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超巨大宇宙船が落ちて来てから十八年が経ちました:今日からあなたが艦長です!!  作者: なつのさんち
二〇四七年

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158:持ち株会社

 神州丸(しんしゅうまる)が持つ科学技術をこの世界に広める為に、サクセサー商事を買収する事が決定した。

 普通に買収してしまうと井尻(いじり)艦治(かんじ)という個人名が世に広まってしまうので、サクセサー商事の持ち株会社を設立する事となった。


「すでに設立済みの会社を流用致しましょう」


 ナギは世界各国にペーパーカンパニーを設立しており、日本にあるうちの一つをサクセサー商事の持ち株会社とする事が決まった。


「何て名前の会社なんだ?」


「いくつかございますが、せっかくですので新しい社名を決めてはいかがでしょうか?」


 良光(よしみつ)の質問に対し、家事ヒューマノイド(ナギ)がこの場で新しい社名を考える事を提案した。

 ただのペーパーカンパニーなので、社名を変える事は何も問題はない。

 そしてまた無人島の名前を決めた時のように、皆が思い思いの社名を挙げる。


「株式会社井尻艦治」


「いや意味ないじゃん」


 まずは良光が冗談を言い望海(のぞみ)がツッコミを入れた事で、皆が発言しやすい空気になった。


「皆の名前を一文字ずつ出していくとかどうだい?」


「だから名前入れたらダメでしょー」


「株式会社秘密結社でどうだ!」


「さすがに怪しく見られるのでは……」


「株式会社バーガーハンバーガーバーガー!

 いたっ!?」


「怪し過ぎるわ」


 本気なのかボケなのか、そんなやり取りを続ける一同。

 博務(ひろむ)雅絵(まさえ)は社名変更会議に加わるつもりはないようで、皆を見守っている。


「うーん。さっきの流れに沿うとさー、やっぱり日本海軍の空母から取るのが良いんじゃないかなー」


 恵美(えみ)が電脳ネットで調べながら話す。

 (わたる)も同じように調べ出す。


「どれどれ。

 赤城・加賀・龍驤・蒼龍・飛龍・神鷹・瑞鳳・翔鶴……」


「どれも戦争時に沈められてっからダメじゃね?」


「まぁ確かに縁起悪いよね」


 良光と望海は空母から取る案について、あまり良く思っていないようだ。


「……この伊吹(いぶき)というのはどう?

 建造中に第二次大戦が終わってるから実際に動いてはいないが、やられたという訳でもない」


 (あきら)の提案に、艦治とまなみが息を飲んだ。

 そして二人とも、電脳ネットで空母伊吹について調べ出した。

 宙を見つめて黙り込む二人を見て、(あや)が声を掛ける。


「艦治さんとまなみさんはどんな名前が良いんです?」


 彩に声を掛けられた事で、皆に注目されていた事に気付く艦治。

 電脳OSを触るのを止めて、皆に向き直る。


「えっと、伊吹って名前なんだけどさ。実は、僕と同じDNAを持つ三ノ宮(さんのみや)伊之介(いのすけ)さんのご先祖様の名前と同じなんだよね。

 三ノ宮家が神州丸や鳳翔(ほうしょう)みたいな超巨大宇宙船を造れるような大富豪になったきっかけは、全部伊吹さんのお陰らしいんだよ」


「……あやかるのも、良いかも知れない」


 二人の話を受けて、彩が飛び上がって賛成の意思を示す。


「めちゃくちゃ良いと思います!

 でも、伊吹株式会社か株式会社伊吹だったらちょっと短いし、すでにそういう会社があるかも。

 伊吹さんの奥さんのお名前を入れてくっつけるとかどうです?」


「伊吹さんの奥さんは一人じゃないから決めきれないな……」


「「「「「ええっ!?」」」」」


 艦治が零した言葉に皆が興味津々だったが、また改めてそのあたりの詳しい話を聞く機会を設ける事とし、話題を新しい社名へと戻す。


「艦治伊吹? 伊吹艦治?」


「止めて、どっちが受けとかそういう想像は不敬に値する」


「受けって何です?」


「彩ちゃん、絶対分かって言ってるよね?」


 艦治が彩へツッコミを入れていると、正義(まさよし)が口を開いた。


「じゃあもうフルネームで良いんじゃねぇか?

 三ノ宮(さんのみや)伊吹(いぶき)株式会社。あやかるなら全力でってな」


「あ、ばしらさんの真似っスか!?」


 正義と良光が笑い合う。


「三ノ宮伊吹、株式会社……」


 艦治が声に出してみる。

 悪くはないが、軽々に名前を使っても良いのだろうかと思案する。しかし、考えても答えは出ない。

 ならば、直接聞いてみれば良いだろうという事で、自分の肩で待機していた白鹿(はくろく)の白雲を両手で抱える。


翔太(しょうた)様。社名に伊吹様のお名前を使わせてもらっても良いですか?」


 白雲はナギではなく翔太が操作しているとは説明されていない一同が、艦治が何を始めたのかと眺めている。

 そこへ、桃色を基調とした和装姿の青年がワープゲートを通って姿を現した。


「良いよー」


「「「「「誰!?」」」」」


 艦治が立ち上がり、皆に翔太を紹介する。


「こちらは鳳翔を管理・運営されてる上位電脳人格のお一人、翔太様。

 翔太様は白雲を通じて皆を見ておられたと思うので、紹介は不要ですよね?」


「うん。

 みんなよろしくねー」


 右手を挙げて、指だけをひらひらとさせる翔太。

 そんな翔太を眺め、一同は言葉も出ない様子。ナギ以上によく分からない存在の出現に対し、戸惑っているようだ。

 そんな一同を前にして、艦治が高らかに宣言する。


「じゃあ社名は『三ノ宮伊吹株式会社』に決定します!」


 パチ、パチパチパチ、と拍手ではなくキャンプファイヤーの木が爆ぜる音だけが鳴り響く。


「えーっと……。

 そうだ! 翔太さんは三ノ宮伊吹様がご生前の頃から仕えておられた高度人工知能なんだって!!

 翔太さん、伊吹様がどのような人生を送られたのか、僕達に教えて下さいませんか!?」


「うん、良いよー。

 何から話したらいいかな?」


「伊吹様が生まれ変わられたところからお願いします!」


「「「「「生まれ変わり!?」」」」」


 その日は遅くまで、翔太の口から三ノ宮伊吹という人物の人生が語られたのだった。

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