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超巨大宇宙船が落ちて来てから十八年が経ちました:今日からあなたが艦長です!!  作者: なつのさんち
二〇四七年

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129:選択 × 事後承諾 〇

 つまらないイタズラをされて激怒していた(げん)だが、艦治(かんじ)の合図でワープゲートを開いた事と、唐辛子カプセルで荒れた口内の治療の為だけに医療用ポッドが使えた事を受けて、事の重大性を冷静に受け止めるようになった。


≪ワープゲートはスキルではないぞ!≫


≪そんな事分かってんだよ!!≫


 医療用ポッドを出て軽くシャワーを浴びながら、正義(まさよし)と情報交換する。


≪脱いだ服が新品になっとる≫


≪あぁ、こっちもだ≫


 バスタオルで身体を拭き、急いで服を着る。 


≪艦治とかいう小僧が引き当てたのは、スキルではなく何かしらの権限か役職ではないかのぉ≫


≪スキルショップってくらいだからスキルしか出ねぇんじゃねぇのか?≫


≪馬鹿もん、誰がガチャで役職が排出されると言うた≫


≪あぁ? ややこしい言い方すんじゃねぇよ!≫


 源と正義はそれぞれ医療用ヒューマノイドに案内され、手術準備室から元いた個室へと戻った。


「お疲れ様でした」


「まさか、まだ驚かされるとはのぉ……」


 源と正義を待っていたのは、世界一有名な宇宙人。神州丸(しんしゅうまる)外交大使、ナギだった。

 ナギが立っているのに対し、穂波(ほなみ)ら四人が座ってお茶をしているのを見て、源はその関係性を推し量る。


「もしかして、これ以上驚かされるのかのぉ」


「お掛けなさいな。腰を抜かすかも知れないわよぉ?」


 真美(まみ)の言葉に言い返す事はせず、源と正義は素直にソファーへ腰を下ろした。



 知り合いである穂波と真美、その娘のまなみ、そして自分よりも遥に年下で新人探索者の艦治。

 そんな者らよりも外交大使であるナミの口から説明を受けた方が早いだろうと、真美が艦治にナギを呼ぶよう指示をしていた。


 真美の思惑通り、源も正義も余計な口を挟む事なく、疑う事もなく素直にナギの話を受け止めた。



「小僧が神州丸の艦長として認められた事は理解した。

 が、何故ワシらが侵略(インベーダー)迷宮(ダンジョン)攻略の手伝いをせにゃならんのじゃ?

 ナギちゃんの話を聞く限り、小僧が迷宮を攻略する必要があるとは思えんのじゃが」


 艦治がナギの主であった三ノ宮(さんのみや)伊之助(いのすけ)と同じDNAの持ち主で、神州丸の艦長となった事はすんなりと受け入れた源であるが、何故そんな回りくどい事をするのかと疑問を呈した。


「そりゃあじいさん、艦治は目立ちたくねぇんだろうよ」


「目立ちたくないんなら、探索者なんぞせんでもよかろう」


「ナギさんが仕えてる以上、そうは行かねえだろ」


「何故じゃ? ナギちゃんの主で神州丸の艦長であったとしても、探索者として活動する必要はないはずじゃ。

 そもそも迷宮を探索する事自体必要がないんじゃろ? 小僧がナギちゃんに一言指示を出せば、迷宮そのものが消えてなくなるんじゃないか?」


 源がそう言って、ナギと艦治の顔色を窺うと、ナギは澄ました表情で頷いており、艦治は苦笑を浮かべていた。


「なるほどのぉ、小僧は神州丸を持て余しておるんじゃな。それに、世界が神州丸に、迷宮に依存しとる事も理解しとる。

 じゃから今のまま神州丸の迷宮を機能させつつ、自分も好きなように生きられる形を模索しとるというところか」


 源は艦治の置かれた状況に理解を示した。

 艦治は世界を丸ごと手に入れる事が出来るほどの武力と資源と財力を手にしているが、世界に覇を唱えようという性格ではなく、またそれほどの胆力もない。


「お陰様で、世界よりも大事なものを手に入れてますんで」


 艦治が抱き着いているまなみの頭を撫でる。


「ふん、惚気か。正義が小僧くらいの歳にはとっかえひっかえしとったぞ?」


「俺の話は良いんだよ!」


 正義が否定しなかったので、その意外な一面が露呈する事となった。


「つまり、神州丸の艦長である事は知られずに、じゃが神州丸から特別視されて当然であろうと第三者に納得させるだけの実績を上げたいと言う事じゃな?

 それで侵略迷宮の解放という訳じゃの」


「仰る通りです。

 僕は今の生活が変わる事は仕方ないと思っていますが、世界を左右するような人物であるという目で見られて生活するのは御免なんです。

 顔色を窺われて、機嫌悪そうにしていると取られるとおべっか使われたり、怖がられたりするのは嫌なんですよ。

 ですので、太秦映画スター程度の注目度くらいで何とかならないかなぁと思ってるんですよね」


 太秦映画スターとは、ふた昔前で言うところのハリウッドスターと同程度の存在だ。

 世界経済の中心が日本に移動した事から、ハリウッドで制作されていたような大作映画は、京都市の太秦付近へと拠点を移す事となった。

 今や太秦周辺は、大作映画への出演を夢見る俳優・女優達が世界中から集まる映画の街になっている。


「太秦映画スターってお前……」


 正義はインプラントを入れる前の艦治を知っているからこそ余計に、艦治の言葉をすんなりと受け止める事が出来ないでいる。


「それで、侵略迷宮の解放という功績を<珠聯璧合(しゅれんへきごう)>と

<恐悦至極>と、ワシら<堅如盤石(けんにょばんじゃく)>で分け合おうって魂胆なんじゃな?」


 源が伸びたまま放ったらかしにしているあごひげを撫でながら、艦治の目をじっと見つめる。

 艦治も源から目を逸らさず、じっと見つめ返す。


「いや、この場合は功績を薄める為、と言うべきかのぉ」


「それでもよぉ、もし俺らが口を滑らしたらどうするつもりなんだ?」


 正義が当然の疑問を口にすると、真美が笑いながら回答する。


「今ここで試してみれば良いわぁ。

 そうねぇ、<恐悦至極>専用掲示板に『井尻(いじり)艦治(かんじ)は神州丸の艦長だ』って書き込んでご覧なさいなぁ」


「……良いんスね?」


 一言断ってから、言われた通り掲示板に書き込もうとする正義だが、どうやっても掲示板に文字を打ち込む事が出来なかった。


「……どういう事っスか?」


「電脳OSを使ったやり取りも、直接会話でのやり取りも、全てナギがストップを掛けます」


 艦治の言葉を聞いて、正義はインプラントを入れたその時から、自分の行動は全てナギに把握されていた事を悟った。


「これは是非もないのぉ」


 源はギラギラした笑みを浮かべ、正義は両手を頭の上に掲げた。

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