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超巨大宇宙船が落ちて来てから十八年が経ちました:今日からあなたが艦長です!!  作者: なつのさんち
二〇四七年

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109:落ちる

「おぉ、ありがとう」


きゅわきゅわ~~~!


 (わたる)が湖に飛び込んだ際に外れてしまった眼鏡を、イルカ(ナギ)が見つけ、咥えて亘へ返した。

 亘と恵美(えみ)は桟橋に掛けられた梯子を上り、湖畔のロッジへと戻った。


 玄関で待っていた望海(のぞみ)が、胸を腕で隠している恵美に尋ねる。


「水着でしょ?」


「……亘がエッチな目で見るからー」


「否定は出来ないけど肯定するのも違う気がする……」


 望海は恵美が亘のTシャツの裾を掴んでいるのを見て、二人の距離が縮んだ事を知る。


「えっと、おめでとう?」


 ナギから受け取ったバスタオルを掛けてやりながら、望海が恵美を祝福した。


「ありがとー」


 望海に礼を言う恵美を見つめ、不思議そうな顔をする亘。


「……何か良い事あったかい?」


「あったよー。亘と友達以上恋人未満になったー」


 彼氏を振り、涙と鼻水を流しているところを見られているので、恵美は亘に対して今の感情を隠さず、真っ直ぐに自分の気持ちを伝える事にした。


「あー、そうか。うん、分かった。

 お付き合いを前提に、仲良くして下さい」


「こちらこそ、よろしくー」


 律儀に恵美の気持ちを受け止める亘を見て、望海は二人は上手く行くような気がした。



 恵美と亘がびしょ濡れになったので、勉強を中断して皆で屋内プールのある区画へと移動した。

 ウォータースライダーや高飛び込み用の台、スキューバダイビング練習用の深いプール、サーフィンが楽しめる造波プール、温かいジャグジーなど、様々な種類のプールが用意されている。


「え、めっちゃ長くね?」


 良光が目の前にある流れるプールを見て呟く。


「全長三キロだって。途中に色んな仕掛けがあるみたい」


 艦治がそう説明するが、艦治自身も来るのは初めてだ。


 男性陣はハーフパンツの水着を履いただけだが、女性陣は水着の上からパレオを着たり、ラッシュガードを着たりして露出を控えめにしている。


≪水着似合ってるよ≫


≪ありがとう! また今度二人だけで来ようね!!≫


 艦治は変に女性の水着姿を見たり、感想を言ったりするとややこしくなるだろうと思い、まなみにだけ伝える事にした。


 艦治とまなみ、良光と望海、亘と恵美、輝と彩がそれぞれゴムボートに乗り込み、流れるプールを進んで行く。

 艦治とまなみはすでに一線を越えており、良光と望海は仮想空間のみではあるが経験済み。亘と恵美は今日からお互いの事をより深く知っていこうと決めたところ。


「何か仲間外れになっちゃってない?」


 ゴムボートに乗って(あきら)に後ろから抱えられている(あや)が、不満を口にした。


「何が?」


「だって、さっきまで千石(せんごく)さんはフリーだったのに」


「あんたにはまだ早いって」


「おねえだっておにいに抜かされてんじゃん」


「ばーか。こういうのは早いとか遅いじゃないんよ。

 いつか運命の人が現れるからさ、どしっと待ってないと変なのに捕まっちゃうぞ?」


 輝はボーイッシュでさばさばした性格だが、割と乙女ちっくな一面も持っている。


「そういうもんかなぁ。

 ねぇ、あれって滝じゃない? プールの先がないんだけど!?」


「へー、やっぱ普通のプールとは違うんだな!」


「ちょ、私達だけ滝の方に向かってるじゃん!!」


 流れるプールはところどころで進路が分かれており、滝に落ちたり、渦に飲み込まれたり、坂を水流で押し上げられて宙に投げ出されたりと、様々なアトラクションが用意されている。


「「わぁぁぁーーー!!」」



 輝と彩が滝に落ちた頃、望海はゴムボートの前に座り、背中を良光に預けていた。


「ねぇ、何か当たってるんだけど」


「……仕方ねぇだろ? こんだけくっついてんだからよ」


「昨日あんなにしたのに」


「朝大変だったんだぞ!? びっしょびしょだったんだからな!!」


「……すごい臭いだったね」


「うわー! 穴があったら入りてぇ!!」


 そんな二人のゴムボートは、渦に引き寄せられてぐるぐると回り始める。


「良かったね、ちょうど良い穴があったみたいだよ」


「穴には違いねぇけど!

 って結構勢いあるな、ちゃんと捕まってろよ」


「うん!」


 ゴムボートがどんどん加速し、最後には渦の中心に飲み込まれてしまった。


「「わぁぁぁーーー!!」」



 亘と恵美が乗ったゴムボートは、他の組よりもぎこちない雰囲気が流れている。

 お互いを深く知り、いずれは恋人同士になる事を意識し出した二人。

 だからといって、他の組のようにべったりとくっつくのは少し躊躇われる、そんな微妙な関係だ。

 先ほどは素直な気持ちを言い合えたとはいえ、今は二人きりで身体が密着するかしないかのぎりぎりの状況だ。

 お互いこのような状況に置かれた経験がある訳でもなく、自分の心臓が急かすように大きく鼓動しているのを感じ、気だけが焦ってしまっている。


 そんな二人が乗るゴムボートが、上り坂に向かっているのを亘が気付いた。


「プールに上り坂があるのはおかしくないかい?」


「何があっても不思議じゃないよー」


「上り坂って事は、その先では落ちるって事じゃないかい?」


「そうかもねー」


「さすがにそれはまずいだろう……」


 ゴムボートが完全に上り坂ルートに突入し、両サイドと水底から水流で押されて勢いが増していく。

 亘がこの先の展開を想像し、覚悟を決める。


「嫌だったら言ってくれよ?」


 一言断ってから、亘は恵美の身体を抱き寄せる。


「嫌じゃないけど、恥ずかしいよ……。

 でも、しっかり支えてねー」


 恵美が亘の腕に自らの腕を絡ませる。


「ああ、離さないさ!」


 そして、上り坂の頂上に到達したゴムボートが、水流によって勢い良く射出される。


「「わぁぁぁーーー!!」」

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