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超巨大宇宙船が落ちて来てから十八年が経ちました:今日からあなたが艦長です!!  作者: なつのさんち
二〇四七年

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154:浜辺の朝

七月十三日 土曜日

 バーベキューが終わった後は、それぞれのカップルに分かれてコテージで休む事になった。

 相手がいない(あや)は一人で泊まるつもりでいたのだが、(あきら)が二人で寝ようと誘っていた。

 皆が正義(まさよし)の様子を窺っていたのだが、正義は納得しており、一人でコテージへ向かって行った。



 朝。まなみが望海(のぞみ)恵美(えみ)に誘われたからと、ベッドを出てシャワーで軽く身体を洗った後、身支度を整えて露天風呂へと向かった。

 艦治(かんじ)良光(よしみつ)(わたる)を誘い、先に朝食を摂る事にした。


 砂浜にて、ビーチチェアに背中を預け、押し寄せては消えて行く波を眺めながら、家事ヒューマノイドが作ったサンドイッチを頬張る三人。


「どうせ海に入んのに、何で風呂入るんだ?」


「色んな体液が付着した身体のまま、他の人に触れる可能性がある海に入るの?」


「いや普通シャワー浴びるだろ」


「気分の問題じゃないかい?」


 そんな事を話していると、正義がやって来た。


「おう、みんな早ぇな」


 艦治達と同じ並びでビーチチェアに座り、家事ヒューマノイドが用意したアイスコーヒーを飲む。


「せーぎさん、姉貴と同室じゃなくて良かったっスか?」


「……気ぃ遣ってんじゃねぇよ。問題ねぇ」


「でも二人って、まだっスよね?」


 さらに踏み込んで尋ねた良光へ、正義が鬱陶しそうに答える。


「良いんだよ。俺らは俺らで考えるから、お前らは気にすんな」


 でも、と食い下がって話そうとする良光の肩を、艦治が小突く。


「お姉ちゃんの事が気になるのは分かるけど、せーぎさんに任せなよ。

 良くないよ、そういうの」


「ちがっ!? 俺は彩が迷惑を掛けたと思って……」


「彩ちゃんは一人でコテージに寝るつもりだって言ってただろ? それを輝さんが二人で寝る事にしたじゃん。

 輝さんがそうしたいと思って、せーぎさんがそれで納得してるんだから、僕らが何か言う事でもないよ」


 艦治の言葉を聞いて、亘も頷いている。

 良光は二人の顔を見て、自分が気を回し過ぎていた事を自覚し、正義に謝った。


「すみません。姉貴に彼氏が出来んの初めてで、上手く行って欲しくて、変に気を遣ったみたいっス」


 そんな良光を見て、正義が声を上げて笑う。


「気にすんな! 輝ちゃんを想う気持ちは受け取った。

 俺がそれを無碍にしねぇようにちゃんと見張っててくれや」


 正義は、どんな形であれ姉を想う弟として、良光に良い印象を抱いた。

 自分の所属する探索者集団の新入りとしても評価していた事もあり、気兼ねなく話せる良光の事を可愛い弟分として見ていたが、さらに親密度が増した。

 

「青春ですねぇ」


 少し前に来ていた博務(ひろむ)だが、良光と博務のやり取りを邪魔しないようにと気配を消していた。


「そういう博務さんは、今日もまたですか?」


 博務の喉仏や首筋にはキスマークが付けられ、こめかみには歯形の跡が付いている。


「ははは、まなみさんに信用してもらえるようにと言われましてね」


「ご迷惑をお掛けします」


「いえいえ、そんな」


 博務もビーチチェアに腰掛けて、サンドイッチを頬張る。


「せーぎさんとお呼びしても?」


 博務と正義は互いに自己紹介を済ませた程度で、じっくりと話すのは今朝が初めてだ。


「せーぎで良いですよ。俺の方が年下でしょ?」


 正義は二十七歳に対し、博務は三十歳。

 社会人になってしまうと、友達というものが出来る機会がぐんと減ってしまう。

 また、男というのは変なプライドや立場などが邪魔をして、対等な関係を作るのが非常に難しい。


「呼び捨てで良いし、敬語もいらないですよ。

 いや違うな。お互い呼び捨てでいこう。僕らが堅苦しくすると、この三人も居心地悪くなっちゃいそうだしね」


 その点、色んな職場に潜入して内偵する任務を与えられる事がある博務にとって、距離の詰め方や場の和ませ方はお手の物である。


「……そうか、まぁよろしく頼むよ」


 正義としては、艦治と良光と亘の事を持ち出されると、折れるしかない。

 ぎこちないながらも、正義と博務は対等な関係を結ぶ事となった。


「せーぎはスキューバダイビングした事あるのかい?」


「いや、ない。ただライセンスが必要って事は知ってたんだ。

 インストラクターヒューマノイドってのが見守ってくれんなら、大丈夫なんだろうけどな」


 正義と博務の目線を受けて、家事ヒューマノイド(ナギ)が口を開く。


「一般的なインストラクターだと思って頂ければ。

 万が一離岸流や津波などが発生しましても、すぐに救助出来る態勢を整えておりますので」


 正義も博務も知り得ない事だが、インプラントを埋め込んでいる以上、ナギは常に持ち主の現在地を把握する事が可能だ。

 どこに行こうとも、そのインプラントの持ち主の周囲にワープゲートを開いて、救助に向かう事が出来るのだ。

 その時点で心肺停止状態であったとしても、医療用ポッドに入れてしまえば回復させる事が可能だ。


 ただし亘と彩はインプラントを入れていない為、二人にはそれぞれ一体ずつインストラクターヒューマノイドが付く事になる。


「それにしても遅せぇな。

 目の前に海があるってのに、ただ待ってるだけなのはなぁ」


「じゃあ先に入っちゃおうか。サーフィンなんてどうかな?」


 良光が早く海に入りたそうにしていると、博務がそう言って立ち上がった。


「ナギさん、サーフボードとかってあります?」


「ご用意してございます」


 家事ヒューマノイド(ナギ)が亜空間収納から様々な種類のサーフボードを取り出していく。


「うわぁ、サーフショップが開けるね。

 ちなみに、サーフィン経験者は?」


 博務がそう尋ねるも、正義を含む四人は皆首を横に振った。

 近場の駿河湾は、神州丸(しんしゅうまる)が鎮座している関係で、サーフィンが出来るような環境ではない。


「じゃあ高校生組はこのロングボードね。せーぎは皆より背が高いから、もうちょっと長いヤツね」


 博務が各自乗るサーフボードを指定していく。


「博務さん、長さが違ったりこのフィンの数が違ったりするのには何か意味あるんスか?」


 良光は、博務が選ばなかったサーフボードが気になるようだ。

 そんな良光に、博務がニヤリと笑って答える。


「ターンを決めやすかったり、加速しやすかったりと色々あるんだけど、それよりもまずはボードの上に立てるようになる事が重要だ。

 サーフボードについてあれこれ言うのは、波に乗れるようにあった後だよ」

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