144:男女分かれて
まなみから廻の紹介を受け、一同が廻へと自己紹介を済ませた頃、ちょうどお昼時となった。
浜辺にいる事もあり、いつものバーベキューが始まる。
「ほら、めぐりん。いーっぱい食べなー」
「うん!」
恵美が焼けた肉を廻の皿へ乗せていく。
廻の身長が平均よりも低い一五五センチという事もあり、恵美が嬉々としてお世話をする。
「この中でインプラント入ってないのは亘だけか。
そう言えば、親には言ったのか?」
良光が亘に問い掛ける。
「あぁ、ちょうど昨日言ったんだよ。
親父は『入れろとも入れるなとも言わん。自分で決めた以上、責任を持って行動しろ』とさ。
母さんは、インプラント自体は反対じゃないけど、探索活動については心配してるみたいだったよ」
亘の話を聞いて、みなそれぞれ自分の時はどうだったかを思い出している。
「うちは両親ともに探索者だから、何の問題もなかったなぁ」
まなみが家事ヒューマノイドの口を借りて、自分の時の事を話す。
「今は井尻君の事情を教えてもらってるから良いけど、私も恵美からインプラント入れに行こうって誘われた時は怖くて断っちゃったもん」
望海がインプラントを入れたきっかけは、良光が手術を受けたと聞いたからだ。
「それなのに、高須が手術受けたって聞いてすぐ神州丸に来たんだよねー」
恵美が望海にニヤニヤとした表情を向ける。
「……でもその行動力のお陰で今があるんだから良いじゃん。
恵美だってわたるんわたるん言ってる癖に」
「そーだよー? 私らラブラブだし。
のぞみんもよち君よち君言えば良いじゃーん」
「おい! そこで俺に流れ弾来んのおかしいだろ!!」
一同がどっと笑う。
廻にとっても知らない話題も上がるが、逐一まなみが電脳通話でフォローを入れている。
≪まな、ごめんだけどどっちの話も一緒に聞くのは無理だ!≫
≪あー、そうだったね≫
しかし、廻にとってはその場の会話とまなみからの電脳通話での解説を同時に聞いている状態なので、処理し切れなかったようだ。
まなみは自分が並列思考スキルがあるのが当たり前になってしまっているので、廻が混乱している事に気付けなかった。
「ごめん、学校の話聞いても面白くないよねー」
廻の箸が止まっている事に気付いた恵美が、廻の皿に肉を追加する。
「いやいやいや! 電脳通話でまなが教えてくれてたから大丈夫!!
……って言いたいんだけど、どっちの話も同時に聞くのは難しいってまなと話してたところなんだ」
「そっか、奥菜さんはまだスキルのインストールしてなかったもんね。
まなみ、食べ終わったら連れて行ってあげたら?」
艦治としては、自分達の事情を知っている人に対しては、全てのスキルをインストールしてもらうべきだと考えている。
そうすれば、魔法スキルの希少性を希薄化出来て、相対的に艦治とまなみの特別感を薄める事が出来る。
「スキルをインストール?」
「スキルショップでガチャを回さなくても、医療用ポッドに行けば全部のスキルをただで貰えるんだよ」
家事ヒューマノイド(まなみ)の説明を聞いて、廻が呆然とした表情を浮かべる。
「……チートじゃん」
まだインプラントを入れる事が出来ない亘以外は全員、公式チート状態である。
「と言うか、妨害生物も侵略者も全てナギの制御下にあるから、侵略迷宮であろうが幻想迷宮であろうが、攻略する必要がないんだよねー」
「……ゲーム崩壊じゃん」
昼食を終えた後、まなみは廻を連れて医療用施設へと向かう事となった。
「付いて行こーっと。
何かめぐりんと話す時のまなみんがちょーっとだけ辛辣な感じがして、新鮮なんだよねー」
「あー、分かる。
何て言うか、心から信頼してるからこそ何でも言える、みたいな感じ?」
恵美と望海も二人に着いて、医療施設へ行くつもりのようだ。
「じゃあ、俺らはゲーセン行こうぜ」
「お、いいねぇ。僕もあそこ気に入ったんだよね」
良光と亘はゲーセンを希望したので、艦治を含めてゲーセンへ移動する事になった。
「さっきの話、ちょっとだけ嘘なんだ」
「嘘?」
亘がクレーンゲームの景品を眺めながら、艦治と良光に打ち明ける。
「インプラント埋入手術の話。
あ、両親ともに同意してくれるのは本当だけど、母さんが心配したのはちょっと違ってね」
立ち話も何なので、ゲームセンター内にある休憩スペースに腰を下ろす三人。
艦治が亜空間収納から買っておいたペットボトルのコーヒーを配る。
「母さんはインプラントを入れてないからこそ、余計に変な噂話に敏感みたいなんだ。
高校生探索者が戦利品で風俗にハマるらしいってのを聞いて来て、絶対に行かないって約束させられたよ」
「……ぷぷっ、何だよそれ!」
良光も艦治も、そんな話を聞いた事はなかった。
そもそも、風俗店は厳格に年齢チェックが実施されており、十八歳であった場合は高校生でないかどうかを確認される。
万が一、十八歳かつ高校生の客に性的なサービスを提供してしまった場合、罰を受けるのは風俗店の方である。
「僕が変な顔をしていたら、親父が母さんの心配している事を解説してくれたよ。
風俗と言っていたけど、母さんが心配したのは日本資本以外の買取店の事だったんだ。
一度も買取店に行った事のない高校生探索者を、あの手この手で買取店に引き入れて、あんなサービスやこんなサービスでもって骨抜きにして、自分の店と専属契約を結ばせる。
そういう事件が昔はあったんだって。今はもうないらしいけどね」
日本政府が法規制を強め、買取店内で従業員は探索者と肉体的接触をしてはならないと定められた。
違反した場合、業務停止や買取店免許取り消しなどの厳しい罰則が定められた為、買取店内での過剰サービスが行われる事はなくなった。
「あくまで買取店内では、ってのがお前の母さんが心配してるところじゃねぇのか?」
「……そう言えばそうだね。
買取店が確保しているマンションなり個室なりに移動すれば良いのか。
まぁ、どちらにしても僕らには関係のない話だけどね」
良光も亘も艦治も、これ以上ないほどに性生活には満足をしているのだった。




