132:(ほぼ)全員集合
侵略迷宮に、艦治の事情を知る者達がほぼ集まったので、ついでだからと雅絵も呼び出す事にした。
試しにまなみが電脳通話で連絡を入れてみると、すぐにでも行けるとの事だったので、ワープゲートをくぐってやって来た。
「天辺雅絵と申します。
内閣国家安全保障局迷宮対策室に潜入しております、まなみ様直属の部下となります。
よろしくお願い致します」
先日とは違い、しっかりとメイクをして、白いブラウスの上に黒いパンツスーツを着用している。
スキルガチャ経由で性欲抑制スキルをインストールされたので、まなみから普段通りの姿でいる事が許されたのだ。
「スーパーキャリアウーマンです? カッコイイですね!」
まなみの部下云々の説明が終わった後、彩だけが雅絵に興味を示す。
源を除く男性陣にはそれぞれ恋人(予定を含む)がいる手前、話し掛けるのを躊躇っている。
望海・恵美・輝は雅絵と仮想空間で顔を合わせた事があるが、今回が初対面のような態度で接している。
この他に艦治の事情を知っているのは、艦治の両親である治樹と治佳だけだが、二人は今日も研究所で仕事をしているだろうという事で、わざわざ声を掛ける事はなかった。
顔合わせが終わり、かねてより雅絵が気になっていた事を、皆の前でナギに対して質問しても良いかとの申し出があった。
「各自それぞれに説明するのもアレだから、ちょうど良い機会だね」
妖精ナギよりも外交大使ナギの方が良いだろうという事で、改めて外交大使ナギを呼び出した。
「何なりとご質問下さいませ」
ワープゲートをくぐって現れたナギが、一同へ頭を下げた。
「それでは私から。
ナギさんがおられたのは、この世界とは違う別の並行世界であると伺いましたが、こちらの世界の宇宙には、地球外生命体はいるのでしょうか?」
雅絵からの質問は、神州丸についての疑問ではなく、この宇宙の生命体についての質問だった。
神州丸は天の川銀河以外の宇宙域を航行中、敵対生命体に襲われたところをワープして逃げ、地球に墜落した事になっている。
が、それが三ノ宮伊之助のDNAを探す為の嘘であったと知っている人間にとっては、じゃあ本当のところ人間以外の生命体っているの? という疑問が生じるのだ。
「端的に申しますと、無数に存在致します。
しかし、ほとんどの生命体が文明を築くレベルに達しておらず、達していたとしても、超高度文明を築いた生命体に滅ぼされるか、文明レベルが上がらない状態で保護されています」
ナギの回答を受けて、皆がやはりいるのだと知って、盛り上がる。
「地球にはナギちゃん以外の宇宙人はおるんか?」
源もその手の映画やドラマが好きなようで、ナギに質問を投げ掛けた。
「いえ、調査を実施しましたが存在を確認する事は出来ませんでした」
源の質問をきっかけに、皆が口々にナギへ質問を投げる。
「地球に一番近い宇宙人はどこにいるんだい?」
「現在、この天の川銀河には存在しません」
「この宇宙で知的生命体からの接触はあったのかしらぁ?」
「ございました。
別の銀河系で資源開発をしているところを攻撃されましたので、文明ごと殲滅致しました」
「その文明ってどれくらいの知的レベルだったのー?」
「恐らく銀河間航行技術に至っていないレベルだったかと思われます」
「平和的に交流可能な宇宙人はいないんスか?」
「そもそも平和的という概念の在り方が違いますので、全ての知的生命体と共存するのはほぼ不可能と言って良いと思われます」
その後の質問で、モンスターコアや迷宮内で手に入る戦利品や採掘品については、別の銀河系で入手したものを送って来ているとナギから説明された。
迷宮でどれだけの資源が採掘されても、現在の人類の文明レベルでは使い切れないエネルギー量が確保済みなので、気にする必要がない事も知らされた。
「神州丸にとって脅威になるであろう生命体の存在は、ないと考えて良いんじゃな?」
「はい。そう思って頂いて問題ございません」
源の質問に対するナギの回答を受けて、艦治が地球の支配者どころか複数の銀河系を手中に収めている事が判明した。
「とんでもない小僧じゃな……」
改めて源にまじまじと見つめられる艦治だが、艦治にとっては地球規模から銀河規模になろうとも、どちらにしても手に負えないレベルなのは変わらない。
「その上で今まで通り暮らしたい、か。
まぁ気持ちは分かるぜ」
正義が艦治の肩を優しく叩く。
「って事で、皆さんにも共犯になってもらって、僕が自由に楽しく暮らしていけるようにお手伝いをしてもらいたいと思いますので、よろしくお願いします」
「小僧だけに好き勝手させんぞ! ワシは侵略迷宮の中に巨大建造物を作ってやるんじゃ!!
今さら嫌とは言わせんからのぉ!!」
艦治は源に指を差されて苦笑する。
「そう遠くないうちに侵略迷宮は迷宮ではなくなって、人が来なくなるかも知れません。
それでも良いんですか?」
「構わん! ワシは建てたいだけじゃ。運用なんぞ考えとらんからその後の事は知らん!!
じゃが、残しといてくれるんじゃろ?」
「ええ、それは構いませんけど」
艦治がナギに視線を送ると、大きく頷いて見せた。
そんなタイミングで、良光が艦治へ電脳通話を掛けた。
≪なぁ。現在、この天の川銀河には存在しませんって事はよぉ……≫
≪分かってる。けどそこは深堀りしたくないんだよね。
聞かなかった事にしない?≫




