130:侵略者の生態
「随分乗り気なのね?」
やる気が漲っている様子の源に対し、真美が何故そんなにギラギラとした目をしているのかと尋ねる。
「んなもん決まっとろうが。これからワシは依頼を受けんでも好きに拠点を築く事が出来るっちゅう事が分かったんじゃ。
どんな拠点を作るか考えるだけでも滾ってくるわい!!」
源は神州丸が日本に墜落する前から建築関係の仕事に就いており、探索者になったのは迷宮内に安全地帯を構築出来るかという依頼を受けた事がきっかけである。
源は小さい頃から好きな事はブロック遊び、好きなゲームはデジタルブロック遊びという根っからの建築好き少年であった。
好きが高じて建設業に就職したが、クライアントの曖昧な指示やつまらない設計思想などに振り回され、自らの内にある情熱とぶつかってたびたびトラブルになっていたので、建築専門の探索者に誘われた際は喜んで引き受けたのだ。
しかし、結局迷宮内でも自分の好きなものだけを作っていれば良いという訳ではなかったので、鬱憤が溜まる事も多かった。
「ワシは侵略迷宮内に巨大な建築物を建てるぞ!
ナギちゃんが妨害生物と侵略者を操っとるんなら、ワシが建築してる最中も邪魔はして来んのじゃろ? 建築中の拠点を破壊されんのじゃろ?
極楽じゃわい!!」
「なるほどねぇ。
何にしても、源さんとは利害が一致したと言うところかしらぁ」
真美が正義に視線を向ける。
「お手上げっスよ。ここまで聞かされた以上、艦治や穂波さん達に従うしかねぇ」
両手を上げたまま、正義が真美へ返事をする。
しかし、その表情に諦めや絶望、無力感などの負の感情は窺えない。
「それに、今まで俺は迷宮の中で命がけで遊んでただけっスからね。
それが命まで取られないって分かっただけで、特に今までと変わりはないんで」
正義は天然資源が少ない日本の為、そして困っているらしい神州丸のナギの為に迷宮攻略を進めていた。
しかし、艦治のお陰で迷宮資源は引き続き採り続ける事が出来るし、ナギの悩みもすでに解決済みであると知った。
自分が必死に戦わなくても良い事を知り、正義は肩の力を抜いて探索を続ける事を選んだ。
「……それじゃあ、<恐悦至極>と<堅如盤石>、そして私達<珠聯璧合>での同盟設立という事で良いかしらぁ?」
真美の確認に対し、源が間髪入れずに答える。
「もちろんじゃ!」
「俺個人としては問題ないんスが、一応持ち帰ってうちの構成員に確認します」
しかし、正義は<恐悦至極>の構成員に侵略迷宮の攻略について話した上で、改めて返事をする事にした。
「皆は納得してくれるかしらぁ?」
「……どうでしょうね。
例えば、侵略迷宮を攻める上でのメリットなどを提示出来れば話が早いんスけど」
<恐悦至極>は今まで、戦利品獲得を主目的として活動しており、侵略者が溢れ出て来ないよう、侵略迷宮での活動は最低限に留めていた。
ここに来て、突然侵略迷宮の攻略を主な活動とすると言われれば、構成員達は戸惑うのは当たり前の話だ。
正義の話を受けて、真美が艦治へ視線を送る。
「そうですね……。
例えば、今まで謎だった侵略者の生態が判明、火を極端に怖がる事が分かったので、攻略がしやすくなった。とかですか?」
「それは理由として弱過ぎるじゃろ。
じゃが、拠点を構築する際にその設定は活かせそうじゃな。
かがり火を怖がって拠点に近付かん事にするとしよう」
艦治の提案は、一部のみ源に受け入れられた。
「侵略迷宮の不人気の理由として、戦利品が手に入りにくい事が挙げられる。
それさえ何とかなれば、説得しやすいんだがな」
侵略迷宮は神州丸内の迷宮で唯一、外部の生命体である侵略者が存在する迷宮であるという設定になっている。
地球から遠い宇宙域で神州丸を襲った敵性生命体が送り込んだ人工生命体が、侵略者という事になっている。
侵略迷宮は神州丸艦内へ侵入した侵略者をまとめて閉じ込めた迷宮だが、侵略者は迷宮が生み出す妨害生物を食らって繁殖するので、探索者が得られる戦利品はほとんどない。
「じゃったら、侵略者どもが食らったモンスターコアはどこかに貯められとる事にすればどうじゃ?
十八年分のモンスターコアが、侵略迷宮内のどこかに点在しとる。
ワシらはたまたまその一部を見つけて、本格的な採掘を始めようとしとるという事にするんじゃ。
まぁワシらというより小僧か穂波じゃろうな。ワシと正義が呼び出されたのはすでに多くのもんらに見られとるからのぉ」
どうじゃ? と自信あり気に胸を張る源。
「うーん……。
ナギ、モンスターコアを大量に用意する事は出来る?」
「問題ございません」
外交大使ナギはそう答えたが、その他の者達は嫌そうな表情をしており、可能であれば別の案が良いと文句を言う。
「明らかに排泄物、マシに言っても消化不良のトウモロコシと同じだしなぁ……」
そう呟く艦治に、源が怒鳴る。
「何じゃ!? 文句があるんなら小僧が考えれば良いじゃろう!!」
その後、源以外で唸りながら別の案を考えたのだが、それよりもマシな理由が思い浮かぶ事はなく、なし崩し的に源の案が採用されるのだった。




