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超巨大宇宙船が落ちて来てから十八年が経ちました:今日からあなたが艦長です!!  作者: なつのさんち
二〇四七年

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011:「今日からあなたが艦長です!」

「色々と聞きたい事があるんですが……」


 呆けたままの艦治(かんじ)に代わり、良光が小さく手を挙げた。

 ナギは良光の顔を見て、どうぞと頷いて見せた。

 それを見て、良光は自分も相手にされている事を確認し、小さく息を吐いた。


「先ほどからカンチョウと言っておられますが、それはこの宇宙船の艦長と言う意味でしょうか?」


「はい、その通りです」


 ナギの返答を受けて、良光が顔を強張らせる。


「宇宙船の艦長……、神州丸の最高責任者って事?」


「仰る通りです」


 艦治の呟きを拾い、ナギがその両手を握り締める。


「今日からあなたが艦長です!」


「はぁ……、はぁっ!?」


 ようやく自分がナギからこの宇宙船の艦長として扱われている事を理解した艦治が、背を仰け反らせてソファーにもたれ掛かる。

 このタイミングで、医療用ヒューマノイドの一人がアイスコーヒーを乗せたお盆を持って戻って来た。

 艦治と良光は礼を言って、一気に飲み干した。


「あの……、一応確認なんスけど、じゃなくて確認させて下さい、頂きたい、えっと……」


「普通に喋って頂いて結構ですよ」


 一国の外交大使を相手にどんな話し方をすれば良いか分からなかった良光だが、ナギが気を遣う必要はないと伝える。


「ありがとうございます。

 確認なんスけど、こいつの名前が『艦治』だから、この宇宙船を任せるのに相応しい、とかそんなしょうもない理由じゃないスよね……?」


 良光は艦治の両親が、宇宙船『神州丸(しんしゅうまる)』を手に入れるほどの大物になってほしいという理由で名付けた事を知っている。


「名前など些細な問題です。

 私が井尻艦治様を自らの主、そしてこの船の艦長と仰ぐのは、前艦長の遺言が理由なのです」


 前艦長、そして遺言という単語を聞き、良光が疑問を口にする。


「この宇宙船唯一の乗組員である艦長は、眠っていると聞いてるんスけど」


「正確には、眠ってしまわれた、です」


「……つまり、コールドスリープ状態から復旧出来ないのではなく、すでに永眠されてるって事っスか?」


 良光がそんな訳がないと思いつつ投げかけた言葉に対し、ナギが大きく頷いて見せた。


「前艦長である三ノ宮(さんのみや)伊之介(いのすけ)は、天寿を全う致しました」


「三ノ宮、伊之介……? それって、現地の言葉を日本風にしている訳ではなく……?」


「はい。三ノ宮伊之介はラニアケア超銀河団、局部銀河群、天の川銀河、太陽系第三惑星、地球で生まれた日本人です」


 艦治と良光に対し、ナギが一から丁寧に説明を始める。



 三ノ宮伊之介は妻と共に子にも孫にも恵まれ、幸せな人生を過ごした。しかし妻に先立たれてしまい、大きな喪失感を抱いてしまう。

 いつまでも塞ぎ込むのは良くないからと、子供達から宇宙船を贈られ、気ままに宇宙旅行を楽しんでいた。


 ある時、宇宙空間で突然発生した次元乱流に巻き込まれ、宇宙船は別の宇宙へと飛ばされてしまった。

 元の宇宙へと戻る術を探すも空しく、伊之介は八十九歳で寿命を迎えてしまう。

 そしてヒューマノイド達へと残した遺言が、思うまま好きに生きるように、という内容だった。


 この宇宙が元の宇宙の並行世界である事を突き止めていた為、この宇宙にも地球があるかも知れないと考えたナギは、長い年月を掛けてこの地球へと辿り着いた。

 地球へと着陸する前に事前調査を進めると、どうやら伊之介が生きていた頃の地球よりも時代がかなり前である事が判明した。

 いきなり宇宙船が飛来するよりも、危機的状況に陥った宇宙船が墜落して来る方が平和的接触を取りやすいのではと考えた為、十八年前に日本領海の駿河湾沖約五キロ地点へと着陸(墜落)したという事だった。


「この地球の西暦に直すと、伊之介さんが生きていた地球はどれくらい未来の話なんスか?」


「おそらく三千年から五千年ほどかと思われます」


 良光があまりにもすんなりとナギの説明を受け入れるので、艦治は一人混乱したままでいる。


「いやいやいや、何で良光は理解出来るの!? 子供から宇宙船を買ってもらったとか、次元乱流だとか、並行世界とか、訳分かんないでしょ!?」


「いや、そこらへんはまだ俺も呑み込めてない。でも何かあるなぁとは思ってたしなぁ」


「何かって何だよ!?」


「昨日神州丸でお前の眼鏡が壊れた後から、近くにいる支援妖精達がみんなお前の事を見てたからな。

 理由は別として、お前が神州丸に目を付けられてるっぽい事は感じてた」


「何で教えてくれなかったんだよ!?」


「言ったらお前、来るの止めるかも知んねぇじゃん。

 それに、悪い事にはならねぇだろうって思ってたし」


 小学生の時の事故以来、とても慎重で臆病な性格になってしまった艦治に、良光は歯痒い思いをしてきた。

 せめてVRの世界ではのびのびと全力で遊んでほしいという想いがあったので、常日頃から十八歳になったらすぐにインプラント埋入(まいにゅう)手術を受けようと誘い続けていたのだ。


「何だよそれ……」


「でも、違和感が確信に変わったのはテオを貰った事だ」


「支援妖精を?」


「そう、俺は昨日教室で藤沢に言ったんだ。妖精ガチャはライオンが良いって。

 全部見られてたし、全部聞かれてたんだ。このナギさんに。探索者が連れてる支援妖精の目と耳を通じて」


 良光の推理を聞いて、ナギと医療用ヒューマノイド達が一斉に拍手する。


「「「「「お見事です、良く気付かれましたね」」」」」


「それめっちゃ怖いんで止めてもらっていいっスか?

 あと、割と誰でも気付いたと思うっス」

初日の投稿はここまで。

明日から一日三回投稿の予定です。

よろしくお願いします。

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