162:おもしろ人間大砲選手権
彩はバナナボートに何度も乗りたがった。
「さすがにもう違うのにしないか? 五回も六回も乗り続けるものじゃないよ」
最初は笑顔で付き合っていた廻だが、さすがに飽きて来た。
同じテンションで楽しめる彩に驚いている。
「そうです? じゃあ次は何します?」
彩が皆に尋ねると、控えていた家事ヒューマノイド(ナギ)が中空に設置可能なアトラクションの映像を映し出した。
「全部楽しそうです」
様々なアトラクションがある中で、彩が次に選んだのは『人間大砲』だった。
自ら大きな筒の中に入り、空中に向けて打ち出されて海に落ちるという、大胆なアトラクションである。
「これで誰が一番遠くまで飛べるか勝負しましょう!」
「勝負? 打ち出される方法にもよると思うけど、インプラント入れてない彩ちゃん一人が不利になると思うよ?」
艦治は口に出さなかったが、飛距離には体重や体格が影響するので、そういう点でも彩は不利になる可能性がある。
「そうです?
じゃあ面白い飛び方勝負にしましょう!」
面白い飛び方って何? と思った三人だが、彩が楽しそうなので言い出せなかった。
「え、これ角度自分で決めるの?」
ジャンケンで決めた順番で、一番最初に飛ぶ事となった艦治。
大筒の両サイドに車輪がついているタイプの大砲で、筒に入る前に角度は自分で選ぶよう家事ヒューマノイド(ナギ)に言われて、驚いている。
「距離を求める楽しみと、高さを求める楽しみなど、様々な遊び方がございますので」
今回の場合、距離ではなく面白さを競うので、少し高めに飛び上がった方が面白いのかも知れない。
「いや、でも面白い飛び方でしょ? 難しいな……」
艦治が生きて来た今までの人生において、どうやって大砲から射出されれば面白いかなど、考えた事はなかった。
考え込んでいると、艦治が射出されるところを見る為に、海上で自動運転ジェットスキーに跨っているまなみから電脳通話が入った。
≪どうしたの?≫
≪いや、面白い飛び方って何だって思ってさ≫
≪え? 何でも良いじゃん。真面目に考え過ぎだよ≫
罰ゲームを決めている訳でもなく、優勝賞金が出る訳でもない。
ただ楽しめればそれで良いんだと、まなみに教えられる艦治。
≪よし、じゃあ行くよ≫
≪りょーかーい≫
艦治が大筒に入ろうとしている頃、海上では廻と彩がやり合っていた。
「おわっ!?」
「あははははっ!」
まなみに後ろから抱き着こうとした廻が海に突き落とされ、彩が手を差し出してジェットスキーへ引き上げようとし、途中で手を離してまた海に突き落とす、というお約束を楽しんでいた。
≪艦治、行きまーす!≫
≪はーい≫
結局艦治は、射出角を無難に四十五度に設定し、筒の中に入った。
筒から顔だけが出ている状態の艦治を見て、彩が手を叩いて笑っている。
がこんっ!!
四十五度だった筒の角度が、跳ね上がるように九十度に変わった。
垂直になり首を揺さぶられた艦治の表情は、何やら慌てているように見える。
「え? 何です?」
ドカーンッ!!
「「えぇっ!?」」
実際に火薬を使っている訳ではないので、この音は演出の為だけの効果音だ。
艦治は気を付けの姿勢で真上に打ち出され、十五メートルほど浮かび上がったところで手足をジタバタと動かしている。
「「危ない!!」」
廻と彩が叫ぶと同時に、そのまま落ちる艦治と大砲の間にワープゲートが出現し、艦治が吸い込まれた。
そして三人が跨っている自動運転ジェットスキーの近くに艦治が落ちて来た。
じゃっぱーーーん!!
海に落ちた艦治が泳いで自動運転ジェットスキーへ近付く。
「艦治殿、大丈夫か!?」
純粋に心配する廻だが、彩は怒った表情を見せている。
「反則です! 私にはあの落ち方出来ません!!」
艦治は真上に射出する事、大砲にぶつかるギリギリにワープゲートを開き、自動運転ジェットスキーの近くへ転移させる事をナギへ指示していた。
彩はナギに頼ったから反則だと訴えているのだ。
廻は焦っていたが、まなみは艦治の演出であるとすぐに気付いたので心配していない。
艦治は三人が跨っているのとは別の自動運転ジェットスキーに跨る。まなみも艦治の方へと移動した。
「出来るよ。大砲の近くにいる家事ヒューマノイドに伝えれば良いんだから」
「本当です? なら反則じゃないです」
艦治の言葉を受けて、彩が納得したので、人間大砲を続ける事となった。
次は廻の番である。
「あの後なんて絶対に不利だよ……」
自動運転ジェットスキーで一人浅瀬へ移動し、廻が大砲へ向かう。
「確かにあの絵面は面白いね」
「……うん」
大砲から顔だけが出ている廻を見て、艦治が笑う。
ドカーンッ!!
「えぇっ!?」
彩が驚きの声を上げるが、艦治は廻が打ち出されたと同時に後ろに跨っているまなみに目隠しされたので、何も見ていない。
廻はナギに大砲に入っているタイミングで、自分の着衣を全て脱がせるようにナギに指示したのだ。
びたーーーん!!
大砲から全裸で打ち出され、廻は全身を水面に打ち付けられた。
「いった!!
まなー、面白かったー?」
≪ナミ、あのバカをコテージに移動させて≫
≪了解致しました≫
廻は海水ごとコテージの露天風呂へと転移させられた。
次はまなみの番だったのだが、あまりに廻がバカな事をやったので、やる気がなくなってしまった。
決して艦治と廻以上に面白い事を思い付かなかったからではない。
「じゃあ次は私です。行ってきます!」
「もう普通に打ち出されるだけでも良いからね」
自動運転ジェットスキーで彩が移動し、人間大砲の前で家事ヒューマノイド(ナギ)と打ち合わせをしている。
彩は口頭でやり取りをしなければならないので、少し時間が掛かってしまう。
その間に、スキューバダイビングを終えた良光と望海が自動運転ジェットスキーに跨り、艦治達の元へとやって来た。
「俺も後でやって良いか?」
「良いけど、面白い飛び方しないとダメだよ?」
彩が始めた面白い飛び方コンテストを聞いて、良光が眉間に皺を寄せる。
望海は飛びたくないので、聞こえない振りをして沖の方を見つめていた。
「あ、始まるみたいだね」
打ち合わせが終わったのか、彩が大砲へと入った。
「なかなかシュールだな」
自分の妹が大砲から顔を出しているという光景は、そうそう見れるものではない。
ドカーンッ!!
四十五度に設定された大砲から、彩が打ち出された。
それと同時に、どこからともなく体長十メートルほどの大鷲が現れて、その足で宙に浮かんだ彩を掴んで大空へと飛び去ってしまった。
「何だこれ……」




