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超巨大宇宙船が落ちて来てから十八年が経ちました:今日からあなたが艦長です!!  作者: なつのさんち
二〇四七年

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七月七日 日曜日

 <恐悦至極>の団長(他称)沢渡(さわたり)正義(まさよし)と、<堅如盤石(けんにょばんじゃく)>の団長奥菜(おきな)(げん)が、<珠聯璧合(しゅれんへきごう)>団長加見里(かみり)穂波(ほなみ)に呼び出され、神州丸(しんしゅうまる)内にある医療施設前に立っていた。


「何でこんなに目立つ場所を待ち合わせに指定したんじゃ。

 団長二人もおったら注目されるに決まっとろうが」


「だから俺は団長じゃねぇっつってんだろ!?」


「でけぇ声出すな! 余計注目浴びんだろうが!!」


 怒鳴った正義に対して源が怒鳴り返す事で、さらに二人の注目度が上がった。

 傍から見れば、背の高い筋骨隆々の青年と、小柄で筋骨隆々というずんぐりむっくりとした体形で白髪髭もじゃの初老のじいさんが怒鳴り合っている光景なので、非常に目を引くのだ。


 そんなタイミングで、待ち合わせをしていた午前十一時ちょうどになり、医療施設内から医療用ヒューマノイドが二人を呼びに来た。


「ようこそお出で下さいました。こちらへお越し下さいませ」


「んん!? お、おう……」


 必要以上に会話しないとされている医療用ヒューマノイドから声を掛けられ、面を食らいつつも正義が素直に後を着いて行く。

 源もそれに続き、ソファーとテーブルの応接セットが置かれた個室に案内された。


「こちらにお掛けになってお待ち下さいませ」


 言われた通り、二人がソファーに座った。

 と同時に、黒い壁のようなもの、ワープゲートが開き、中から穂波と真美(まみ)、そしてその娘のまなみ、さらにまなみの恋人である艦治(かんじ)が姿を現した。


「……こいつぁ驚かせやがる。仕組みは迷宮(ダンジョン)の入り口と同じか?」


 ワープゲートを見せられて驚愕する二人だったが、先に我に返ったのは源の方だった。

 拠点構築を生業にする探索者集団の団長の名に恥じず、すぐにワープゲートの仕組みについて考察を始めた。


「これを知られた以上、簡単に帰す事は出来なくなったわぁ」


「誰のスキルか分からんが、こんなもん見せられて帰れるなんぞ言える訳ねぇだろ!

 こんなもんを自由に設置出来りゃあワシらの仕事はのうなるんじゃからのぉ!!」


 ワープゲートを何のデメリットなく使う事が出来るようになれば、迷宮探索の方法ががらりと変わってしまう。

 わざわざ拠点構築の必要がなくなり、代わりにワープゲートでの送迎が流行る事になるだろう。


「これは、艦治のスキルなのか……?」


 まだ驚きから冷めていない正義が艦治へそう尋ねたが、真美が待ったを掛けた。


「私達の秘密に触れるからには、相応の覚悟を示してもらうつもりよぉ?」


 真美の合図と共に、待機していた医療用ヒューマノイドが源と正義の前に青く透き通った錠剤のようなものと、赤く透き通った錠剤のようなものが乗せられた小皿を置いた。


「…………この青い錠剤を飲めば」

「この青いカプセルを噛めば、今日のこの話はおしまいよぉ。

 ここで見た事、聞いた事は全て忘れて、医療用ポッドで目が覚めるわぁ。そして今まで通りの探索者生活を送る事になるでしょうねぇ。

 一方、こちらの赤いカプセルを噛めば、私達の置かれている状況、望んでいる生活、あなた達二人に期待している事、あなた達が私達にする質問に対する返答などなど、全てを知る事になるわぁ」


 必死に覚えて来たセリフを真美に取られ、穂波がやや悲しそうな表情を浮かべる。


「ふんっ、そんな確認必要ないわい! こっちの赤いのを噛めば良いんじゃろ!?」


「おっと、まだ口に入れちゃあダメよぉ? 二人同時じゃないと面白くないものぉ」


 真美と源に見つめられ、正義もおずおずと赤いカプセルを右手で摘まむ。


「飲み込むのではなく、噛む事が重要なんスね?」


「えぇ、そうよぉ。口内に行き渡らせるように良く噛んでねぇ。

 飲み込む時にはこっちの液体を使うのよぉ」


 小皿と共に置かれた透明なコップを指差す真美。

 その口ぶりから、コップの中身は水ではなく何かしらの薬液であろう事が窺える。

 正義がコップを持って左右に揺らしてみるが、粘度は普通の水とそう変わらないように見えた。


「もうええか? 臆病もん」


「ふんっ、ちょっと確認しただけじゃねぇか」


 源に急かされ、正義がコップをテーブルに置いて赤いカプセルを口元へ運ぶ。

 二人同時に口に入れて、分かりやすく大きく咀嚼してみせた。


「……かっら!?」


「あばっばあばっばばばば!?」


 口内全体を針で突き刺されるような痛みを感じる源と正義だが、穂波達四人が真剣な表情で二人を見つめている為、懸命に咀嚼を続け、口内全体に行き渡るように舌先を動かし、その上でコップの液体を口に含んだ。


「ぶーーーっ!!」


「げほごほがはっ!! すっっっぱ!! 何スかこの仕打ちは!?」


 源はコップの中身を吹き出し、正義はこれがイタズラだろうと問い質した。


「くくくくくっ…………。

 あなた達の覚悟は確認させてもらったわぁ」


「…………ようこそ、現実の世界へ」


 真美は笑いを堪えており、穂波はようやく決め台詞を言えた満足感に浸っている。

 ただし、穂波の顔は傍から見えると無表情ではある。が、よくよく見ると口角が若干上がっているのが分かる。


「じゃかあしいわい! おぬしらの頭かち割ってやろうか!!」


 そう激昂する源の唇は真っ赤に腫れ上がっている。


「すみません、お二人を試した事は謝ります。

 ですが、大事な事だったんでふふふっ……!!」


 源と正義の顔が真っ赤に染まっているのを見て、耐え切れずに艦治も吹き出してしまった。


「小僧、貴様もか!?」


 その後、何とか二人を宥め、目の前でワープゲートを開き、口内の治療の為に医療用ポッドへと案内したのだった。

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