146:とある喫茶店の様子
七月十日 水曜日
【喫茶店ストンポール】
「あんた、また二位が来たよ」
「お前なぁ、一応アレでもお客様なんだから陰口とか言うなよ」
「あんただってアレ扱いしてるじゃないかい」
「まぁなぁ。
で、アレの目的がシゲが連れて来た坊主なのは間違いねぇのか?」
「多分ねぇ。
ここで待ち合わせしてるんだって言ってたけど、あの子今授業中だと思うんだけどねぇ」
「とはいえ、こっちから学校にいるから来ないっつってしまうと藪蛇になるしなぁ」
「でも最近は待ち合わせとは言わずただ朝食を済ませに来るだけだし、良いんじゃないかい?
一緒に来てた女の人は全く来なくなっちまったねぇ」
カランコロン♪
「おはようございます!」
「あぁ、輝ちゃん。おはよう」
「マスター、いつもので!」
「あいよー!」
「マー坊は良い女見つけたねぇ。うちのにも誰か紹介してくれないかい?」
「せせせせーぎさんとはまだそんな……!!」
「はっはっはっ! 若いねぇ」
「失礼、お嬢さん。一緒にお茶などいかがですか?」
「あ、待ち合わせしてるんで」
「相手は正義でしょう? 彼が来るまでで結構ですとも!
ここのマスターは実に紅茶の淹れ方が上手いので……」
「二位さん、この子にちょっかい掛けるのは止めとくれ。見苦しい。
積極的なのは良いけどもっとお上品にしな」
「おっと、それは失礼。ちょっと情報交換と思っただけなんだが。
それと、今まであえて名乗らなかったが、私の名前はダートン・リドリスと言うんだ。知らなかったかい?
兄さんではなくサー・ダートンと呼んでくれたまえ」
「はいはい、さぁさぁ分かったからあっちの席に戻りな」
「サーは一回で良いんだぞ?
あと、アッサムのミルクティーを頼むよ」
「あんたー! ハッサンのミルクティー一丁!!」
「ここではマスターと呼べっつってんだろうが!!
サートンさん、ミルクティーはロイヤルミルクティーで良いのか?」
「ロイヤルミルクティーなんて本場では飲まないよ!
私がミルクティーと言ったら本場のミルクティーだ。覚えておいれくれたまえ」
「本場のミルクティーっつーけどよ、ミルクとお湯の配分は好みなんだろ?
俺のオススメの配分で良いか?」
「ふむ、マスターオススメの配分なのであれば、期待出来るね。
じゃあそれで頼むよ」
「あいよ」
「あんた、輝ちゃんのトーストやっつけちゃって良いかい?」
「だからマスターと呼べっつってんだろうが!!
あ、サートンに構ってたから輝ちゃんにタマゴトーストか小倉トーストか聞くの忘れてたわ。
日によって変えてたはずだ、確認してくれ」
「輝ちゃん、タマゴトーストか小倉トースト、どっちにする?」
「小倉トーストで!」
「あいよー!
じゃあこのトーストやっつけちゃうわね」
カランコロン♪
「せーぎさん!」
「おう、おはよ。
おじさん、いつもの」
「ここではマスターと呼べっつってんだろうが!!
マー坊はいつも小倉トーストだな」
「やぁ正義! 同席しても良いかな?」
「リドリスさん。今はプライベートなんで、そっとしといて下さい」
「おっと、それは失礼。
日本人は公私の切り替えが下手だなんて言われたりするが、正義はきっちり分けるんだね。
うむ、良い事だ」
「おい、これサートンにアッサムのミルクティーって言って出せ」
「あんた、これお湯入れてないんじゃないのかい?」
「良いから」
「分かったよ。
マッサンのミルクティーお待ちー!」
「おぉ、ありがとう。
うーん、やっぱりマスターの淹れる紅茶は一味も二味も違うね!
このミルクティー、とっても濃厚ですごく美味しいよ!!」
「はい、マー坊は小倉トーストとアイスコーヒーね」
「うわぁ、せーぎさんのあんこは大盛りですね!」
「この子は小さい頃から甘党でねぇ。その分お酒が飲めないみたいだけど」
「またおばちゃんが焼いたクッキー食わせてくれよ」
「そのうち焼いてあげるよ」
「あー、やっぱあんことコーヒーは合うよなぁ」
「そうですね! せーぎさんに言われるまで試した事なかったですけど、すごく美味しいです!!」
「それにしても……」
≪ダートンがいやがるから気軽に話せねぇ≫
≪艦治君とまなに関する事は、喋ろうとしても喋れないはずなんで大丈夫ですよ?≫
≪まぁそうなんだけどよ、自分の家で知らん外人が寛いでやがるみたいで落ち着かねぇよ≫
≪それはそうですねぇ≫
「うちは客を選ばねぇ。
……余程の事がない限りはな」
「分かってますよ。あいつもストンポールを気に入ってるみたいですし、とやかく言うつもりはないっス」
「とはいえ、元からいた常連の足が遠のくのは寂しいからな。
何かあったらすぐに対処する」
「その時は声掛けて下さいよ。
ストンポール守る為なら何でもしますよ」
「ったく頼りになるようになったねー!
輝ちゃん、マー坊はこう見えても小さい頃はよく泣いててねぇ。クラスの女の子にいじわるされただの何だので毎日泣いてたよ」
「えー!? そうなんですか、意外ですねぇ」
「止めてよおばちゃん! それ小学校の一年か二年の頃の話だろ?
俺もう二十七だぞ!!」
「そうだねぇ、そろそろ結婚相手を見つけても良い頃だねぇ」
「「…………」」
「あぁあぁ見つめ合っちゃって、朝から甘ったるいねぇ全く。
うちのにも良い出会いがないかしらねぇ」
「マスター。この喫茶店、あんまり客入りが良くなさそうだけど、経営は大丈夫なのかい?
知っているとは思うけど、僕は探索者累計ポイントランキング二位だから、お金は唸るほど持っているんだ。
もし経営が大変だったら、僕が土地建物ごと買い上げても良いよ? お二人は今まで通り働けるよう雇ってあげる事も出来るしね。
どうかな? 悪い話じゃないと思うんだが」
「経営は全く問題ねぇ。ここは先祖代々の土地だから手放すつもりもねぇ」
「そうかい?
まぁもし何かあったら相談してくれたまえ。僕は違いが分かる男だからね、喫茶店の経営には向いていると思うんだ。
……どうして笑っているんだい?」
「いや、何でもねぇ。明日もミルクティー淹れてやるからな」




