表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
超巨大宇宙船が落ちて来てから十八年が経ちました:今日からあなたが艦長です!!  作者: なつのさんち
二〇四七年

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

115/167

115:真実

「それは、いつの話だ?」


「十日くらい前かな。別件で許せない事をした人間がいてね。自分が加害者になった事柄を仮想空間で被害者目線として体験させたんだ。何度も何度も三日間じっくり。でも全く反省してなかったよ。ただ表面だけ取り繕って僕らから逃げ出しただけ。後は自分の欲を満たすべく他国の庇護に入ろうとしたみたいだけど今は情報を抜き取ろうとされてるところ。多分もう内面は壊れてるよ」


 艦治は懲役三日の刑を受けさせた飛馬(ひゅうま)詩歌(しぃか)が、全く更生していなかった事から、罪に対する罰を与えても無意味であると受け止めた。

 その事をきっかけとして、自分を轢いた男が今どうしているのかをナギに調べさせたところ、意外な事が判明した。


「ナギに調べさせたらまだ富士市に住んでたんだ。事故を起こす前と同じ生活を送ってた。僕らを轢いた車は誰かに盗まれたものだって組織ぐるみで隠蔽してたよ。警察の中の反インプラント派だか反神州丸派だかの協力を得てね」


 そして男は今も、港付近で神州丸に対する抗議活動を続けている。


「僕がインプラントを入れに行った日に同じ男に轢かれかけたんだ。車道に飛び出した男の子を助けた時にね。その男は僕らにクラクションを鳴らして走り去って行ったよ。治奈と僕を轢いた事を全く後悔してないんだ。反省していないんだ。覚えてさえいないかも知れない。ナギの調べで同じ男だと判明したから攫ってもらったんだ。神州丸(しんしゅうまる)でインプラントを入れてもらって今も自分が運転する車に轢かれ続けてる」


 息子が坦々とした口調で告白するのを聞いた治樹(はるき)は、何を言う事も出来ない。


 本来であれば自分達が警察に引き渡し、正式な裁判を通して罪を問うべきだった男だ。

 自分達が治奈の命を優先させた為、男はつい最近までのうのうと暮らしていた。

 その事を知り、怒りが込み上げると共に、そうさせたきっかけは、自分と妻であると思い至る。


「すまない、俺とお母さんが……」


「それは違うよ。僕は一度も二人を恨んだ事はない。僕を置いて治奈を連れて神総研に行った事も理解出来る。ホントだ。男は見逃がされた訳じゃなく自ら逃げたんだ。自首だって出来たし自らの罪に押し潰されるような気持ちになった可能性だってある。でもあいつはそうじゃなかった。罪悪感なんてなかったんだ。だから今僕が罰を与えてる」


 男は艦治の為に救急車を呼ぶ事はしたが、それは艦治にとっては些細な事でしかない。

 治奈と艦治の方から車道へ飛び出したとはいえ、事故は事故なのだから。自分に落ち度がないと思うのであれば、きちんと警察の取り調べを受け、裁判で戦うべきだったのだ。


 艦治にとって、男が逃げた事実が最大の罪として映っている。


「そいつをどうするつもりだ?」


 男の今後の扱いについて聞く治樹だが、艦治にとってはどうでも良い事だ。

 艦治は深呼吸をした後、お茶を一口飲んでから、また話し始める。


「それより、治奈の事を話したい。

 正直に言って、治奈の状態を見ない事には神州丸の技術でも蘇生可能かどうか分からないらしいんだ。

 だから、治奈を神州丸内に移送させたい」


「待ってくれ! そんな、突然言われても……」


「突然じゃないよ。僕は待っていた。父さんと母さんから打ち明けられるのを。

 でも、二人は僕からも、治奈からも逃げたままだった」


 艦治に頼み、神州丸の技術で治奈を蘇生させられる、かも知れない。

 しかし、蘇生させられない、かも知れない。


 艦治に打ち明けた時点で、治奈の死が確定してしまうのを、治樹は恐れていたのだ。

 それならばいっそ、一生掛けても終わる事のない研究を続け、未来の誰かに娘を託してしまいたいと、無意識で願ってしまっていたのだ。


「それに、治奈の意識が戻ったとして、法律的な年齢は十四歳なのに、外見も精神年齢も五歳のままで……」


「そんな事、治奈を蘇生させた後に考えれば良くない?

 僕ならどうだって出来るんだよ。日本の法律を変えるよう圧力を掛ける事も、治奈の為だけの小学校を建てる事も、二度と事故に遭わないよう守ってやる事も、全部出来るんだ」


 艦治の言葉を聞いて、治樹は黙ってしまった。


 艦治に頼んでしまえば、治奈の命がどうなるか、確定してしまう。

 万が一にも蘇生は不可能である確率があるならば、頼む事など……。


「さっき、父さんは僕の寄付金を一円たりとも余す事なく使っているって言ってたよね?」


「……?」


「僕の口座からの送金履歴がある。父さんの電脳OSに画像として送っておくよ」


 治樹の電脳OSに、艦治が神総研の寄付用口座に送金した履歴全てが送られた。


「誰が研究費を切り盛りしてるのか知らないけど、金額を照合する事をオススメするよ」


「ちょっと待て!? それって……」


 それ以上の言葉を、治樹は口にする事が出来なかった。


「ナギに全部調べてもらった。父さん達の研究費が足りない原因を」


 そもそも、治療用ポッドを地球文明で再現するなどという重要な計画において、予算が足りないなどという事が発生するのだろうか。

 疑問に思った艦治がナギに調べさせたところ、意外というか意外でもないというべきか、ある事実が判明した。


「後は自分で調べてよ」


「いや、調べる時間がおしい。そんな時間があるなら研究を進めたい」


 治樹が暗に教えてくれと伝える。



「神総研の理事の一人が特定の政治家と繋がってて、僕の寄付金も父さん達の予算も、横流ししてある国に流れてる」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ