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超巨大宇宙船が落ちて来てから十八年が経ちました:今日からあなたが艦長です!!  作者: なつのさんち
二〇四七年

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141:まなとめぐ

 <日本(ジャパニーズ)爆夢(ドリーム)>所属探索者に対する教育的指導を行っていたので、昼食を摂るタイミングがずれてしまった。


「ここから移動するのも面倒ねぇ」


 平穏迷宮(ダンジョン)内には、艦治(かんじ)達の様子を遠目に眺める見物人達で溢れており、帰る素振りを見せると一斉に話し掛けて来そうな雰囲気である。


「艦治君、ここから直接移動しても良いかしらぁ?」


「そうですね、真美(まみ)さんがさっきされた方法で呼び掛けた事にしましょう」


 艦治は肩に座っていた妖精ナギを両手で抱き上げ、ギャラリーにも良く聞こえる声量で話し掛ける。


「ナギ、昼食にしたいからワープゲートを開いて」


「了解致しました」


 妖精ナギが艦治の要請に答えて、何もない空間にワープゲートが出現する。


「えっ!? 何これ!?」


 驚く(めぐり)だが、艦治とまなみは気にせずワープゲートに入って行った。


「ほれ、ワシらも行くぞ」


 (げん)が廻の背中を押して、ワープゲートへと押し込んだ。

 気が付くと、廻はソファーとテーブルが置かれた個室へと移動していた。


「ここどこ!?」


≪病院の中だよ。うるさくするなら平穏(チュートリアル)迷宮(ダンジョン)に戻すけど?≫


「ごめん! 座るから許して!!」


 廻が大人しくソファーに座ったので、艦治とまなみが亜空間収納から食べ物を次々にテーブルへと広げていく。


「これってまなの手作り!? 懐かしいー!!」


 手を合わせてから、廻が食べたいものを選んでいく。


「まなみは学生時代から料理が得意だったんですか?」


「あぁ、得意だったね。クラスの女どもはみんなまなの手作り弁当を狙っていてねぇ。

 まぁボクは毎日専用の弁当箱を用意してもらっていたけどね!」


≪渡さないと私のを盗りに来るから仕方なく用意してただけだよ≫


 艦治はまなみの昔の話を聞いた事がなかったので、廻の話を興味深く聞きながら食事を続ける。


「運動も得意で勉強も出来て、面倒見も良くてこの顔だから、中高共に学校一モテてたんだ」


≪女子校でモテてもねぇー≫


「そうだったんですね」


「まなとボクは、校内ベストカップルに何度も選ばれた仲なんだ!」


≪嬉しくなかったけどねー≫


 艦治にドヤ顔を向ける廻を、真美と源はどこか諦めた表情で見つめている。


「高校を卒業した後、じいさんの手伝いをしながらもちょくちょく二人で探索に来たり買い物に出掛けたりしてたのに、最近は全然会ってくれなかったからボクの事が嫌いになったのかと思ってたんだけど、彼氏を作っていたなんて……。

 これは裏切りだよ!!」


 キッ! と睨み付ける廻を無視し、まなみは玉子焼きを艦治の口元へ運ぶ。


≪裏切るも何もないけどねー≫


「あぁ……、ボクにもしてくれた事ないのに!」


≪めぐに(あや)ちゃんを紹介してみるのはどうかな?≫


≪……多様性を否定するつもりはないけど、中学生はまずいんじゃない?≫


≪そっかー、じゃあ来年以降かな?≫


≪来年も未成年である事に変わりはないけどね≫


 艦治とまなみが電脳通話で二人の世界に入っている事に気付き、廻が艦治へ指を突き付ける。


「ボクにも艦治殿の連絡先を教えてくれ! 二人だけズルイぞ!!」


「……ダメ」


「何でだ!? 連絡先くらい良いだろ!?」


 艦治はまなみに配慮して、クラスメイトであろうが友達の姉妹であろうが、電脳OSの連絡先を教えていない。

 連絡を取る必要がある際は、クラスメイトの彼氏である艦治の男友達を経由するか、まなみを経由する事でやり取りが可能なので、それほど不便を感じる事はない。


「今のところその方法で困っていないので。

 奥菜(おきな)さんもまなみと仲が良いので、連絡先を交換する必要を感じないですね」


「そういう問題じゃないじゃないか!!」


 どうにか艦治とまなみの輪に入り込みたい廻が、あぁだこうだと画策するが、艦治は距離を保ったまま相手にしないでいる。


「その奥菜さんという呼び方だけはどうにかならんか?

 ワシも奥菜さんじゃしややこしいわい」


「じいさん……!!」


 ようやく見え掛けた孫娘の春を感じ、源が廻に援護射撃をしてやるが、その作戦は強敵の存在によって潰えてしまう。


「あらぁ? 源さんの事を奥菜さんと呼ぶ事はないのだから、めぐちゃんの事を奥菜さんと呼んでも差し支えないんじゃないかしらぁ?」


 真美にとっても娘の春は大事にしてやりたいものであり、穂波(ほなみ)を独占し続ける真美は、まなみの気持ちを痛いほど良く理解している。 

 そして、そのまなみの気持ちを理解して実行に移している艦治の懐の深さにも、真美は好感を持っているのだ。


「えー! 真美さんヒドイですよぉ……」


「ひどくなんてないわぁ。愛する人を独り占めしたいと思うのは当然の感情だものぉ。

 あまりしつこく続けると、馬に蹴られてしまうかも知れないわよぉ?」


「ひぃ……!?」


 真美が向けた笑顔を見て、廻の顔は真っ青になってしまった。

 そして、廻にはある程度艦治と仲良くさせても良いかと考えていたまなみは、母親が見せてくれた優しさのお陰で、引っ込みが付かなくなってしまっていた。


≪どうかした?≫


 急に電脳通話でも無言になってしまったまなみを、艦治が心配して声を掛ける。


≪うーん、めぐは一番仲が良い友達なのは間違いないから、かんちとも仲良くしてくれると嬉しいは嬉しいんだけどね。まさかめぐがかんちの事を好きになっちゃうとは思ってなくて、どうしたものかなぁと思って。ママが言うほど怒りの感情はないんだよねぇ≫


 元々いつか艦治に廻を会わせようと考えたまなみだったが、女性が好きな廻が男性である艦治に惚れるという想定まではしていなかった。

 自分に対する嫉妬心は見せるだろうと予想していたが、このような展開になるとは思ってもみなかったのだ。


≪そっか。でも僕はまなみ以外の人を好きになる事はないから、それだけは心配いらないよ?≫


≪分かってる。分かってるんだけど、これは私の問題だからなぁ≫


 まなみの抱える問題について、一番の親友である廻にさえ、打ち明けていない。

 そろそろまなみは、自分自身と向き合わなければならないと感じていた。

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