145:先人に学ぶ
「いやぁ、いらないいらないと思っていた生理から解放されるとはね! 何とも素晴らしい事じゃないか!!」
廻のスキルインストールとその他諸々が終わったと連絡を受け、男性陣が遊園地区画へ移動すると、合流してすぐに廻が大きな声でそう言い放った。
その他の女性陣が廻に対し、迷惑そうな視線を向けている。
「その気持ちはすごーく分かるけど、男の子の前で言う事じゃないと思うよー?」
恵美が廻に注意をする。
廻は特に気にした様子はなく、分かったと一言。本当の意味で理解したようには見えないが、恵美は追及しなかった。
「それにしても、人がいないと雰囲気が出ないね。
やっぱり遊園地はそこそこ混んでいる方が賑やかで楽し気に見えるもんなのかな」
亘がジェットコースターを見上げて呟く。
ジェットコースターのみならず、メリーゴーラウンドもコーヒーカップも空中ブランコも観覧車も何もかも、艦治達以外に来場者がいないので動いていない。
「あ、動いた」
一斉に場内のアトラクションが動き出し、色んな場所からBGMや場内アナウンスが流れ始める。
一同が艦治の肩に座っている妖精ナギへ視線を向ける。
「配慮が足りず、申し訳ありませんでした」
「いや、別に良いんだけど。
空いているに越した事はないし、ないものねだりだったよ」
謝るナギに対し、亘が苦笑を浮かべる。
さて、どれに乗るかと皆で相談していると、遊園地の入り口から大勢の外交大使ナギが歩いて来た。
「「「「「賑やかしに来ました!!」」」」」
一通りどんなアトラクションがあるのかを見て回った後。実際に乗りに行く者、休憩する者、さらに場内を散歩する者と、カップルごとに分かれて行った。
「大学? ボクが? 今から行きたいとは思わないよ」
廻は相手がいないので、一緒に回ろうとまなみが誘った。
その際、艦治に付いてまなみも大学へ通う予定であると伝え、廻も通いたいかと尋ねたところ、廻には全くその気がない事が分かった。
「だいたい、ボクが<堅如盤石>をまとめないと侵略迷宮の拠点構築が進まないよ?
あのじいさんは自分がやりたい事しかしないんだから」
廻は探索者として活動を開始して、まだ一年も経過していない。
が、源の孫娘という事と、元来の兄貴肌(姉御肌)気質もあり、非常に人を使うのが上手い。
廻の素質があるのを確認した源は、<堅如盤石>の運営をほとんど廻に押し付けてしまっている。
「そっかー。まぁめぐにその気がないなら良いけどね。私は四年間のモラトリアムをかんちと楽しむからさ」
賑やかし要因である外交大使ナギの中の一体の口を借りて、まなみが廻へそう告げる。
「ホントにそう思ってるの? モラトリアムも何も、がっつり政治に足を突っ込んだ後なんじゃない?
例のあの国とか、中東のあそこらへんとか、最近きな臭いって聞くけど?
二人の事情を詳しく知れば知るほど、裏で関わっているんじゃないかなって思えて来てるんだけど」
それなりの組織を運営している廻にとって、国際情勢もチェックする必要がある情報だ。
<堅如盤石>は国内外の探索者集団から依頼を引き受ける事で生計を立てているので、どんな情報が銭の種になるか分からない。
「まぁ、色々と、うん」
じぃーっと見つめられた艦治が、白状してしまう。
とは言え、廻に知られたとしても特に大きな問題にはなる訳ではない。
「でさ、まなは最終的にどうしたいの?」
「うーん、そんな大それた夢とか目標がある訳じゃないよ? ただかんちと楽しく暮らしてたいってだけ」
「……これだけ大きな武力と財力と権力を手に入れてしまった以上、周りが放っておいてくれないか。
だから早々に身内を取り込みに掛かっている、と。
艦治殿はなかなかに欲張りなんだね」
廻が艦治をニヤリとした笑顔を浮かべて見上げる。
艦治としてはそこまで意識していなかった事だが、後から考えると廻の言う通りである。
「そうだね、友達やその家族の将来を歪めてしまったよ。
正直、今のメンバーがカップル間でぎくしゃくしたり、別れちゃたり、仲間内で気が合わなくなったりしたらどうしようかと考える事もあるよ」
引き入れたは良いが、最後の最後まで共に歩んでくれるかどうかなど、後になってみないと分からない。
「それってさ、ナギが元々いた世界でも誰かが経験してる事なんじゃないの?
例えば、神州丸とか鳳翔とかを持ってた前艦長の伊之助さん? とか、そのご両親とかさ」
元いた世界の地球において、三ノ宮伊之助は艦治などでは想像が出来ないくらいの大富豪だったはずだ。
恐らく伊之助は生まれながらの大富豪だっただろうが、その両親やその祖父母、さらにと家系図を遡っていくと、今の艦治のように世間との付き合い方や友人関係などの大きな変化について悩んでいた人物がいるはずである。
その人物が何に悩み、どのように解決し、折り合いを付け、どうやって生きていたのか。それを知る事が出来れば、今後の艦治の身の振り方を考える助けになるのではないか。
廻が言いたい事はそういう事だった。
「ナギ。伊之助さんの家系で財を築いた人ってどんな人生だったのか、記録に残ってる?」
「はい。詳細な記録が残っております」
幸いな事に、目的の記録は残されていた。
艦治は喜び、ナギに資料提出を指示する。艦治とまなみの視界に、見覚えのある人物の画像が映し出された。
「これって、ライブしてた人だよね?」
「はい。こちらは三ノ宮家始祖、三ノ宮伊吹様です」
「そう言えばライブ見た時に始祖だって説明受けたね」
まなみが、以前伊吹のライブを見た事を思い出した。
「この伊吹様こそが三ノ宮家の財力と地位と名誉を確立されたお方です。
男女比一対三万の世界を正常な状態へ戻す事が出来たのも、一重に伊吹様のご活躍あってこそ」
「「え?」」
「異世界の知識を有効に使い、他の異世界の記憶を持っている仲間を集められ、世界を平和裏に手中に収められました」
「「はぁ……」」
その後のナギの説明を聞いて、二人はとても身の振り方を真似出来るような人物ではない事を悟った。
「つまり、伊吹様を見習ってボクを艦治殿の第二夫人として娶ると良いと言う事だね!!
……いたっ!?」
艦治とまなみは、同時に廻の頭にチョップをお見舞いしたのだった。




