126:裸の付き合い(女子高校生+α版)
まなみが男性陣と女性陣に分かれようと提案したのには訳があった。
「何だこれ。ベッドに虫が湧いてたのか?」
男性陣がコテージから出て行った後、ようやく部屋から出て来た恵美の首筋を見て、輝が赤くなっている肌を指差した。
「おねえ、それキスマークだよ」
「……キスマーク?」
女子大生の姉が知らない愛情表現の一種を、何故か女子中学生の妹が知っていた。
彩が輝に懇切丁寧に教えていると、輝の顔が見る見るうちに真っ赤に染まった。
「輝さんって純粋だね」
「そうだねー。何となくそういう話は得意な方だってイメージがあったよー」
望海と恵美がわたわたしている輝を見て、苦笑を浮かべている。
≪とりあえず病院に行こっか。そのままにしとくとかんちと良光君が気を遣っちゃうだろうからさ。ついでにエステを受けながら、仮想空間で夜のお作法の授業を受けようよ。私はもう受けたけど、聞いておいて損はないよ!≫
まなみが望海・恵美・輝の四人で設定している電脳通話のグループ通話で話し掛ける。
≪わわわ私も聞いて良いものなのか!?≫
≪もちろん大丈夫だよ。でも彩ちゃんにはバレないようポーカーフェイスでお願いね!≫
彩がおませである程度の知識があるだろう事が分かったが、内容が内容だけに彩には伝えない事にした。
動揺している輝を彩にバレないよう、まなみが彩の手を引いてワープゲートをくぐる。
「キスマークをわざわざ治すって聞いたら、皆驚くか怒るかするんだろうねー」
医療施設に移動し、第二手術準備室へ向かった恵美を見送った彩が呟いた。
「……先に、行こう」
まなみ達は医療用ヒューマノイドの案内で個室へ入り、更衣室でそれぞれ施術用ガウンに着替えた。
五つ並んだ施術用ベッドに寝転び、医療用ヒューマノイドがアロマオイルを焚いてマッサージの施術を始める。
「終わったー。こっちで着替えるのかな?」
うっ血箇所の治療を終えた恵美が、医療用ヒューマノイドに連れられて個室へ入って来た。
すでに施術用ガウンに着替えているので、そのままベッドへ上がる。
「頭皮マッサージがすごく気持ち良い……」
「あんまり分かんないかなー」
輝はとろんとした表情でマッサージを受けているが、彩はそうでもないようだ。
「彩ちゃん、どこか別の場所で時間潰す? 司に案内させるよ?」
まなみが彩を施術している医療用ヒューマノイドを遠隔操作し、何かしたい事があるかと尋ねる。
「おにい達はまだサウナにいるんです?」
「えーっとね、今は裸で川遊びしてるって。行っちゃダメだよ?」
「行かないですよ……。
でも、そうだなぁ。流れるプールでぼーっとしてようかな」
彩は施術用ベッドから降りて、ナミが出したワープゲートでプールの更衣室へと移動した。
≪じゃあこのまま仮想空間に移動するよ≫
まなみ・望海・恵美・輝は現実世界ではエステを受けたまま、意識を仮想空間へと潜らせた。
「お待ちしておりました。雅絵と申します」
真っ白な空間に、施術用ガウンを来た雅絵が立っていた。
「ごめんね、お休みなのに」
「いえ、いつでもお声掛け下さいませ」
まなみと雅絵が親し気に会話をしているが、望海と恵美と輝はそれどころではなかった。
「え、誰?」
「おじさんが寝てるー」
「ふふふ不審者!? 不審者がいるんだが!? 裸の男がいるんだが!?」
謎の男のアバターが全裸で寝転がっているのを見て、輝がパニックに陥る。
「落ち着いて、それはただのアバターで誰も入ってないから」
「そういう問題じゃないだろう!?」
まなみが輝をなだめようとするも、なかなか落ち着かない。
「かんちの裸を見られるのは嫌だし、良光君でも亘君でもそうだろうなぁと思って、雅絵ちゃんの元カレのアバターを用意したんだ。直接触れなくてもレッスン自体に問題はないから、気にしなくて良いよ」
目の前の全裸男性が雅絵の元カレだと判明しても、何の解決にもならない。
輝は博務のアバターに背を向けたままキャーキャー言っている。
「人の元カレは良いんだ……」
望海はまじまじと博務の身体を観察している。
「あの、おじさんって言ってすみませんでした」
「いえいえ、気にしないで下さい」
恵美は雅絵に謝っている。
雅絵としては、改まって謝られた方がダメージが大きいのだと感じていた。
「じゃあ目隠ししたら良い?」
「そういう問題ではないと思うが、とりあえずそれで頼む」
まなみが輝の訴えを聞いたところ、自分達が裸に近い格好をしているのに、男の目があるのがとにかく嫌なのだろうと判断し、博務の目をアイマスクで目隠しする事になった。
キャーキャー言う割にはこの場から離れようとはしないんだなぁと望海は不思議に思った。
「でも、プールで輝さん思い切りはしゃいでましたよね?」
「プールなんだから水着なのは当たり前だろ?」
「え?」
「え?」
望海も輝も、お互いの主張にいまいちしっくり来ないようだ。
「雅絵ちゃん、始めちゃって」
そんな二人を放置して、まなみが秘密のレッスンを開始させた。
「それでは始めさせて頂きます。まず……」
「うわぁ」
「へー」
「キャー! キャー!!」
「そんな」
「大胆」
「キャー! キャー!!」
輝は騒ぎつつも、しっかり最後まで秘密のレッスンに参加したのだった。




