157:キャンプファイヤー
ダイビングを楽しんだ後、男女に分かれて温泉に浸かって疲れを癒した。
その後、各コテージでひと休みしてから夕食もバーベキューを楽しんだ。
そして今は、波の音を聞きながら全員でキャンプファイヤーを見つめている。
「はぁぁぁー、すーごい癒されるねーーー」
「そうだね、虫もいないし最高だよ」
恵美と亘は同じエアクッションに寄り添って座っている。
この無人島に虫がいないのは、元々草木がないただの岩礁だった事と、ナギが徹底的に処理している事が理由だ。
「そう言えばナギさん、ここは何という名前の島なんですか?」
正義と酒を片手に語り合っていた博務が、ナギに問い掛ける。
「特に名前はございません」
家事ヒューマノイド(ナギ)がそう答えた事で、皆でこの島の名前が考える事になった。
「井尻君の島なんだし井尻島で良いと思うー」
「却下。みんなの島だから僕の名前はナシで。
あと普通にどこかにありそう」
「金平島」
「せーぎさん、酔ってます?」
「オノゴロ島はどうだい?」
「オノゴロ島……?
えーっと、淡路島の近くにあるらしいよー」
「角島!
いたっ!?」
「止めろ、死人が出る」
「あ、愛の島……」
「おねえは雰囲気に酔ってるね」
「海鷹島はどうかな?」
「えっ!? ナギさんが提案してる!?」
家事ヒューマノイドが島の名付けに入って来たように見える為、望海が驚いた。
しかし、この家事ヒューマノイドはまなみが遠隔操作している。
名付けの理由を伝えようとすると、どうしても言葉数が多くなってしまうので、遠隔操作して話す事にしたのだ。
「あ、ごめんごめん。まなみだよ! 神州丸も鳳翔も日本の海軍所属の船の名前だし、どうせなら統一した方が良いかと思って。電脳ネットで調べてたら、海鷹って名前の空母が出て来たの! 元々は民間の船だったのを買収して造り変えたらしいからピッタリだと思って」
まなみの発言を受けて、皆がそれぞれ調べ出す。
「確かに良いと思うー」
「他にはなさそうな名前だしね」
「鷹というのが良いな!」
「……最後が気になるのだけど、言わない方が良いかしら?」
「沈んだ訳じゃないから良いとしよう」
という訳で、全会一致でこの島の名は海鷹島と名付けられた。
「ナギさんが現在地球上で行っていると話されていた事について、気になった点があったのですが」
次の話題として、博務がナギへ問い掛ける。
「企業買収というのは資産運用の為ですか? それとも何か別の目的があるのでしょうか」
まなみが遠隔操作していたのとは別の家事ヒューマノイドが答える。
「艦治様が人類文明の発展の為に、日本企業を使って我々の技術を広めるというお話をされておりました。
そこで、サクセサー商事を使うのはどうだろうと良光様との会話の中で出された事がありまして、必要になるかも知れないと買収を進めております」
「あのサクセサー商事ですか」
博務もニュースを見て、あぐらを搔いていた経営陣が次々に辞職しているのを知っていた。
しかし、神州丸との関係悪化から状況が好転するはずもなく、仕手化して株価は大きな値幅を取りながら日々下がり続けている。
「……そんな事も言ってたね」
「……そうだな」
当の二人は忘れていたようだ。艦治も良光も気まずそうな表情を浮かべている。
「仮に艦治君がサクセサー商事を手に入れると言ったとして、株の名義は井尻艦治にするのかな?」
「え? 神州丸のままはマズイですか?」
「マズイというか、現行法でそれは出来ないんだ」
博務が何故神州丸の名義でサクセサー商事を買収出来ないかを説明する。
「神州丸関連の事業を行っている国内企業は、外国資本の手に渡らないように規制が掛けられているんだ。
株を持っているって事は、その会社の経営方針に口を出せるという事だからね。
例えばサクセサー商事をアメリカの企業が買ったとして、サクセサー商事の買取店経由で迷宮から得た戦利品が全部アメリカへ輸出されちゃうから」
「神州丸も日本ではないから、法解釈的には外国扱いになって、サクセサー商事を買収出来ないって事ですか?
じゃあナギはどうやってサクセサー商事の株を集めてるの?」
博務の説明を聞いて、艦治が家事ヒューマノイド(ナギ)へ向き直る。
「協力企業を通じて売り買いをしております。こちらが神州丸だと認識している企業もあれば、そうでない企業もあります。
いずれかのタイミングで、各企業名義の株式を艦治様の名義で買い取るつもりでおりました」
「それはまた、一気に注目を浴びそうだねぇ」
上場されている企業の株式のうち、発行株式の五パーセント以上を保有した場合、大量保有報告書を提出する義務が生じる。
その際に市場関係者に井尻艦治という個人名が晒される事となる。そういった意味で、博務は注目を浴びると言ったのだ。
「僕の名前を隠すのは不可能ですか?」
「神州丸関連の企業の場合、企業が買収したらその親会社やさらにその上、関連企業や株主まで事細かく利害関係を洗われるからねぇ」
博務がそう言うと、艦治はあからさまに残念そうな表情を浮かべた。
そもそもサクセサー商事を買収しないという選択肢は、すでに艦治の頭にはなくなっている。
「じゃあよ、俺も金出すわ。そしたら注目を集めんのは艦治だけじゃなくなるだろ」
そんな中、サクセサー商事買収に正義が名乗りを上げた。
「サクセサー商事を買い取るのにどんだけ金が必要か知らんが、少しでも株を持ってたら問題ねぇだろ」
「……そうなると、サクセサー商事を買収する為に会社を立ち上げた方が良さそうだね」
サクセサー商事の株式を持つ為の会社を立ち上げる事で、大量保有報告書の名義はその新しい会社名になる。
もちろんその新しい会社の株主が誰なのか申告する必要があるが、それは誰でも閲覧出来る訳ではなく、管轄省庁である財務省などに限られる。
「じゃあもうここにいる全員の名義にすれば良くないです?
艦治さんはお金いっぱいあるだろうから、名義だけ貸せば良いんでしょ?」
彩の一言で、サクセサー商事の持ち株会社となる会社の株主として、この場にいる全員の名前が使用される事となった。
頭を叩かれるかと構えた彩だったが、まなみに頭を撫でられて居心地悪そうにしていたのだった。




