123:体験シミュレーター
「鉄パイプ振り回すゾンビとか反則ですよ!!」
生存者がゼロになってしまったので、『七日間生き残れ!』は初日の夜を迎える事なくゲームオーバーとなってしまった。
「ごめんごめん、家の中でまなみがゾンビ化しちゃったからさ」
艦治が彩に言い訳にもならない理由を話すが、望海と恵美はそれだけで納得してしまった。
「井尻君がまなみちゃんを殺せる訳ないもんね」
「ゲームとは言え、出来る訳ないよねー」
ゾンビ化した艦治とまなみは、身体強化スキルや棒術スキルなどをフル活用して生存者を狩って回った。
痛覚が非常に弱く感じるようにゲーム内設定されていたが、人が人を鉄パイプで殴るというのが何かしらの規制に引っ掛かりそうな光景だった。
「スキルがゲーム内でも有効とかチート過ぎんだろ」
「そうだね。ナギ、次から無効にしてゲームシステムに準拠するようにしてくれる?」
「了解致しました」
インプラントにインストール済みのスキルを仮想空間内でも適用されていたので、ゲームバランスが崩壊してしまっていた。
ただ、仮想空間内のゲームは基本的に現実の身体能力や特殊技能などを再現する設定が多いので、あながちズルい訳でもない。
「もう別のゲームしようぜ!
彩、もうホラーじゃなくても良いだろ!?」
輝は敵対キャラに対して攻撃が出来るとはいえ、やはりホラーゲームは苦手だったようだ。
「ナギ、ゲームの一覧を表示してくれる?」
中空に仮想空間内で楽しめるゲームのタイトルと種類、簡単な説明が表示される。
「スポーツゲームは? バスケとかサッカーとか」
輝が提案したスポーツは、対戦しようとすると今いる八人では試合にならないが、仮想空間なのでCPUが足りないメンバーを操作してくれる。
「走り回るのはちょっと」
ゲームによって設定が違うが、スタミナや疲労度のメーターが存在し、実際にしんどく感じるように設計されているので、彩が難色を示した。
「じゃあ野球は? ただ打つだけで、ピッチャーとか守備とかは自動でやってくれる感じのヤツ」
艦治が提案したのは、リアル野球盤という形態のバッティング対決だ。
攻撃側と守備側に分かれ、CPUに指示を出して球を投げさせ、攻撃側がそれを打つ。
打たれたとしても、守備はCPUがやってくれるので気軽に楽しめる。
攻撃側も、投げる球がどのあたりを通過するか中空に表示される設定を選べる為、バッティングが苦手なプレーヤーでもそれなりに打てるようアシストしてくれる。
「でも自分の番が回ってくるの結構待たないとダメじゃない?」
まなみが、もっと良いゲームがないか探し始める。
「空飛ぶカーレースがあるぞ!」
「嫌だ!」
良光の提案は亘に拒否された。
「じゃあ車の運転シミュレーターはー?」
「車の運転か。今はよほど好きな人しか自分で運転しないもんね」
恵美も望海も、人が運転する自動車に乗った事がない。
「この地球から脱出するゲームは?
核ミサイルが飛んで来る前にスペースシャトルに必要物資を積んで燃料を補給して行き先を設定して乗り込み地球を脱出するって書いてあるよ」
「高けぇとこ行くヤツは亘がNGだからなぁ」
彩の提案を良光が否定したが、亘としてはスペースシャトルに乗ってみたいなぁと思っていたりする。
良光が自分の為を思って選択から排除してくれた手前、それがしたいとは言い出せないでいる。
「この牧場体験やってみたいなー。
馬の世話したり牛のお乳絞ったり出来るやつー」
「お、それは良さそうだね」
恵美が提案した牧場体験シミュレーターに亘が興味を示し、さらに詳しい説明を確認する事となった。
「牛や馬の出産に立ち会えるって何気にすごくねぇか?」
「確かにすごいとは思うけど……。
僕は乗馬体験がしてみたいな」
「この羊の毛刈り体験がしたい!」
「あー、確かに面白そうではある」
話し合いの結果、皆で牧場体験シミュレーターをプレイする事となった。
「わはは! めちゃくちゃ楽しいぞこれ!!」
「おねえ、誰も見てないよ?」
「彩もやってみるか?」
「私はいいからおねえがやりな?」
青空の下、牧場の一角で羊をころんころん転がして専用のバリカンを使って羊を毛を刈って喜んでいる輝を、彩が冷めた目で見つめていた。
「はぁ、カップル共はタンデムで乗馬体験してるってのにおねえは羊の毛を刈って喜んでるし……」
艦治とまなみ、良光の望海、亘の恵美がそれぞれ二人乗りで乗馬しており、しっかりデートを楽しんでいる。
「白馬に乗った王子様が乗馬のお誘いに来るような設定はないのかな」
彩がゲーム設定のウィンドウを出して、モード選択画面で面白いものがないかを探す。
「ん? 鹿? 牧場で鹿なんて飼ってるっけ?」
気になった彩が鹿モードを選択すると、彩自身が鹿になってしまった。
≪おねえおねえ、何か鹿になったんだけど≫
鹿になった姿を見せようと輝に走り寄る鹿(彩)だが、手前で止まる事なく勢いのまま輝にぶつかってしまった。
「えっ!? うわぁぁぁ!!」
鹿(彩)にぶつかられた輝が重力センサーを無視するかのように盛大に吹き飛ばされ、小屋に突っ込んでしまった。
≪何これめっちゃ面白いんだけど!!≫
楽しくなってしまった鹿(彩)が、カップル達が乗馬デートしている方向目掛けて走って行った。




