日 土曜日

 朝。久しぶりに海中秘密基地に泊まった艦治(かんじ)は、まなみと共に朝食を済ませ、ワープゲートを使い井尻家へと移動した。


 玄関を出ると、隠れる気のない記者やレポーターやカメラマン達が井尻家周辺に待機していた。


「出て来たぞ!」

「待て、慌てるな!」

「近所迷惑にならないように気を付けろ!」

「写真撮って良いですかー!?」

「質問させて下さーい!!」


 神州丸(しんしゅうまる)から艦治への取材方法について釘を刺された報道関係者らは、艦治の迷惑にならないよう(ナギに怒られないよう)な形で取材をしようと試みる。

 が、艦治にとっては迷惑でしかない。


≪僕だけに気を遣っても仕方ないんだけど≫


≪仕方ないよ、自分達の都合しか考えられない人達なんだから≫


 艦治は分かりやすく不機嫌な表情をして、大きくため息を吐いた。


「近所迷惑です。今後一切この周辺で取材活動をしないで下さい」


 艦治の報道陣を拒絶するかのような態度を見て、報道陣が怒気を孕んだ感情を漏らす。


「僕への取材に関しては、神州丸記者クラブを通じて取材申請をして下さい」


「そんな!? それじゃあうちは取材出来ないじゃないか!!」


 神州丸記者クラブからの除名処分を下された文華民衆の記者が怒鳴る。

 そんな記者に視線すら送らず、艦治は取材陣へ立ち退きを迫る。


「さっさと解散して下さい。迷惑です」


 素っ気ない対応を取る艦治を恨めしそうに見つめる報道関係者達だったが、井尻家周辺を警備している警備ヒューマノイドの無言の圧力を感じて、少しずつ立ち去って行った。


「すみません、ご迷惑をお掛けしまして……」


「良いのよ! 艦治君のせいじゃないのは分かってるからねぇ」


 艦治は様子を窺っていたご近所さん達に謝罪をするも、皆が艦治に対して同情的な態度で接してくれた。


「……ちっ、いい気になりやがって」


 最後まで艦治を睨み付けている文華民衆の記者を残し、艦治とまなみは迎えに来た黒いバンに乗り込んだ。



 港に到着し、車から降りて入国管理局へ入ろうとする艦治とまなみを、ルーエンスとマーリンが呼び止めた。


「やぁ、カンジ、マナミ。おはよう」


「Mr.イジリ、マナミ、おはよう」


「おはよう、ルーエンス。マーリンさんも。

 今来たの?」


「……おはよう」


 今日から本格的に侵略(インベーダー)迷宮(ダンジョン)の攻略を開始する為、一度平穏(チュートリアル)迷宮(ダンジョン)で落ち合う予定になっている。


「いや、カンジ達を待っていたんだ」


 ルーエンスが艦治達を待っていたと発言した事により、周りで四人の様子を窺っていた探索者達が騒ぎ始める。

 探索者累計ポイントランキング一位のルーエンス・フィッシュボーンがわざわざ待つほどの価値が、井尻艦治にはあるという事実が広まっていく。


「僕は目立つのがあまり好きじゃないんだよね……」


「む? そうだったか?」


 艦治が恨めしそうにルーエンスを睨むが、そもそも累計ポイントランキング一位のルーエンスに対してタメ口で気軽に呼び掛けた時点で、艦治が注目を集めるのは仕方がない事だった。

 そうでなくても艦治は一般探索者から非常に注目されている。目立ちたくないなどという言い分は、もはやただのギャグでしかない。


「それは悪い事をしたな。

 実は、カンジを実況取材したいという探索者集団にカンジを紹介してくれと言われていたんだが」


「実況取材……?」


 艦治とルーエンスのやり取りを前にして、黙って待機していた日本人探索者が口を開く。


「初めまして。私は探索者集団<仁狐怒兎(じんこどと)>の団長、平藤(ひらふじ)敏子(としこ)と申します」


 敏子はまなみに向けて手を差し出した。


「……どうも」


「よろしければ、まなみさんと連絡先の交換をさせて頂きたいのです。

 もちろん、井尻氏とは交換するつもりはございません」


 敏子の手を握り返したまなみは、小さく頷いてみせる。


≪ちゃんと私達の事を事前取材してるみたいだね≫


≪どこかの週刊誌とは大違いだ≫


 まなみと敏子は手早く連絡先の交換を済ませ、電脳通話でやり取りをする。

 敏子率いる<仁狐怒兎>の目的は、艦治とまなみの探索活動をYourTunes(ゆあちゅうんず)に配信・投稿する事だと分かった。


 YourTunesに探索活動の動画を投稿する事で、探索活動がどのようなものであるかを手軽に知る事が出来る。

 神州丸にとっては、探索者が広報活動をしてくれているような形になる。投稿動画を通じて探索者を目指す一般人が増えるからだ。

 投稿動画の再生数に応じて、神州丸が投稿者へ少なくない謝礼を支払っている為、動画投稿のみで生活をしている探索者もいる。

 その集団が、<仁狐怒兎>という訳だ。


「なるほど。僕らが<仁狐怒兎>の動画に出演する事で、収益が発生すると」


「はい。もちろんご出演頂く対価はお支払いさせて頂きます。

 基本的には私達が受け取る収益の半分を考えております」


「半分……、っていくらくらいになるのか想像出来ないな」


≪別にいくらでも良くない? 気にするべきは、さらに目立って注目されるかも知れないって事だと思うけど≫


 神州丸から収益が支払われるという事は、大元を辿ると艦治の資産からという事になる。

 そもそも神州丸ナギは艦治という主を探し当てる事が出来たので、神州丸の広報活動などもはや必要なく、もっと言うと迷宮自体不要なものである。

 艦治は地球文明の為に迷宮を解放したままにすると決めているが、広報活動が必要かどうかについては別の話となる。


≪さらに注目、か。

 いや、むしろ自分達側から発信する事で、鬱陶しい報道陣を排除出来るかも知れないのか≫


 どうせ取材されるなら、艦治やまなみ達の都合を優先し、尊重してくれるような相手が望ましい。

 敏子はまなみの性格に対して配慮し、取材の窓口をまなみ一本に絞るという気遣いを見せた。


「……分かりました。その取材、前向きに検討させて頂きます」


 とはいえ、艦治の性格上、即答快諾という事はしなかった。


「ありがとうございます!

 それでは、詳しいお話については引き続きまなみさんへご連絡させて頂きます!!」

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