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超巨大宇宙船が落ちて来てから十八年が経ちました:今日からあなたが艦長です!!  作者: なつのさんち
二〇四七年

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151:元鞘

「はっはっはっ! いやぁ、すみませんでしたねぇ。

 辛いものを食べるのが一番手軽なストレス発散方法なんですよねぇ。

 最近は特に、……おっと」


 諸々全て聞いた後、博務(ひろむ)が赤いカプセルを噛んでも平気だった理由を明かした。


「まぁこちらとしても覚悟を見せてほしかっただけで、辛いかどうかについてはイタズラみたいなものなので、気にしないで下さい。

 と言うか、イタズラ仕掛けてすみませんでした」


「いやいや、理由は分かりましたし、謝って頂く事のほどでも」


「ありがとうございます。

 あと、僕らの事情を聞いてもらった以上、あまり改まってほしくないんですよね。

 雅絵(まさえ)はいつまで経っても堅苦しい感じなんですけど、山中(やまなか)さんにはもっと気楽にして頂いた方が僕としても気が楽で良いんですけど」


「うーん、そこらへんについては追々すり合わせて行くという事で良いですか?

 それよりも、今は雅絵からの情報提供を優先させたいんですねぇ」


 博務(ひろむ)艦治(かんじ)の事を後回しにして、自分を優先させたように見えるのが気に入らないのか、雅絵が博務をきつく睨み付ける。


「雅絵。山中さんは僕の頼みを理解してるからこそ、雅絵から話を聞く事を優先しようと思ってるんだ。

 分かってるよね?」


「……はい。

 ではひーちゃん、質問を」


「そのひーちゃん呼びは止めてくれないかなぁ」


≪お二人の前で話すべきなのか?≫


「止めるつもりはないわよ」


≪お二人に隠す事など何もないもの≫


 雅絵から促され、博務は渋々口を開く。


「ではまず、ここは神州丸(しんしゅうまる)で良いんですかねぇ?」


「いいえ。ここは人工天体鳳翔(ほうしょう)。大きさは太陽系最大の衛星であるガニメデとほぼ同じ。そして、現在は地球から観測出来ないように常に木星の裏側で静止しているの。私達は走行中の車からワープゲートを使って、一瞬のうちに何億キロメートルの距離を移動して来たの。

 どう? すごいでしょう!?」


 雅絵は博務へ説明している内に、知らず知らず興奮を抑えられなくなっていた。


≪雅絵ちゃんのテンションが高いねー≫


≪誰にも話せなかったから顔見知りと共有出来て嬉しいんじゃない?≫


 艦治とまなみは生暖かい目つきで、博務と雅絵のやり取りを見守っていた。



「……元カノが別れを切り出したのは偶然なんだろうな?」


 雅絵が艦治とまなみに博務を引き入れるべきと推薦した理由の一つに、自分の恋人として確保しておきたいという私的なものが含まれている。

 これは雅絵自身が寂しいから、博務が忘れられないから、というようなロマンティックな理由ではなく、雅絵が一人浮いていると、まなみが警戒するからだ。

 まなみが艦治を盗られないよう気を張り続けるよりも、雅絵の相手がいる方が安心であると共に、まなみに要らぬ気を遣わせるべきではないという雅絵の判断も含まれる。

 要は、雅絵は元カレである博務で妥協したのだ。


「私も艦治様もまなみ様も、そしてナギ様も。一切関わっていないわ」


 頷いてみせる艦治とまなみを見て、博務はとりあえず納得する事にした。


「度重なる出張、他部署他省庁との打ち合わせ、残業、すれ違い等々あったんじゃない?

 それでもその原因が神州丸関連、艦治様とまなみ様にあるとは、ひーちゃんは思わないタイプでしょう?」


「それはそうだ。付き合う時点で俺がそういう仕事に就いているのを全て説明するようにしているし、つまらん事を言うような相手なら俺の方から別れを切り出してる。

 ……って事は本当にたまたまそういう時期だったって事か」


「そうなんじゃない? 相手を見た事ないから分からないけど」


 ちなみに、博務が恋人と別れた原因について、雅絵もナギも一切関与していない。

 博務が恋人と別れた事を把握した後に、雅絵が博務を引き入れたいと言い出したのだ。


「うーん、まぁフラれた事はそれほど気にしてないからいいや。

 それにしても聞かされた内容が内容で、考えが追い付かない。もう一度最初から確認して良いか?」


 そう尋ねた博務に即答せず、雅絵がまなみへ電脳通話を飛ばす。


≪少々お時間を頂いてもよろしいでしょうか?≫


≪え? 別に良いけど≫


≪お二人にお付き合い頂くのは申し訳ないので、別室に移動して二人だけで質疑応答してもよろしいでしょうか?≫


 そこまで言われて、ようやくまなみは雅絵が求めている事に思い至る。


≪あー、ごめんごめん気が利かなくて。ご自由にどうぞー≫


 まなみから許可を得た雅絵がソファーから立ち上がり、博務の手を取って立ち上がるよう促す。


「行くわよ」


「え? 何だよ突然」


「同じ説明をするだけなんだから、お二人のお時間を奪うような事は出来ないじゃない。

 別室で私達二人だけで、現状の擦り合わせをしましょう?」


 雅絵が博務の指先を刺激する。そのジェスチャーで博務も雅絵が言わんとしている事を理解した。


≪お前マジかよ……≫


≪私が艦治様に手を出すつもりがないって姿勢をまなみ様に見て頂かなくちゃならないの。協力してよ≫


 艦治とまなみには見えない角度で、雅絵が妖艶な顔を作って博務を誘う。


「……分かった。

 艦治様、まなみ様。後日改めてお伺い致しますので、本日はこれにて失礼させて頂きます」


「ええ、ゆっくりと旧友を温めて下さい」


 博務と雅絵が二人に頭を下げた後、ワープゲートをくぐってどこかへ移動した。


「……おいで」


 二人きりになってすぐ、まなみが艦治の頭を抱き寄せた。校門を出てミニバンに乗った際に、艦治が不満そうな表情を見せた事を覚えていたのだ。


「ふぅ……。僕らも移動しようか」


「……んっ」


 艦治はまなみの返事を待たず、その唇を奪ったのだった。

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