120:分け合う
≪顔合わせは日曜日の十一時からだって≫
≪了解≫
艦治とまなみは雅絵からの報告を聞いた後、良光達に合流する前に神州丸の第一特別手術準備室へと移動し、医療用ポッドに入った状態で仮想空間で色々と楽しんだ。
その後、シャワーで身体を流してから身支度を整えて、皆がいる鳳翔へと移動した。
「お待たせ」
「おう、先に始めさせてもらってんぞ」
良光と望海、亘と恵美が浜辺でバーベキューを楽しんでいた。
輝と彩は早々に食べ終わり、すでに海中でクジラやイルカと戯れている。
家事ヒューマノイドが控えているが、自分で焼くのが楽しいという事で、良光はトングで肉をひっくり返していた。
「で、どんな用事だったんだい?」
「聞くな聞くな。巻き込まれんぞ」
亘は艦治とまなみが、何かしら神州丸もしくは日本に影響するであろう話し合いをしていたと予想した上で尋ねている。
そんな亘を良光が止めたのだが、亘は何を今さらといった表情で良光を見つめる。
「僕らは秘密結社の初期メンバーなのだろう?
艦治やまなみさんだけに抱え込ませるのは悪いじゃないか。
僕らが聞かないのであれば、何の為の秘密結社なんだい?
艦治の負担を皆で分け合う為だろう?」
「そーだよ。ここでお肉を食べさせてもらってる以上、私達も知るべき事を知ってないとだよねー」
亘と恵美は当然であるかのように主張する。
「まぁ僕がわざわざ口にしなくとも、良光は分かってるだろうけどね」
「良光君、私は大丈夫だよ。
私も覚悟の上だし、まなみちゃんを放ってはおけないから」
「……そんなつもりじゃねぇよ」
良光は望海の事が気がかりだったが、そこまで言われてしまっては、本人の意思を尊重するしかない。
「で、どんな話だったんだい?」
亘に促され、艦治が口を開く。
「実は、僕が探索者として得た報酬を全額、両親が勤めてる神総研に寄付をしていたんだ。
その寄付金は、両親の研究のみに使ってほしいってお願いしてたんだけど、横流しされてる事が分かったんだよね」
「はぁっ!? 何だよそれ!!」
野菜をひっくり返していた良光が、持っていたトングを網に叩きつけてしまう。
「物に当たらないで。ほら、ちょうだい」
「あっ、すまん」
良光のトングは望海に奪われてしまった。
「で、僕の寄付金以外にも両親の研究予算も横流しされている事がナギの調べで分かってさ。
で、誰が関わってるのかを辿ると、その予算や寄付金が神総研の理事を通じて国会議員に渡り、最終的には例のあの国に流れてる事が分かった」
「あー、やっぱりそういう噂って本当なんだねー」
恵美が焼けているお肉を新しい取り皿に移して、艦治とまなみへと渡した。
「ありがとう。
で、さすがに腹が立ったからさ」
艦治がお肉をタレに付けて、口へと運ぶ。
「正規ルートからも裏ルートからも、神州丸からの資源などその他諸々含めて例のあの国へ流れないようにストップを掛ける事にしたんだ。
その結果、何が起こったでしょうか?」
咀嚼しながらも、艦治は後ろに控えていた心乃春を遠隔操作して話を続ける。
「急にクイズみたいにすんなよ……」
心乃春(艦治)の口調に良光が呆れる。
「あぁ、このヒューマノイドを艦治が操ってるって事か。
ふむ……、国会議員が例のあの国に怒られた、とかかい?」
「違います。亘、お手付き」
お手付きを食らった亘は、焼けた肉をタレに付けて口へ運ぶ。
「じゃあ、日本に向かってミサイル飛ばすぞって脅して来た?」
「違います。蒼井さん、お手付き」
「残念」
望海が焼けた野菜を艦治とまなみの皿へと入れてやる。
「いーっぱい食べなっせ」
「……ありがとう」
恵美が新しいお肉を網に乗せながら、答えを考える。
「わざわざ誰かが井尻君とまなみちゃんに知らせに来るくらいだからー、よっぽどの事があったって事かなー?
あ、例のあの国のトップが殺された!!」
「おしい! トップじゃなくてー?」
「息子の方だー!!」
「正解! 藤沢さん一ポイント!!」
心乃春(艦治)が焼きおにぎりにする前の白ご飯のおにぎりを恵美に渡す。
「肉焼いてる時に人が死んだ話すんなよ!」
良光が食欲をなくしてしまい、皿とお箸をテーブルに置く。
「それほどかい?
あんまり実感というか、身近な話ではないから何とも思わないけどな」
亘は気にならないようで、引き続きもりもりとお肉と白ご飯を食べ続ける。
「でも、その次期指導者が亡くなったきっかけが、井尻君が例のあの国に対する締め付けを強化するよう指示した事、なんだよね。
なるほど、これが負担を皆で分け合おうっていう事なんだね」
改めて実感したのか、望海が自ら口にした言葉を噛み締めている。
「正直に言って、僕は何とも思わないんだ。次期指導者が死のうが、現指導者が死のうが。
でも、これがどんどん当たり前になって行くのは違うなって思っててね。
だから、良光にはこれからも僕に対してツッコミを入れてほしいと思ってるし、みんなにも僕がおかしいと思ったら素直におかしいって言ってほしい。
じゃないと、歯止めが利かなくなっていって、この世界を恐怖で支配してしまうかも知れない」
艦治は自らの口で、皆に見張っていてほしいとお願いをした。
「……それでも、良い」
「まなみちゃん、それはさすがにダメだよ。
井尻君は止めてほしいって言ってるんだからね?」
望海がまなみにツッコミを入れると、まなみがにこっと笑みを浮かべた。
「……まなみちゃん?」
望海がまなみの肩に手を置き、その顔を覗き込む。
「……何?」
まなみの顔はまた、無表情へ戻ってしまっていた。
目線を送られた艦治は、望海へ大きく頷いて見せた。




