134:各国の動き
【アメリカの動き】
「侵略迷宮か」
「ええ、有力探索者集団の団長が揃って入って行ったと」
「その中に例の彼はいたのか?」
「はい、確認しております。
彼らのキーマンはカンジ・イジリかと」
「ホナミとマミは第一線を退いたからな。
再びあの二人を最前線に引きずり出すとは、我々が考えている以上に大型新人だったようだ」
「ルーエンスからの接触に対し、つれない態度を示しております」
「そうなのか?
奴は本国では一番の有名人だぞ? 将来大統領選に出れば間違いなく当選するだろう」
「まぁ本人は本国に何年も帰っておりませんが。
日本政府に帰化申請の手続きについて便宜を図ってほしいと内々に頼んでいる状況です」
「何だと!? そんな話は初めて聞いたぞ!!」
「現状では帰化申請は降りないでしょう。
ルーエンスも簡単には降りないと予想しているようです」
「万が一奴が帰化したらどうするつもりだね!?
奴が連れている支援妖精は白頭鷲だぞ、国民に多大なる影響を与え兼ねん!」
「新たに<日本爆夢>の団長を選ぶだけです。
今まで通り、連れている支援妖精は本人の資質とは関係ないと言い続けるだけです」
「……さほど影響はないと考えるか?」
「影響を最小限で食い止めるしかありません。
それに、<日本爆夢>は彼の活躍のみで成り立っている訳ではありませんので。
同じ理由で、日本政府がルーエンスを特別扱いして帰化させるような事もないでしょう」
「だが、現大統領の支持率には多大な影響を与えるだろうな。
うーむ、厄介な問題だ。
ルーエンスを侵略迷宮の攻略に参加させるべきか、否か……」
「<日本爆夢>として、同盟に参加させたいと考えております」
「ルーエンスがどう動くかは些細な問題という事か」
「仰る通りです。
また、同盟に参加出来るかどうかも確実ではありません」
「結局は<珠聯璧合>・<恐悦至極>・<堅如盤石>の気分次第という事か。
我らが黒人だけでなく、極東の顔色までも窺う事になろうとはなぁ……」
「すでに時世が変わり十八年も経過しております。
閣下も大統領も政府も国民も、一刻も早く切り替えて頂きたい」
「すまん、失言だった。忘れてくれ」
「……一度口に出してしまうと、神州丸に伝わってしまう可能性がある事をお忘れなきように」
「…………」
「ジェスチャーもお控え頂ければ。どこに目があるか分かったものではありません」
「全く……。息苦しい時代になったものだ。
私ももう引退し、余生を草津か箱根で過ごすとしよう」
「閣下に永住権が認められる事を、お祈りしておきましょう」
【イギリスの動き】
『本当にここに来るのかしら?』
『もちろんさ。
彼らが探索前にここでお茶を楽しむという情報を得ているからね』
『それにしても、もう一時間も待っているのよ?
紅茶は本土と比べても遜色ないけれど、さすがにこれ以上は飲めないわ』
『泥水の匂いが店に充満しているのが我慢ならないがね』
「お客さん、うちの店に何か文句でもあるのかい?」
「いやいや、何もないとも。
そうだ、フィッシュアンドチップスを頼めないかな?」
「通常メニューにはないけど、一応うちの人に聞いてみるよ。
あんたー! ハッシュドアンドチョップスっての作れるかい?」
「店ではマスターと呼べと言うとるじゃろ!!
フィッシュアンドチップスなんぞ出来る訳ないじゃろうが!
ここは喫茶店じゃぞ!!」
「ないとさ。すまないね」
「いやいや、とんでもない。
私が無理を言ってしまっただけだ。
何かマスターオススメの食べ物を頂きたい」
「私も」
「二つお願いするよ」
「あいよ。
あんたー! マスターオススメの料理だってさ!!」
「あーん? オススメか……。
ってマスターって呼べって言っとるじゃろが!!」
「今言っただろう?」
「……そうか?」
『大丈夫なのかしら』
『問題ないさ。日本の食事はどれも美味しい。
同じ島国なのに悔しいところだね』
『本当にね。
で? ここに例の新人さんが来るという根拠を教えてもらえるかしら?』
『探索者の言動は全て、支援妖精を通じて監視されていると考えられている。
そして私は今朝、このコマドリのミスティを通じてMrs.ナギにMr.イジリとの面会を申し込んだ。
午前十一時にこの喫茶店、ストンポールで待つ、とね。
どうだい? 問題ないと分かったかね?』
『……私はあなたの評価を二つくらい下げないといけないようね。
ダートン、仮に神州丸が支援妖精を通じて情報収集しているのが真実だったとして、何故ナギが一探索者の伝言をわざわざイジリという坊やに伝える義理があるのかしら?』
『伝えるさ。他ならぬ私の頼みだよ?』
『他ならぬ、誰かしら?』
『陛下からサーの称号を与えられた、このダートン・リドリスを無視出来る訳ないと思わないかね?
傍流とはいえ、王家の血を引く君を副官に寄越したのも陛下のご意思だろう?』
『陛下のご意思を推し量る事など出来ないわ』
『探索者ランキングでも二位に位置する実力も示している。
Mrs.ナギは私を放っておけないだろうさ。恐らくMr.イジリはもうすぐ来るよ』
『……私はランチを楽しんだら失礼するわ』
『おっと、Mr.イジリの分も頼んでおくべきだったかな?』
「はいお待ち! ナポリタンだよ」
「……ありがとう」
「頂きます」
『まさかパスタが来るとは……』
『紳士を気取るなら文句を言わずに食べなさい。あなたがオススメを頼んだのよ。
あら、意外と美味しいわね』
『確かに美味しいね。
イタリア人が発狂するのが目に浮かぶようだ』
「御馳走様でした。私は先に失礼しますが、お代はあちらの男性がお支払いしますので」
「あいよー、また来てね」
「ありがとう。
きっとあの男性の待ち人は来ないから、もし閉店時間までいたら追い出して下さいね」
「はっはっはっ! 振られたのかい? 可哀想にねぇ」
≪こちらイレブン。ストンポールを出た。
状況は?≫
≪こちらスリーナイン。状況に変化なし。
少数で侵略迷宮を巡回中≫
≪了解。
そろそろアレを排除すべきだと思うの≫
≪おだててあげれば喜んで動いてくれるから、使い勝手は良いと思うわよ?≫
≪おだてるのが面倒なのよ。
第三国からの帰化人なのに、紳士を気取るわサーの称号ごときを誇るわ……。
アレを陛下に推挙した人物の判断力を疑うわ≫
≪カンジ・イジリとの接触さえ果たせれば、アレの扱いなんてどうでも良い事よ≫
≪マナミとマミがいる以上、色気は使えないわよね。
金も地位も名誉もこちら以上に持っている可能性もあるし、やりにくい相手ね≫
≪正々堂々と協力を申し出るのが一番有効だと思うわ≫
≪となると、<風流瀟洒>のトップであるアレから働き掛けさせる方が良いのか≫
≪ままならないわね≫
≪全くだわ≫




