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超巨大宇宙船が落ちて来てから十八年が経ちました:今日からあなたが艦長です!!  作者: なつのさんち
二〇四七年

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121:VRホラー体験

「夏と言えば、肝試しでしょ!!」


 艦治(かんじ)達がバーベキューを終えた後、シャワーを浴びて着替えた(あや)が皆に肝試しをしようと誘った。


「肝試しって言われてもなぁ。

 そんな区画ってあるの?」


 艦治が神州丸(しんしゅうまる)もしくは鳳翔(ほうしょう)内にそんな区画があるのかナギに尋ねるが、答えはノーだった。


「しょうがないじゃないか、ないんだから! なっ!! なっ!!」


 (あきら)が嬉しそうに彩の肩を叩くが、その表情はすぐに絶望に染まる事となる。


「ですが、仮想空間であれば様々な種類の恐怖体験を取り揃えております」


「えー? でも私インプラント入れてないんですよ?

 インプラントなくても仮想空間にフルダイブ出来るんです?」


「可能です」


 ナギが中空にスクリーンを表示させ、医療用ポッドに似た装置を映し出す。


「専用のスーツを着用した上でこのポッドに入る事で、仮想空間へフルダイブする事が可能となります」


「え? それって、法律的にはどういう扱いになるの?」


「仮想空間にフルダイブする事を規制する法律はないんじゃないかな?」


 (わたる)の言う通り、インプラント埋入(まいにゅう)手術を受けられるのは十八歳以降というだけで、十八歳未満の人物が仮想空間にフルダイブしてはいけないという決まりはない。

 さらに言うと、一同がいるのは鳳翔であり、日本の法律は適用外だ。


「じゃあ私でも仮想空間に入れるんですね? やったー!!」


 現状、フルダイブ型のVRゲームは、神州丸(しんしゅうまる)でしかサービス提供する事が出来ない。

 サーバが神州丸にある以上、日本の法律でVRゲームに対する規制や適性年齢設定などを行う事が出来ないので、彩を止める理由がない。


「おねえ、一緒に肝試ししよっ!」


「絶対に行かない!!」


 しかし輝は大の怖がりで、ホラー映画やホラーゲームなどを避けて生きて来た。


「でも迷宮(ダンジョン)は大丈夫なんでしょ?」


「あれは殴れるからな」


「えーっと、仮想空間内でも殴れるホラーならいっぱいあるんじゃないかな」


 ホラー映画ならまだしも、ホラーゲームであれば幽霊や襲ってくる化け物を物理で殴る事が出来る種類のものも存在する。

 輝が余計な事を口にした艦治をキッ! と睨むが、殴れるのであれば問題ないかという気持ちに傾き始めている。


「一回やってみてダメだったら別のゲームにすれば良いじゃん。

 私でも仮想空間に入れるって分かっただけでも収穫だよ」


「うーん、まぁやってみるか。

 でもちゃんと殴れるヤツにしてくれよ?」


「見繕ってみます」


 ナギが複数のホラーゲームを候補として挙げていく。


「幽霊よりもゾンビの方が良くないー?」


「……どっちでも」


「確かに幽霊よりゾンビの方が現実味が少なくて良いかもだね」


「何度銃で頭を撃っても立ち上がってくるゾンビゲーはなしで!」


「あんまり薄暗くないヤツが良いな。あと突然音で驚かせるのもなし。それと仲間と分断されて強制的に一人にされるのもなし。あとあと臭いのとねっちょりするのもダメ。わー!! って来るのは良いけどそろりそろり音もなく近付いて来るのもダメだし……」


 恵美(えみ)、まなみ、望海(のぞみ)、彩、輝がナギが挙げたゲームから徐々に候補を絞っていき、最終的には荒廃した街の中で拠点を作り、軍隊が助けに来るまで七日間生き残るというゾンビもののゲームに決定した。


「結局暗くなるヤツになったんだが!?」


「明るい時間もあるんだから大丈夫でしょ」


 しかし、輝と彩は自分達以外はカップルであるという重大な事実を忘れてしまっていた。



 ゲームセンターのある区画へと移動し、まだインプラントを入れていない彩と(わたる)が更衣室でフルダイブ用スーツに着替えた。

 医療用ポッドに良く似たフルダイブ用ポッドに彩と亘がそれぞれ入り、インプラントの手術を済ませている者達は、ベッドがある場所へと移動する。


「じゃ、また後で」


「……何だか妙な気分なんだけど」


 ダブルベッドが用意してある個室が複数あり、艦治とまなみが何の躊躇いもなくその個室へ入って行くのを見て、望海が眉を顰めた。


「そんなんじゃねーから平気だろ」


 良光(よしみつ)が艦治達の隣の個室へ入ろうとすると、その腕を輝ががしっと掴んで止めた。


「何だよ」


「私、一人なんだが」


「は?」


「ホラゲをしている間中、一人きりになってしまうんだが」


 艦治とまなみ、良光と望海が同じベッドで寝転んで仮想空間に入ると気付いた輝が、自分は一人きりになってしまうという重大な事実に思い至ってしまった。

 

「ゲーム中は八人一緒に遊ぶんだから良いだろ」


「よち君、おねえが一緒に寝てあげても良いんだぞ?」


「小さい頃の呼び方止めろよ! 姉貴が怖いだけじゃねぇか」


 ボーイッシュでサバサバした姉御肌タイプの輝だが、どうしてもホラーは苦手なようだ。

 今も良光の腕に爪を食い込ませながら、涙目でぷるぷると震えている。


「じゃあ私と一緒に入りますー?」


 ここは譲るべきか? と悩んだ表情を見せている望海に配慮して、恵美が輝に一緒のベッドを使おうかと申し出た。


「そうか! スマンが助かる!!」


 恵美の言葉を聞いて、輝が瞬時に抱き着いた。

 小さく手を合わせる望海に笑顔を見せて、恵美が輝を連れて個室へ入って行った。


「……輝さんと入るのでも良いかなぁって考えてたでしょ」


「いやだってまだリアルで二人きりでベッドに寝た事ねぇしさ」


「ベッドに寝転ぶだけなのに緊張する必要ないでしょ」


 そう言った望海の顔を良光が覗き見ると、ほんのりと赤く染まっているのが分かった。

 緊張しているのが自分だけではない事を確認して、良光は望海の手を握った。


「んじゃまぁ、行くか」

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