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超巨大宇宙船が落ちて来てから十八年が経ちました:今日からあなたが艦長です!!  作者: なつのさんち
二〇四七年

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116/167

116:世界の敵

 艦治(かんじ)からの具体的な説明を聞いた治樹(はるき)は、呆然とした表情で宙を眺めていた。


「信じるかどうかは父さんに任せるよ」


「……お前を疑うつもりはないよ。

 それに、ここまで言うって事は、証拠は全部揃ってるんだろ?」


「もちろん。まぁ僕はナギに調べてもらうようお願いしただけだけどね」


 テーブルの特別椅子に座っているナギが、ペコリと頭を下げる。

 ナギが調べた結果という事は、それは真実であるという事に等しい。

 治樹は今まで娘の為、妻の為に突き進んで来ただけに、やるせない気持ちに苛まれる。


「…………お前の気持ちは分かった」


 治樹はぐったりとした表情を隠さず、艦治を見つめる。


「でも、お母さんに打ち明けるタイミングは俺に任せてくれないか?

 もちろんちゃんと伝えるし、お前を待たせ続ける事はないようにする。

 だから、その時は、頼む」


 艦治が治樹に大きく頷いて見せる。


「僕だって治奈を救いたい。それだけは分かっておいてほしい」


「もちろんだ」


 治樹は帰宅した理由である二人分の着替えの用意を心乃春(このは)から受け取り、研究所へ戻って行った。



「はぁぁぁ、疲れた。まなみ、来てくれない?」


「……来た」


 今まで心乃夏(このか)を遠隔操作して父子の様子を窺っていたまなみが、ワープゲートをくぐって井尻家へとやって来た。

 艦治はまなみを抱き締めて癒しを求める。まなみは何も言わず、ただただ艦治の頭を撫でた。


「ふぅ……、ありがとう。

 まなみが見てくれているってだけで勇気がもらえたよ」


≪いつでも見てるよー。どんな時でもねーーー≫


「それはそれでちょっとアレだけど」


≪それでさ、あの男はどうするの? ナギの報告ではどんどん衰弱してきてるらしいけど≫


 治奈と艦治を轢いた男は、治樹に伝えた通り今も神州丸(しんしゅうまる)の治療施設内の医療用ポッドの中で延々と自分の車に轢かれ続けている。

 時間にして数十秒の場面を五感フルで追体験している為、精神的にボロボロな状態になっている。

 それに加え、艦治は男に対して何故このような仕打ちにあっているのかを説明していない。

 男の中ではすでに自分は死亡しており、地獄に落ちたと思っているかも知れず、生きる活力をなくしてそのまま死亡する可能性まで考えられる。


「うーん、どうするのが良いのかな。もう元の生活に戻してやる気はないからなぁ。

 死んだらどうしよっか。ナギ、何とかなる?」


「全てお任せ下さい」


 ナギは男が失踪した経緯など、すでに裏工作にて準備が完了しており、事件化する事なく男の存在を消す事が可能だ。


「じゃ、とりあえずこのままで良いか。別に謝ってほしい訳じゃないしね。

 それと、神総研の上役もそれと繋がってる理事も政治家も、父さんと母さんが望めばまとめて攫っちゃおう。その先の国もペナルティを受けてもらわないとね」


「全て手配可能です」


「あ、国は先行しても良いか。別に理由なんていらないよね。

 向こうだって僕らに恨みがある訳でもこちらに原因がある訳でもなく金を搾取してた訳だし。

 だから一方的に報復しても良いよね」


 そこまで言い切って、ふと我に返る艦治。


 自分と妹を轢き、のうのうと生きている男に対して憎しみがあるのは当然だが、司法ではなく自分が男の事を裁いても良いのか。

 見た事も会った事もない神総研の理事を、政治家を、自分が断罪して良いのか。

 何も知らない多くの一般国民に負担を強いて良いのか。

 

 そんな罪悪感が自分の中にある事から目を逸らしていても、不意に沸き上がってしまう。


「……僕は一体何様なんだ。

 これって、良くない事だよね」


≪そんな事ないよ。日本の法律ではもう男を裁く事は出来ない、と思う。けど、かんちにはそれが出来るんだから良いじゃん。別に無差別に攫った訳じゃないし、自分の利益の為にやった訳でもないし≫


「そうだけどさ……」


≪かんちが悪い方向に行きそうになったら、私もご両親も、うちのパパママも全力で止めるよ。でも、やってる事が間違ってないと思ったら、私はかんちの共犯者になってあげるよ≫


 あくまでも、世間一般の常識に照らして考えるのではなく、まなみ達の倫理観、そして都合によって判断する、という意味だ。

 艦治にとって、共犯者という表現は非常にありがたい事であり、そして精神的に負担を与えられる事でもある。

 自分の行いで、周りが揃って手を汚す可能性もある。その分、自分が常に自分自身を律しなければならない。


「んっ……」


 まなみの言葉を聞いて怖気付きかけた艦治は、自分を奮い立たせるかのようにまなみの口内へ暴力的に侵入する。

 そして、そのままテーブルへ押し倒そうとした。


「……ここは、嫌」

 

 そんな艦治の肩を両手で突き放し、まなみが身を捩った。


「ごめん! つい……」


「……場所を変える」


 謝る艦治の腕を取って、まなみが廊下へ連れ出す。そして階段を上がり、艦治の部屋へと入って行った。



「はぁ……、明日から一週間テストなのに……」


「……もう一回?」


 艦治の部屋、狭いベッドの上で抱き合う艦治とまなみ。


「いやさすがにもう無理……。

 もう一時回ったしもうこのまま寝ようよ……」


「……仮想空間」


「また今度ね……」


「……言質取った」


 艦治はまなみを抱き締めたまま、眠りに落ちて行った。


「かんちはそんなに思い詰める必要はないんだよ?

 全部私が許してあげるし、全部私が背負ってあげるからね?

 かんちには私も皆もいるから、安心して世界を敵に回して良いんだよ」


 艦治の寝顔を撫でつつ、まなみも目を閉じるのだった。

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