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超巨大宇宙船が落ちて来てから十八年が経ちました:今日からあなたが艦長です!!  作者: なつのさんち
二〇四七年

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159/167

159:筋を通す

七月十四日 日曜日

 一同は翔太(しょうた)が語る三ノ宮(さんのみや)伊吹(いぶき)の人生を聞き、そして伊吹が生きた世界の発展を知った。


 いずれこの世界でも同じように、誰もが高度な科学技術の恩恵を受けられるようにしたい。

 三ノ宮伊吹株式会社を経由して株式会社サクセサー商事を買収すれば、ナギが主導でこの世界をより良くしていく事が可能になる。

 その夜、皆が自らの思いの丈をぶつけ合い、この世をどんな世界にしたいかについて語り合った。


 基本的に翔太は表舞台に出る気がないという事で、三ノ宮伊吹の話を語り終えた後にワープゲートをくぐって帰ってしまった。



 そして翌朝。

 砂浜での朝食時、正義(まさよし)艦治(かんじ)に声を掛けた。


「会社設立についてなんだが、俺が参加するのに穂波(ほなみ)さんと真美(まみ)さんに話が通ってないのは居心地悪い。

 声を掛けてもらいてぇんだが」


「そう言われればそうですね。

 僕らの事情を知ってる人達には一通り声を掛けるべきですよね」


 そうは言いつつも、艦治は自分の両親には声を掛けるつもりはなかった。


 治奈(はるな)の事、研究、研究所内部の問題など、考える事が山のようにあるだろうからと、艦治は両親が自分を頼って来るまではそっとしておくつもりでいる。

 まなみも良光(よしみつ)も、艦治の考えを理解している為、あえてこの場で治樹(はるき)治佳(はるか)の事を持ち出すような事はしない。


 艦治が隣でトーストを頬張っていたまなみに向き直る。


「まなみから声を掛けてもらっても良い?」


「うん、分かった。けどパパもママも話には乗らない気がするけどね」


 返事をしたのは家事ヒューマノイド(まなみ)だ。

 まなみはそのまま真美に電脳通話を掛ける。


「俺もそう思うが、こういうのは声を掛けたかどうかが大事だからな」


 正義の話を聞いていた博務(ひろむ)が大きく頷いているのを見て、そういうものかと艦治が関心する。

 まなみと真美の電脳通話はほんの一分ほどで終わった。


「話し合いには不参加だって。今忙しいからーってさ。でも名義くらいならいくらでも使えってさ」


「忙しい? 何かやってんのか?」


 正義が首を傾げるが、博務には心当たりがあった。


「もしかして、|<日本(ジャパニーズ)爆夢(ドリーム)>の件かな?」


「そうです。新人探索者に負けるような軍人は鍛え方が足らん、って言ってボコボコにしてました」


 艦治が他人事のように言うが、しっかりとまなみが補足する。


「ボコボコにしたのはかんちのが先だけどねー」


 <珠聯璧合(しゅれんへきごう)>が<日本爆夢>を傘下に収めたらしい、という真偽不明の噂が探索者のネットワークで広がっており、博務はその情報があながち間違っていなかった事を確認した。


「つまり、まなみさんのご両親が<日本爆夢>を鍛え直しているという事か」


「ええ、そうです。

 本当は僕らも声を掛けられてたんですけど、まなみが交渉して不参加にしてもらったんです。

 元軍人の教育なんて、やった事ないですもん」


 艦治とまなみの事情を話していないので、ルーエンスとマーリンを含む日本爆夢所属探索者達は、スキルのインストールが出来ない。

 鍛えるのであれば、直接指導して一から叩き上げる必要がある。


「なら仕方ねぇな。が、一応声を掛けて筋は通した。名義も使わせてもらおう。

 後はじぃさんだが、こっちも建築以外には興味ないっつって断る気がすんな。

 俺が声掛けても良いか?」


「お願いします」


 正義が艦治の了解を得てから、(げん)に電脳通話を掛ける。

 案の定すぐに断られ、多少の世間話だけをして通話が終了してしまった。

 しかし、それと入れ違いになる形でまなみへと電脳通話が掛かって来た。


≪もしもし?≫


≪何でボクを誘ってくれないんだ!?≫


≪持ち株会社の話? めぐは侵略(インベーダー)迷宮(ダンジョン)の拠点建築に掛かり切りになるから忙しいでしょう?≫


≪そっちじゃなくて無人島! ボクもまなの水着姿見たい!!≫


 正義が艦治達と一緒に無人島にいるらしいという情報を得た源が気を回し、孫娘である(めぐり)に教えたのだ。


≪あとでかんちに撮ってもらった写真を送ってあげようか?≫


 この無人島、海鷹島(かいようとう)へ遊びに行こうと決まった時から、まなみは廻を誘う気が全くなかった。


≪じゃなくて! ボクもまなと艦治殿と遊びたいの!!≫


 その理由がこれである。

 廻はまなみに対してだけでなく、艦治に対しても好意を寄せており、まなみにとっては鬱陶しい存在となりつつある。

 いくら親友であると認めていても、こればかりは話が別というものだ。


≪残念だよ、めぐの事を親友だと思った事ももしかしたらちょっとはあったかも知れないのに。こんな形で会えなくなるとは思ってもみなかったな……。最期に何か言い残す事はある?≫


≪えっ!? もしかしてまなはボクを殺すつもりなの!? さすがにそこまでじゃないよね!? 艦治殿を好きになってしまったからって、ボクを殺したりしないよね!? だって同じ人を愛した女同士じゃないか!!≫


≪女、女ねぇ……≫


 廻の言い分は聞くに堪えないものであるが、それを聞いたまなみは考え込んでしまう。


≪…………え? まな、どうしたの?≫


 まなみが覚えている限り、廻が自分の事を『女』と表現した事はほとんどない。


≪うーん、そっかー。かんちの良いところを言い合える存在がいるってのも、もしかしたらありなのかも知れないなぁ≫


≪そ、そうだとも! 何よりボクがまなから艦治殿を奪うなんて事をすると思うかい? そんな事はあり得ないよ!!≫


≪でもなー、あり得ないなんて事はこの世にはないからなー≫


≪それって矛盾してるの分かってて言ってる!?≫


 このようなやり取りがしばし続いた後、艦治に触れない事を条件とし、まなみは廻が海鷹島に来る事を許した。


「まなーーー!!」


 ワープゲートをくぐって現れた廻はまなみに飛び掛かり、両腕を背中に回してきつく抱き着いた。


「殺されるかと思ったーーー!!」


 突然現れた知らない人物の突飛な言動に、一同が目を丸くして驚くのだった。

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